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鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑬

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

⑦ 遭難原因究明座談会

 さて2010年7月25日にたった一人の生存者、小谷明氏を交えて、部室での遭難原因究明座談会が始めて行われその席で得た小谷さんの発言は、先に述べた1月4日に見た井ケ田の見た亀裂、1月5日の舟橋明賢OB、ガイド星野貢氏の見解を雪崩の性質の表現の違いはあるが裏付けるものとなった。 また大井氏の乾燥新雪雪崩という表現よりも、湿り気を含んだ新雪表層雪崩(湿潤新雪雪崩)という表現がより正確ではないか。 という関係者の一致した見方が示された。 その辺の具体的な現場の状況を舟橋氏と小谷氏のやりとりを下記再現文の中から読み取っていただきたい。

舟橋 星野さんは一番大切な点をはっきりさせてくれたと僕は思っているのだけどね。
芳賀 4月の星野さんとの話し合いの録音の要点は第1次の捜索の時に舟橋さんと同行して第2クロワールのところで雪庇が切れて、そこから雪崩が落ちているのを見た、それを星野さんが書いてくれた見取り図で確認し、舟橋さんの記憶のとおりであったということだった。
舟橋 もうこれ以上捜索はやっても無駄だ。二重遭難を避けるために、打ち切らなくちゃいけないと、迷っていたがその日の朝か、その1日前か、やっと霧と雲が切れたんです。だけども星野さんに天狗の鼻から見たらあそこに雪庇の切れ跡があるんだよね。あれに乗っかったか、巻き込まれたか、おそらく一緒に落ちてしまったのではないか。星野さんもそう思うという。ところで曲がり沢を下れますかと聞くと下れるというんだよ。じゃ二人で降りてみようとザイルを2本か3本つなげて下まで降りて見たんだ。それでもまだ届かないんで飛び降りましょうと言って飛び降りた。まかり沢にもものすごいデブリが堆積していて、はっきり上に雪庇の切れ跡が歴然として見えて下には小山のように堆積しているんだよ。それがまかり沢のどんつまり。その上に星野さんと立ってここだなと念を押し私もそう思った。それで最後にそこから残る3遺体が出てきた。
そういう経過というのが、山木魂の遭難対策報告の中に一つも書かれていない。それは僕が転勤で捜索の時、居なかったせいもあるが、そこまで突き詰めて現場に入った人が居なかった。その段階で僕と星野さんは、原因は雪崩の崩壊だと。自然的なものか、他力的なものか。他力だとしたらパーティーが乗ったのか、何かで誘発したんじゃないのか。それはもう謎だけどね。
だけど4人が一緒にあそこから出てきたというのはおそらく雪庇と一緒になって落ちたとしか考えられなかった。

(中略)

細井 私が山桜通信に書いて云っていることはテントを出たことが原因であると、その時の気象状況を考えるのなら出発すべきでなかったということです。その点おろそかになっていたと指摘したわけです。
(中略)
適切な判断をするということができるかどうかと云う事が大きな問題であって、あの場合一触即発の状態にあった表層雪崩であれ、雪庇の崩壊であれ、小谷さんから直接聞いていますが、4~5m先も見えない濃霧と降雪であると、これは明らかに気温が上がっている証拠であると、その濃霧でもって方向を見失う可能性がある。 この意味で出るべきでないという判断をするということが大事なのです。 適切な判断ができなかった事に問題があるのです。

鹿島槍ヶ岳遭難究明座談会(2010年7月25日)議事録より抜粋①

「鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑫」から

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