サオリ

東京→鳥取/助産師/ことばと民藝がすき/執筆業、聞き書きをときどき。 雛形〈私の、ケツ…

サオリ

東京→鳥取/助産師/ことばと民藝がすき/執筆業、聞き書きをときどき。 雛形〈私の、ケツダン〉執筆。鳥取県・大山町、伯耆町、境港市、日野町 https://www.hinagata-mag.com/feature/tottoriseibu

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運命なんてものを、私は信じない。

「家族ってなんだろう」 それが知りたくて助産師になった。 家族のはじまる瞬間にたくさん出会ってきたが、 私にとって「あなたの物語」は、どこかリアルさに欠けていた。 そんな私が、ある日突然、母になった。 頭でわかっているつもりだった妊娠は、 決して皆から浴びせられる 「おめでとう」に応えられるばかりではなかった。 運命なんてものを、私は信じない。 これは、私がずっと知りたかった 「人が親になっていく過程」の記録である。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 自分

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    • 夜は終わりでなくて、はじまり

      一人目の子どもを出産した時に思ったのは、「夜は終わりでなくてはじまり」だということ。それまでは、夜は一日の終わりだった。布団で横になり、今日一日の疲れを癒してリセットする、ホッと一息つく時間。しかし、子どもが生まれると夜間も授乳がある上、夜間は日中と違い、暗くて寒い中布団から這い出て、家族を起こさないようにひっそりと授乳を重ねる、孤独な時間に変わった。今日はパッと寝てくれるだろうか、また夜が始まる…。そんなことを毎日考えていたように思う。 第二子が生まれて、今度は夕方が一日

      • 子どもの遊びに付き合うというあそび

        妊娠中、指が浮腫んで外していた結婚指輪を久しぶりにつけた。はめない状態に慣れていたため、授乳の度に、慣れつつある赤児の首を支える手つきの中でごろつき、違和感を感じる。これを当たり前につけていた頃は、まだこの子はこの世にいなくて、今と全然違う生活をしていたのだなと感慨深く思う。 赤ちゃん返りでオムツに逆戻りしていた3歳の上の子だが、ここ数日パンツに戻したところ、少しパンツに漏れるもののちゃんと「おしっこ出た」と言えて嬉しく思っていた。しかし、今日夫が仕事中に、私は赤児に授乳を

        • 産褥期、退院直後の記録

          上の子が、「○○ちゃんも持ちたい、1人で持ちたい」とひたすら赤子を撫でまわし、赤子の顔1センチの距離で豪快に咳をする。常にハイテンションで、テーブルの上に乗ってダンスをしてはジャンプを繰り返す。かと思うと、赤子に背を向けてiPadをひたすらつついている。かと思うと、暗闇で赤子とゆびきりげんまんしていたりする。情緒がジェットコースター。 授乳は、入院中は吸えていたのに乳房緊満が出てきたことでうまく吸えなくなり、赤子がギャン泣き。乳汁は分泌していても嫌がってなかなか吸いついてく

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        運命なんてものを、私は信じない。

          立ち会い出産の記録

          分娩に立ち会った夫の発言が新鮮で、「痛いーと言っているうちは生まれなくて、本当に生まれる時は、雄叫びをあげて獣みたくなるんだな…。あの雄叫びは、普段生活している時には見ることのない姿で、3年前のお産の時以来だ」と言っていて、なるほどなと思った。普段は共感力がやや少なめで、もう少しもだえ加勢してほしいな…と思うことも多い夫だが、お産のように自分が全く常態でいられない場面で、冷静に眺めてくれている人がいるのもいいかもな、と感じた。 今回は、運良く3歳の上の子どもも立ち会わせても

          立ち会い出産の記録

          臨月日記・ガッカリの頸管長4センチ

          週に一度の妊婦健診。今回は、予兆をひしひしと感じていたので、鼻息荒く健診に臨んだが、頸管長39mm、児頭もまだ高く覚悟していたグリグリ(卵膜剥離)も届かないためできず、ということですっかり肩透かしを食らう。先生曰く、「ちょっと長すぎるくらいしっかり閉まってますね」とのことで頸管の熟化を促す漢方を処方される。グリグリでお産が進んで、帰りの運転中に痛んできたら連絡するからね、と夫に息巻いて家を出てきたのに、がっかりと安堵と複雑な気持ちになる。開き直って、倉吉時間を楽しむことにする

          臨月日記・ガッカリの頸管長4センチ

          臨月日記・児頭下降の自覚

          PARADEさんでカレーを食べたら、「うちのカレー食べた翌日に出産になる妊婦さん、最近多いんですよ(真顔)」と言われ、その日の夜にえらく腹が張り、前駆陣痛が起こった先週の水曜日。予定日までまだあるなとたかを括っていたが、そこから妙に焦りだし、産まれるまでにと思っていたいろんなことに躍起になって向かった日々だった。あれから一週間が経つが、お子はまだお腹の中でぽこぽこ動き、内臓にジャブを入れてくる。 児頭が下がってきた自覚は出てきた。歩くと左足の付け根にもげるような痛みや恥骨痛

          臨月日記・児頭下降の自覚

          臨月日記・子どもの描く絵

          3歳になったばかりの子どもの描く絵が、どんどん変化していておもしろい。 ペンだと色鉛筆よりも鮮やかな色で描けるのが楽しいようで、最近はペンを好んで選ぶ。(それに伴い、ヨギボーや布団などの布物をらくがきから守るのに大人は必死)一心不乱に塗りつぶすのが今のお気に入り。顔は、目、鼻、口はクリアに描けるようになり、これに眉毛や涙やメガネ、手足らしき縦棒がオプションで加わる。 これは、2ヶ月前にようちえんの親子キャンプで初めてキャンプファイヤー🔥を体験した直後にひたすら量産していた

          臨月日記・子どもの描く絵

          愚痴と対話のあいだ

          丸一日鬱々と過ごしたら少しパワーが充電されたのか、今日は急に思い立って、子どもと2人で1時間もかかる場所へ出かけることにした。そうと決まれば、今日中にやろうと思っていたことを午前中のうちに済ませるべくテキパキと動き出す。天気も良く、汗もかきながら作業を黙々とこなす。私だって、やればできる。このやる気さえ起きてくれれば、別人のように動けるのだ。オンとオフの差が激しすぎて、自分の気持ちが追いつかない。 当日券で見ることができた公演は素晴らしく、ここへ来る決断ができた自分を褒めて

          愚痴と対話のあいだ

          お姉さんになる過渡期

          意欲に湧いていた数日前と違い、一気に気持ちが落ち込んでいる。何もするにも元気がでず、ほんの少しの家事と上の子どもの相手をしたのみで、一日が終わってしまった。この夏はずっとこんな状態が続いていて、夏の暑さのせいかと思っていたが、私のせいだったのか。 あと2週間弱で3歳になる子どもが、最近なかなか言うことを聞いてくれない。今日は、食事の時に「椅子が濡れているからふきふきして」と大泣き。どこが濡れているかわからず、それらしいところを拭いても泣き止まず、椅子から下ろそうにも大泣き。

          お姉さんになる過渡期

          終わりが見えた者の覚悟

          目が覚めたら、4時半だった。23時過ぎに寝たので、5時間以上寝続けていたことになる。目を疑う。こんなに長いこと継続して眠れたことは最近なかった。昨晩の、息を吸うだけでむせてしまう胸がつかえる圧迫感がスーッとなくなっている。昨夜から飲み出した新しい漢方薬(清肺湯)が効いたのか…?二週間近くステロイド吸入をしてもイマイチだったのに。まだまだ続くと覚悟していた苦しみが、思いの外早く消えて肩透かしを食うような気持ちと、解放されたのびのびとした気持ちが混ざる。ゴホゴホしていて行けるかど

          終わりが見えた者の覚悟

          臨月日記

          臨月に入ったら日記を書こう。1週間前くらいからそう決めて、胸の前で小さくカウントダウンしていたのに、いざ臨月初日は体調不良でとても文章どころではなく過ぎ去ってしまった。 臨月2日目の今日も、引き続く喘息様咳とそれに伴う左右の肋骨痛、33週頃から始まった恐怖の尿漏れで、よろよろと最低限のことだけなんとか済ませ、それ以外は床に伏していた。 最後の1ヶ月は、仕事やタスクは手放して自分の身体と向き合う時間にしよう。遅ればせながら本も読んで、マタニティライフを味わう時間にしよう。そ

          臨月日記

          ママの第3形態

          2歳の子どもが我々親を呼ぶ呼び方が、「ママ、パパ」だったのが、「ママちゃん、パパちゃん」にいつの間にか変化した。おもしろいなと思っていたら、最近「まーちゃん、ぱーちゃん」にさらに進化した。「まーちゃん」。サオリという名前の自分にとって、今まで呼ばれたことも呼ばれる予感すら一ミリもしなかった名前で呼ばれ、なんだかむず痒く、地味に嬉しい。 かつて、まみちゃんという友人が「まーちゃん」と呼ばれていて、なんてかわいくて甘い呼び名だとひそかに憧れていた。その呼び名で、自分が呼ばれる日

          ママの第3形態

          にしゃい、おめでとう

          子どもが、2歳になった。 「今いくつ?」と聞くと、手を1にして「いっしゃい!」と満面の笑みで言う我が子。「今いくつ?」の質問の意味をわかっているというよりは、こう言われたらこう答えるものだと信じ切っている様子だ。誕生日の前前日くらいから、ちょっとずつ練習しようと思い、「今いくつ?」と聞いて「いっしゃい!」と言って出したその手から、中指をひっぱり出し、「もうすぐ、2さい、ね」と言ってみる。無言の時間が数秒間続き、小さな声で「にしゃい……」とつぶやいている。「そうそう、2歳ね。じ

          にしゃい、おめでとう

          私の時間を搾取しないで

          「私の時間を搾取しないで」。 自分の意思に反して自分の立場や肩書きや活動が一人歩きして、私生活まで侵食してくることに、怒りが湧く。住んでいる地域に自分をひらくことは形式上しているが、申し訳ないが全ての民にひらいてはいない。見ず知らずの人が、個人的な相談をSNSを用いて直接してくるなんて、お門違いも甚だしい。 オフィシャルとプライベートの境界線が曖昧になることで、ストレスが増えてきた。「私の時間をどれだけ使えば気が済むの?」という感情が湧く。何様だろう、と自分を叱る自分もいる

          私の時間を搾取しないで

          『太陽の子』を読み返して出会った、昔の自分

          灰谷健次郎さんの『太陽の子』という小説を読んだ。小さい頃から何度も読んだ本で、今度開催する読書会のお題になったので、久しぶりに読み返した。私の希望で選んだ本で、やや子どもっぽいかなとも思ったが、最近参加してくれる医学部の学生さんは本を読まないようで、あまり難しい本よりも読みやすく内容の良い本を読む経験を、と考えての選書だ。 灰谷健次郎さんの生き様は、私の人生に少なからず影響を与えている。もともと小学校の教員で、心を病んで、旅などをした果てに沖縄に移り住み、悠々自適な自然と近

          『太陽の子』を読み返して出会った、昔の自分