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ロートル記者の就活日記 #3

 いざ面接に臨む

 2月20日午前、A市の市史編さん専門員を選ぶ第二次試験の面接が市役所であった。会場に隣接する控え室で出番を待っていると、一次試験を通ったもう1人の若い女性が先に面接を終え、退室していった。担当職員から今後の日程などを聞かされている彼女の受け答えの声色は少しく高揚した調子で、何やらやり切ったような充足感をうかがわせる。

 試験官は4人おり、3人が横一列に机を並べて僕と対面し、残り1人は右脇で3人と直角に机を置いて席に着いている。机の配置はちょうどL字を時計回りに90度回転させ、さらに反転したような形だ。右脇の試験官がまず志望動機を尋ねる。「1分以内で」と注文され、妙に緊張してしまう。前職の経験を生かし、地理分野で正確な記録を残して災害時に市民の命を守りたいといったようなことを多少つかえながら答えた。

 僕の真正面の面接官は地理学者らしかった。元大学教授で市史編さん室の顧問なのかもしれない。僕が地理学の知見を援用して編んだ山田町の震災記録誌のことを知っていて、さらに執筆陣の先生方とも親しいという。世間は狭い、いや、地理学界は狭いというべきか。 

 答案に突っ込み入る

 「この、地理学だけでなく、ほかの分野とも有機的に連関して市史を編さんすべきだ、というのをもう少し詳しく説明してください」。僕が一次試験の答案に最もらしいことを書いたものの、あまり実感がこもっていない部分を突っ込まれたなと思った。ジャーナリズムやほかの自然科学の手法を取り入れて、などとさらに分かったふうなことを答えてお茶を濁す。

 僕から向かって右の面接官は担当の学校教育課長、左は総務課長だろうか。僕の被災地での経験や市史編さんに対する意気込み、健康状態などについて質問があった。「自治体の刊行物の常識やセオリーにとらわれず、人の心にいつまでも残る市史を作れれば」などと抱負を述べて、正味30分間の面接試験を何とか乗り切った。 

 若者の将来か、中年の蛮勇か

 面接官は若い女性の将来と可能性に賭けるのか、それとも50代の僕のキャリアや蛮勇を買うのか。合格発表は5日後の25日である。

 試験の翌々日の明け方、夢を見た。僕は大学時代の友人たちと賑やかに酒を飲んでいて、就活で苦戦している近況をみんなに伝えている。酔って、女友達の一人に「就活で大変な全国の中高年にエールを送ってくれ」と絡み、「国は定年を65歳に引き上げるのだから、中高年雇用枠を制度として確立し、従わない企業を指導すべきだ」などとしきりにオダを上げるのだ。

 ロートル記者の、明日はどっちだ。

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