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母親失格

恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、母親のあり方というものが、見当つかないのです。

本来であれば、ママ友などを作り、公園デビューなどするところなのでしょうが、コミュ障の自分にはそれができませんでした。
そのため、現代の母親という姿がどのような人間であるかが、皆目見当もつかないのです。

これはある晴れた日の出来事です。

その日はとても天気のよい土曜日でした。

湿度は低く、からっとした気持ちの良い土曜日です。
私は昼寝から起きて、散らかった部屋の掃除をしていました。
白いマルチーズとトイプードルのミックス犬が我が家に来てからというもの、あちらこちらに落ちたあらゆるものをそのマルプー(名前はポッキーと言います)が口にしてしまうので、掃除の手を抜くことができなくなってしまったのです。

その日も、まだ家事がいくらか残っていたので、私は珍しく家事を遂行することに決め、愛犬ポッキーの散歩を長男にお願いしました。

「いいよ」と長男は二つ返事で答えると、いそいそと散歩の準備をしました。
黒いパーカーと黒いアディダスの二本線が入ったジャージを履き、逃げ回るポッキーにリードをつけます。

あとはビニール袋やティッシュや水筒か何かを用意していました。私は長男が散歩の準備をするのを、手を動かしながら見守っていました。

長男は散歩の支度を終えると、愛犬ポッキーと家を出ました。

そして、2、3分後。
玄関がガチャリと開く音がするのです。

私は何か忘れ物でもしたのかと思いました。
しかし、そうではなかったのです。
散歩は終了とのこと。

「え?! もう帰ってきたと?!」
私と夫が驚いて、息子に尋ねました。

「いや、だって、ポッキーが家に戻りたがるけん」
長男は仕方ないという顔をして、すべてを愛犬のせいにし散歩をすぐに切り上げたことを弁明しています。
「コイツはそういうやつなんだよ!」
と私と夫は丁寧にポッキーの散歩への姿勢を説明しました。

ポッキーは家が見えるとすぐに家に帰りたがります。
しかし、ちょっとすればまた歩き出して散歩をするのです。
まだうちに来て二週間ですし、散歩を始めてから日も浅い。そのため、散歩の作法というものがまだ理解できていないのです。
私はとつとつと息子に説明しました。

夫はというと、荒っぽく説明をし息子の握っていたリードを奪い取り、
「はあ。もういい。俺がいく」
と呆れ顔でポッキーを散歩に連れ出しました。

一方で息子はというと、
「そんなこと知らんし。もう二度と散歩やらいかん」
と腹を立てて、二階の自室へと戻って行きます。

ああ、めんどくさい。
勝手にしてくれよ。
しょうもないことで喧嘩しおって。

と私が思わないわけがありません。
私はどちらの肩を持つでもなく、その後も黙々と家事を続けました。
正確に言うと黙々とではありませんでした。
全く部屋を片付けない次男を怒鳴り散らしながら、かなりヒステリックな状態で次男に部屋の片付けを強要したのです。

夕飯時になり、私は長男の部屋をノックしました。
コンコンと2回鳴らして、ガチャっとドアノブを回してドアを開けます。

「ごはんだよ。今日は手巻き寿司にしたけん、一緒に食べんと具がなくなるよ」
私は精一杯の優しい声色で、長男に声をかけました。

長男はベッドの上でゲームをしており、私の声かけに全く返事もしません。
まだ、へそが曲がっているのでしょう。
しかし、食事の時間になってもヘソを曲げて降りてこないとなると、今度は逆に夫が怒りそうだなと私は考えました。

本来であれば自分の機嫌は自分でとるべきです。
けれども、非常に、そしてこのとてつもなくしょうもない親子喧嘩に付き合う気がない私は、取り急ぎの対処療法として、息子の機嫌を取ってしまうことにいたしました。

私は布団の上から長男の上にダイブして、ワキをくすぐります。
「やめろ!」
と息子は声を荒らげますが、その声の中には笑い声が混じっていました。
となれば、そこまでヘソは曲がっていないことがわかりました。

私はここぞとばかりにこなきジジイばりに、長男の上にのしかかります。

「おもいって!!」と長男が言うので、
「おもしろいの略ですね?」と私が返答すると、
「重たいの略たい!」と長男が笑いました。

「うざいって!!」と再び長男が言うので、
「ウンザリするほど美しいの略ですね?」と私が返答すると、
「ウザったいの略たい!」と長男が笑いました。

私はあと一押しだなと考えました。


その時「だるいって!!」と長男が言いました。

だるい?

私は一呼吸あけて、
「ダルビッシュってすごいですねの略ですね?」と返答しましたが、
あまりの脈絡のなさに思わず「今のは苦しかったね」と言いますと、
長男はハハハと笑ってくれました。

私にはわかりました。
それが同情の笑いであることを。

母親、失格。
もはや、私は、完全に、母親では無くなりました。

息子に気を遣わせてしまったのです。
あまりの自分のセンスのなさに辟易します。
これでは、彼の母親を名乗る資格などありません。

私はことし、四十三になります。
あまりに面白くないnoteを書くので、たいていの人から白い目で見られます。


その後食べた、手巻き寿司はとても美味しかったです。
刺身にはとびっこを乗せて食べました。
大人になってからとびっこが好きになりました。
とびっこ美味しいなぁと思います。

人間失格は読みました。タイトルだけ拝借しました。深い意味はありません。すみません。

毎日noteを上げるばかりが、noterではない。








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