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「アルプスの画家」セガンティーニゆかりの地を巡る# 忘れられない旅


暇を極めると、あなたは何をしますか?



わたしはアートに目覚めました。



今回の記事は、スイスで生活していたときの#忘れられない旅の旅行記と同時に、「アート×旅」の企画をプレゼンするもの。たまにはテーマがある旅もよいと思って。



金無しニートはスイスで絵に目覚めた



4月までスイス暮らしをしていた。

夫の駐在についてきたため、わたし自身はニートだった。スイスでは物価が日本の3倍ほどで、なにをするにもとてつもなくお金がかかった。


マックもビックマックのセットは2500円。
ブラックのいちばん安いコーヒーは1杯1000円。
カフェに行くと、ケーキとドリンクのセットでも3000円は軽く超える。


しかも美味しいかは食べてみないとわからなくて、美味しいと評判の店でも微妙な時が多かった。


お金のかからない散歩を毎日していた。
散歩をして、もってきた水筒でお茶を飲み、ベンチで休む。完全にお金のない人の過ごし方だったし、毎日歩いていたら足首を痛めた。



散歩にも行けず、友達もいない。
そんな暇を極めたときに、出会ったのがこのYouTubeチャンネルだった。




山田五郎さんという評論家が絵の解説をしてくれるチャンネルで、絵の時代背景まで丁寧に説明してくれる。1つの動画が40分ほどで長尺だが、飽きることなく見続けられた。
どっぷりハマって、好きな話は何度も見た。


そしてわたしは自ら課外学習を始めた。

チューリッヒ美術館【邂逅】



わたしが住んでいたチューリッヒには、チューリッヒ美術館があった。水曜日は無料で開放されているので、気楽に行くことができた。


何度も足を運んだ美術館で、毎回かならず見る絵があった。

「アルプスの牧草地」
ジョヴァンニ・セガンティー二



この旅は、チューリッヒのチューリッヒ美術館でセガンティーニと出会うことから始まる。


セガンティーニは、イタリア生まれで、スイスアルプスに魅了された画家だ。スイスの牧歌的な風景画をたくさん書き、スイスで亡くなったため、スイスの美術館にはセガンティーニの絵が多い。


セガンティーニは山に魅せられて、山に住んだ。そして住処をどんどん標高の高い場所に変えた。


屋外で絵を描いたため、絵の色彩がやたら明るいのが彼の絵の特徴だ。


まるで絵自体が発光しているかのようなセガンティーニの絵は、いつ見ても引き込まれる。セガンティーニの見た景色をわたしも見てみたい。その想いは日に日に強くなった。


「アルプスの真昼」
まさにスイスを象徴する絵のよう。



セガンティーニの数奇な人生もぜひ知ってほしい。▼


サン・モリッツ【巡礼】



エンガディン地方の中心地、スキーリゾートの定番、サン・モリッツに門外不出の傑作が置いてあるセガンティーニ美術館がある。
そしてその周辺にセガンティーニがアルプスの景色を求めて移り住んだ場所があるとわかった。



サンモリッツは1年で322日晴れるという、雨ばかりの冬のスイスにはぴったりのお出かけ先だった。



チューリッヒから電車で3時間30分でサンモリッツに到着。この土地では、まずは深呼吸をすること。

「サン・モリッツに着いてまずやるべきことは深呼吸。”シャンパン気候”として有名なサン・モリッツの空気を味わおう。

まさか炭酸水が湧出しているせいでもないだろうが、本当に泡の中で光の粒が弾けるような爽快感がある。」

なんと地球の歩き方からの抜粋
小粋な文章


さくっ、日本とは違った軽やかな雪を踏み締めながら、久しぶりの太陽光を楽しむ。

−7℃の1月のサン・モリッツ
サンモリッツ湖畔にて



駅からバスに乗り、セガンティーニ美術館に着いた。雪が深く積もった森の中にあるこじんまりした、石造りの美術館。

門外不出の三部作、《生》《自然》《死》が入り口からすぐのホールに飾られていた。
大きいホールは三部作のみ飾られている贅沢な空間の使い方をしていた。
この美術館は、セガンティーニ自らが設計した建物で、山の光の下でこそ輝く絵だから、天窓がつから三部作にあえて光があたるような作りになっている。

客は数人いるのみ。心地良い静けさの中でセガンティーニの絵を鑑賞できた。


ちなみに《生》はこれから向かうソーリオという村付近で描いたものだ。


そして今度はバスを1回乗り継いで、スイスとイタリアの国境近く、ブレガリオ谷の最奥のソーリオ村を目指す。

ソーリオ村はローカルバスに揺られて、1時間30分のところにある。
マローヤ峠を越えるもの凄い急勾配のため、対向車に自分の存在を知らせるために軽快な汽笛を鳴らす。

バスは途中、マローヤ村を通過する。
マローヤ村はセガンティーニが晩年過ごした村。
マローヤにもセガンティーニのアトリエが保存されている。冬は閉館していたので、断念。

マローヤ村からソーリオ村は歩くこともできる。

伝われ、この急勾配。
もはや名物の急勾配バスの旅
向かう先は通称「天国への入り口」。
バスがこわすぎて、別の意味で「天国の入り口」かも。


ソーリオ村【天国への入り口】



リルケ・ヘッセ・ニーチェ・新田次郎(日本人!)など多くの文豪や芸術家たちの心を虜にしたソーリオ村。


なかでもセガンティーニは「天国の入り口」と呼ぶほどその美しさに魅了されていた。
セガンティーニは、普段はマローヤ村で生活していたが、冬になるとあたたかいソーリオ村に移り住んでいたという。


当時の姿をとどめる石造りの小さい村。
20分もあれば、村を一周できるほど小さい。


ソーリオ付近はヨーロッパ最大の栗林があり、栗がとれるので、栗粉を使ったパンやパスタ、ケーキが名物で楽しみにしていた。


17世紀に建てられた名門貴族の館を1876年にホテルとして創業したというホテル「パラッツォ・サリス」は一目見ておきたかった。
セガンティーニも愛したというホテル。
ソーリオに宿泊するなら、絶対ここで、と決めているホテルだ。


ソーリオ発の自然派化粧品ブランドである「ソーリオ・プロダクツ」も楽しみだった。ローカル化粧品も旅のお楽しみのひとつ。



なんと冬は店もホテルもなにも空いていなかった。



セガンティーニは冬をソーリオで越したのに、現代人は冬にくるもんじゃないなんて...。


シオーラ山郡と中世の街並み

今回はセガンティーニもかつて見たというこの景色を堪能するだけに留めた。
再び、この村に戻るのを楽しみにしながら。



さて、この素晴らしい旅のネックは、ソーリオ村がかなり行きずらい場所にあることだ。
バスに長時間乗るし、乗り換える必要があるし、本数は少ないしで、スイスに住んでいたわたしでさえ、ちゃんと着けるかなとヒヤヒヤした。


もしツアーで行ければ安心だし、せっかく訪れたのに、来る時期を間違えた、ということもない。



スイスの美しい隠れ里、ソーリオ村のその澄み切った空気をぜひ感じてほしい。

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