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#97 ずっと待っていた人が、やってきた

お金を出しても買えないものがある。それは「時を超えたストーリーのある出会い」だ。今日は、2001年からずっと会いたいと思っていた人と、22年後の今年、思いがけず知り合えた話だ(ヘッダ写真はこちら)。



母の叔父の誘い

子どもの頃、母の叔父がよく家に遊びにきた。その叔父がある日、「トオル、明日の日曜日、一緒に高野山へ行くか!」と誘ってくれた。高野山は和歌山県にある。しかしその日は、父と一緒に神戸・三宮へ出かける約束をしていた。後ろ髪を引かれる思いでその誘いを断り、父と出かけた。でも実際は、多分高野山へ行きたかったのだと思う。おそらく10歳前後だった。大学進学で関東へ出たので、あれから40年間、大阪、奈良、三重と、和歌山県を囲む三県は訪ねたが、和歌山県は一度も訪ねていない。

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訳もわからず夢中になったドラマ

2000年3月に大学院を修了、4月に教員となった。僕が勤めていた学校では最初の一年は担任を持たないことになっていたので、初めて担任を持ったのは2001年4月だ。そして、半年後の2001年10月1日に放送開始となった、NHKの連続テレビ小説『ほんまもん』に、夢中になった。テレビをほとんど見なかった自分が、なぜこのドラマにそれほど惹かれるのか、全く分からなかった。
 担任を持つようになって忙しかったにも関わらず、全151回の放送のうち、実に一回しか見逃さなかった。何がそれほど魅力的だったのかは、結局自分でも最後まで分からず、ひょっとしてあれは未来へのメッセージだったのかもしれない。

物語の紹介は上のサイトに任せるとして、3つの要素が印象的だった。
 一つ目は、千住明さんが作曲、千住真理子さんが演奏したオープニングをはじめとする素晴らしいヴァイオリンの音楽。今もその音楽を聴きながら書いている。
 二つ目は、ドラマのストーリーで大きな役割を果たした精進料理。この番組で精進料理に興味を持ち、後に音楽業界に入り、海外から団体のお客様をお迎えした時には、日本文化紹介の一環として、鎌倉の精進料理のお店にお連れした。
 そして三つ目は、このドラマが和歌山県の美しい自然をバックに描かれていたことだ。このドラマの放送終了2年半後の2004年7月、熊野古道は世界遺産に登録された。いつかドラマの舞台を訪ねたい、と強く思った。

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好きなものは、とことん

僕は気が長い人だ。言い方を変えれば、「あきらめが悪い」とか「根気強い」と言うこともできる。例えば、テレビで見てすっかり虜になった、メリル・ストリープとロバート・デ・ニーロ主演の1984年の映画『恋に落ちて』(Falling in Love)。印象的な舞台となった、ニューヨークの42丁目グランド・セントラル駅をいつかきっと訪ねてやるぞと決めたのは、小学6年生だった1985年だ。
 その夢は、16年後の2001年の夏に叶えた。1997〜1998年にオーストラリアに留学していた頃も、部屋の壁に「いつか訪ねる場所!」としてその場所の地図を貼って思い続け、教師として就職した2年目の夏、映画の舞台を歩いた。僕の中では、何かを叶えるのに「10〜20年待つ」はごく普通のことだ。

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連続テレビ小説『ほんまもん』の放送終了後は、美しい和歌山の景色に惹かれて、多くの観光客がドラマの撮影地を訪ねている、とニュースで知った。しかし、僕は周囲と同じことをするのは好きでない。
 「20年くらい経って、みんながこのドラマのことを忘れた頃に行こう」と思い、どこにでも一人で行きたがるくせに、『ほんまもん』の舞台を訪ねる時は、「地元和歌山の人に案内してもらおう」と決めていた。それから22年、まだ一度も現地へは行けていない。

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少しずつ近づいてきた……

ドイツへ来る前に働いていた会社で、新卒で入社してきたあるエンジニアと仲良くなった。いろいろ話すと、なんと彼は和歌山大学出身であることがわかった。「20年後に行こう」と決めていた時期が近かったので、「会うべき人に会えたのか?」と思った。その彼もこの note をフォローしてくれている。
 話してみると、彼は和歌山大学と大学院で学んだ人だったが、関東出身だった。それでも、「運命の歯車は近づきつつある、次にきっと来る」という確信を得た。それが2021年のことで、ドラマからぴったり20年後のことだった。

思い続ければ、きっと叶う

それから2年後、僕は上の会社を退職し、ドイツへやってきた。『ほんまもん』の舞台を訪ねる夢は少し忘れかけていた。そんな今年8月のある日、note のある記事にコメントが届いた。記事を読んだことはあるものの会ったことはない人で、いきなりコメントを頂いて、少しびっくりしたのを覚えている。
 9月17日にデンマークで行われる、「コペンハーゲン・ハーフマラソンに出ます」と僕が書いた記事に、「ゴール地点でのお出迎えはできませんが、応援しています!」という思いもよらない嬉しいメッセージだった。

その人は、マラソンの直前までデンマークに住んでいて、かつ和歌山県出身の人だった!マラソンの開催地であるデンマークと和歌山が一致するという、とんでもなく低い確率をくぐり抜けて、会うことができた。『ほんまもん』でヒロイン役を演じた池脇千鶴さんとは、年齢こそ違うものの、『ほんまもん』出演当時の彼女と、面影が少し似ているような気がする。

NHK連続テレビ小説は、本作がハイビジョン撮影移行前の最後の作品となった。『ほんまもん』以前の、和歌山県を主な舞台とした作品としては、1988〜1989年の『純ちゃんの応援歌』(山口智子さんデビュー作)がある。

人は、不思議な一致やめぐり合わせを経験すると、人生は自分で生きているだけではなく、大きな流れの中で「生かされている」に違いないと思うようになる。今回の出会いは、その思いを新たにしてくれた。大きな流れの中では与えられたものを謙虚に受け取り、受け取ったその環境の中では自分の意思で人生を切り拓く、その姿勢が大切だと思っている。

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千住明さんが作曲した、『ほんまもん』のテーマ曲は、22年越しで出会えた彼女のイメージとぴったり重なる。ライセンスの関係か、ネット上では千住真理子さんのオリジナルのヴァイオリン演奏が見つからないので、クラシック・サックスの筒井裕朗さんのソプラノ・サックスによる同曲の演奏をお聴きいただきたい。楽器こそ違うが、原曲の情感が見事に表現されている。

多くの人が言ってきたセリフだが、この世に偶然なんて、何もないと思う。ずっと大切にする人が、また増えた。とてもしあわせだ。

今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️🍩🕯️
(2023年12月7日)

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