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資生堂がTVCMを止めるらしい|TVCMとネット広告についてあらためて考えてみた

こんにちは、さるこじといいます。

先日、ネットの記事で中々衝撃的な記事がありました。
化粧品大手の資生堂が広告をデジタルにシフトし、TVCMをはじめとする広告への出稿を限りなく0に近づけていくという内容です。

第二四半期の決算報告でさらっと発表されていましたが
個人的にはかなりのインパクトのある内容だと思いました。

ちなみにこの件、Twitter上でもあまり大々的には話題になっていないのですが何故でしょうか…
皆さん「まあ、いつかはこうなるよね」と思っていたからなのでしょうか。

資生堂がTVCMを止めることで何が起こるのか

個人的にはTVCMを「減らす」と「0にする」では大きな違いがあると思っています。
減らすだけであれば両者のメリットを最大限生かせるように割合と内容を調整していけばよいかと思うのですが、0にする場合にはTVCM特有のメリットをデジタルで代替していかなければいけないことになります。
現状、TVCMの圧倒的な人口カバー率認知拡大への寄与度はいまだ代替できる他メディアは見つかっていません。

資生堂ほどの規模の企業になると、ある程度全方位への認知率を高めシェアを維持・拡大していくことが求められるでしょうから、これから化粧品のメインユーザーになる世代はデジタルネイティブだからSNSやYoutubeで広告を打てば良い、という単純な話ではないはずです。
資生堂の中で何かしら「TVCMによる認知をデジタルで置き換えられる」という勝算が無ければTVCMを限りなく0にしていくという判断はできないのではないかと思います。
つまり、TVCM独自のメリットだと思っていたことがデジタル広告でもできてしまう可能性がある、ということです。
もし、その方法がうまくいくことが資生堂によって証明されてしまうと、業界・企業規模問わず、一気にTVCM離れを加速する可能性があるのではないでしょうか。

そもそも化粧品業界というのは、市場規模に比べて広告宣伝、特にこれまではTVCMへかけていたコストが非常に大きいことが特徴です。
以下は2019年上期のCM出稿量の多い業界ランキングですが、化粧品は7位に入っています。

関東地区の、商品種類別CM総出稿量ランキング(2019年1~6月)は以下の通り。
※カッコ内は前年比
1 通信・web系サービス(118.7%)
2 普通乗用車(105.1%)
3 郵便・電信・電話(100.7%)
4 住宅・建材総合(86.4%)
5 生命保険(103.0%)
6 他の金融(108.4%)
7 他の化粧品(98.7%)
8 他の食品(105.7%)
9 損害保険(102.9%)
10 飲食業(100.2%)

これだけ見るとまあ多いほうかな、という感じですが、実は他の業界に比べて市場規模が圧倒的に小さいのが化粧品です。
例えば、8位の食品は2018年の市場規模が23兆円弱(加工食品のみ)であるのに対し、化粧品は約2.6兆円の市場規模1/9程度の市場規模しかありません。
いかに売り上げに対する広告宣伝費の比率が高いかがわかります。
それだけ化粧品は認知・ブランディングが重要で、これまではその部分をTVCMに大きく依存してきています。
市場規模は小さな業界ですが、化粧品業界のトップ企業がTVCMを止めることは大きなインパクトを与えるのではないでしょうか。

ちなみに「TVはオワコン」としきりに言われていますが、2019年の時点ではこのような記事も出ています。

資生堂がTVCMを止める理由

資生堂も2017年の時点では、TVCMとデジタル広告を融合させて両者のいいところどりをしていくという戦略を打ち出しています。

ここから急に、デジタル偏重へ舵を切ったのにはどのような背景があったのでしょうか。

ひとつは「#たおりゅう」の成功が、デジタルへのシフトの決断を加速させたと考えています。

「#たおりゅう」とは、女優の土屋太鳳と俳優の横浜流星が恋人同士に扮して更新される、架空のカップルアカウント(いま高校生や大学生のカップルのあいだで流行っている共通アカウントのこと)。24歳の幼稚園の先生の「たおちゃん」と、22歳のお花屋さんの「りゅうくん」が、同棲して間もない初々しい日常をお互いに投稿しあっているという設定になっている。そうしたふたりのささいな日常の投稿の合間に、レシピストがプロダクトプレイスメントされているのだ。

「#たおりゅう」でプロモーションしている「レシピスト」は若年層向けのブランドでデジタルとの相性がよかったこともあるでしょうが、インスタを中心にプロモーションし、TVCMを一切打たずに「TVCM並みの認知がとれた」との記載もあります。
ROI(費用対効果)も悪くなかったようですし、決算報告の資料内でも「デジタルに移行することでプロモーションのROIを高める」という記述がありますから、この「#たおりゅう」の一件はデジタルへの移行の判断に大きな影響を与えていると考えていいでしょう。

さらに、アメリカのD2Cコスメブランド「ドランクエレファント」を買収したことにより、D2Cに対する知見もより社内に蓄積されています。
また、結果としてサービス停止にはなってしまいましたが、
「オプチューン」の展開によって得られた「パーソナライズドコスメ」に対する情報もデジタルシフトしていくうえで重要になるのではないでしょうか。
オプチューンのサービス停止についてはこちらで考察しています。

まとめ|資生堂は大手ならではのD2Cのカタチを模索しているのかもしれない

以前、こちらの投稿で
「D2Cとは顧客との双方向のコミュニケーション」
「大手も難しい部分はあるが、大手なりの双方向のコミュニケーションを模索するべきでは」
と書いたのですが、まさに資生堂は「大手ならではのD2Cのカタチ」を模索しているのではないでしょうか。

スタートアップ企業のD2Cは、「LTV(顧客生涯価値)」を最大化することが求められますが、大手企業ではブランド認知を高め「シェア」を最大化することが必要になります。
スタートアップがやってきたD2Cは、「シェア」を重視する大手にとっては必ずしも効率がいいとは言えず、そのまま真似しようとしても上手くいかないでしょう。
しかし、資生堂は「シェア」をデジタルで取っていく方法論を模索し、大手ならではのD2Cのやり方を検討し、ROIの高い新たなプロモーションのカタチを作っていこうとしているのではないでしょうか。

今後資生堂がどんなプロモーションをしていくのか注目してみていきたいと思います。

では。

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