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無名で弱小なWEBデザイナーが、自社事業を立ち上げて累計2万ユーザーを超えるサービスに育てて、分社化するまでの話

僕はいま、2つの会社を経営しています。というより、元々ひとつだった会社を2つに分けました。

もう15年以上前になりますが、僕は会社をやめて、フリーランスのWEBデザイナーになりました。なったというより、名刺をつくって税務署に個人事業主の届けを出しただけで、仕事のあてなどは一切ありませんでした。

結婚したばかりだったのに、いきなり会社を辞めて、今思えば本当に無茶したなと思いますが、今では2つの会社の代表取締役ということで、社員を雇用しながらも、毎年利益を出せるようになりました。

しかし、それまでの道のりは、決して順風満帆とはいえず、くじけそうになる日々の連続でもありました。苦労してきた理由のほとんどは、僕自身が経営者として不勉強で、「ビジネスモデル」というものをまったく意識しないまま、活動していたからです。

そのことに気づいたのが、会社を設立して5年ほど経っており、社員も3名ほど雇っていた段階でしたので、ある意味では「時すでに遅し」でした。

このnoteは、そのような失敗(とは今では思っていないですが)を経験した弱小デザイナー&経営者として、これから起業したり、独立しようとしている方や、小さなビジネスを営む方の参考になることもあるかもしれない、ということで書いてみようと思います。

はじめの会社(WEBデザイン会社)を登記したのは2007年。個人事業主として、WEBデザインをはじめてから2年後でした。思えば、そこから困難が始まった気がします。

「あなたのデザインは不採用でした。またご縁があればよろしくお願いいたします」

2005年あたりから、フリーランスのWEBデザイナーとして活動をはじめて、ありがたいことに仕事はスタートから順調でした。

まずは知り合いに「WEBデザインの仕事で独立しました」と挨拶するところからはじめましたが、当時は今のようにWEBが得意なフリーランスデザイナーという人は多くなかったので、紹介伝手で、いくつかのWEB制作の仕事を受注することができ、そこからまた次の紹介が発生するというような形で、自分ひとりが食べていける分の収入は得られるようになっていました。

いくつかの制作実績が溜まってきたので、自分のポートフォリオサイトを作成してみたところ、「あなたのデザインが気に入りました。仕事をお願いします。」というメールが届きました。そこは比較的大きな会社で、しっかりした印象もあったので、僕は知り合いの紹介ではなく、自分のデザイン実績から仕事の依頼が来たことが嬉しく、喜び勇んでその仕事を引き受けました。

その会社の開発中のWEBシステムのUIを含めたデザインの依頼だったのですが、何度か打ち合わせを重ね、数案を提示しながら、順調に仕事が進んでいました。しかし、ある朝、「あなたのデザインは不採用でした。またご縁があればよろしくお願いいたします。」というメールが先方の担当者より届いたのです。状況が理解できないまま、ひとまず連絡を取ってみようとしたところ、「社内会議で不採用が決まった。その理由は伝えられない」という回答で、怒りに打ち震えながら、それならあなたの上司と会話させてほしいとお願いしました。

なんやかんやの腑に落ちない回答をしてもらいましたが、その仕事は結果的に、プロジェクト自体が消滅したものと思われ(その後、サービス自体がローンチされなかったので、そのように推察)、今思えば、そういうこともあり得るプロジェクトだった、はじめにきちんと仕事の性質や条件を確認できなかった僕自身の脇の甘さだと反省してます。

また、その時に痛感したことは、契約書の取り交わしの重要性です。フリーランスのデザイナーとはいえ、これはビジネスとして、自分自身の仕事をきちんと経営しなくてはならないのだと思いました。

ハンカチの端っこを噛みながら、キーーッ!!となるほどの悔しさから、僕は、「舐められない自分」を体現するために、法人化することを決意します。それが、株式会社それからデザインのはじまりです。2007年7月のことでした。

経営理念なんていらなかった。必要なのは技術とセンスと実績だと思っていた。

2007年〜2010年あたりはリーマンショックなどもあり、世の中全体としては決して景気がいい雰囲気ではなかったですが、ことWEBデザインの仕事は、成長市場真っ只中という感触もあり、仕事の依頼はどんどん増えていきました。一つの仕事を納品すると、その仕事からまた次の仕事が発生していくような状態。それはもちろんありがたいことでした。

中小企業のコーポレートサイトやECサイト、大手企業の事業サイトや採用サイト、国立大学や公共機関のサイトなど、あらゆるWEBデザインの仕事をこなしていきました。

実際に制作者としての経験値は上がっていきましたが、この仕事の宿命でもありますが、「労働集約型」ともいわれる自分の時間の切り売り型では、物理的な限界があり、それを少しでも解消しようと、社員の雇用も進め、1人、2人とメンバーが増えていきました。

しかしながら、私自身の仕事負荷は、それで減ることはなく、逆に、私のところでWEB戦略、コンテンツ企画、クリエイティブディレクション、アートディレクションの仕事が溜まっているまま、その次の工程を担当するデザイナーやコーダーを稼動させるところがなかなか上手く回らず、そのマネジメントをする仕事が増えていくような、いわゆる悪循環に陥ってもいました。

私自身、会社の社長になりたいと思ったことはあまりなく、前述の通り、よい仕事をしていく上で、舐められないように法人化した、というような出発でしたので、組織マネジメントや経営に関する学びをしないまま、雇用をしていったことで、非常に苦労を重ねることになりました。

しかし、信念(のようなもの)がなかったわけではありません。フリーランスになった時に、自分自身に誓ったのは、「やりたいことをやる。僕を信頼して依頼いただける仕事を大切にする」というようなことでした。

実際に、「請ける案件は、原則として直接依頼のみ」「クライアントと直接対面できない仕事はやらない」ということは決めていましたし、実際それは今でも貫いています。

受注コンセプトがはっきりしていれば、経営理念として言葉にすることは不要だとさえ、思っていました。必要なのは、WEBの技術と、デザインのちょっとしたセンスと、信頼していただけるだけの実績と思っていました。社員を雇用する前までは。

いつの間にか、やりたい仕事より、売上を優先するようになっていた。

大きな案件を受注できたり、多くの人が知っているような企業のWEBサイトを手掛けたりすることは、もちろんひとつのやりがいではありましたが、同時に、自分自身の業務負荷は増す一方で、組織マネジメントや人材育成に、私の時間を回すことがままならず、名ばかり社長のまま、現場でデザインを続けていました。

しかし、デザイン会社とはそういうものだという意識もどこかでありましたし、売上や利益は毎年上がっていっていましたし、忙しいということ以外は、会社として特に大きな問題も感じていなかったのも事実です。

ただ、心のどこかで、ずっともやもやするものがありました。また自分が曲りなりにも会社を運営していく立場で、見える景色が変わっていったということもあります。

私の仕事は、いったい誰のために、何を提供しているのか?

という自問が日々、心につかえるようになっていました。

大手企業のクライアント担当者から「部署異動のお知らせ」というBCCメールが届いたりして、「あ、そういえば、この人と一緒に作成したあのWEBサイトは、どうなっているのかな」と思い出して、久しぶりにアクセスしてみると、掲載終了で閉鎖されている…なんてことはよくありました。

WEBサイトとは、消化の早いメディアですので、そういうものでもあるのですが、私自身がやりたかったことはこういうことではないな、という引っ掛かりを感じるようにもなりました。

一方で、小さなお店を開業しようとしている友人や、独立して会社を立ち上げる学生時代の先輩などからも、「ホームページ作りたいんだけど、お願いできる?」という声をいただくことがありました。

とても大切な人から、自分を信頼してもらい、声をかけてもらった仕事を、なぜか、お金や予算を理由に、断っている自分がそこにいました。

自分自身の信念を、自分で崩しているような気がしてならなかった。

採用した社員もあまり定着せずに、退職することが増えていったのもこの時期です。会社には、自分の信念に、社員とお客様が共鳴している状態、自走できる状態をつくることが必要だと、身を持って感じていました。

僕が実現したい理想の会社とは?

遅ればせながら、会社の代表として、どんな会社にしていきたいのか?そんなことを自問しました。私の考える理想の会社像は以下のようなものです。

①社員全員がやりたいことをやっている
②事業やサービスを信頼してくれるお客様がいる
③ノルマなどがなくてもみんなが自走して成果を出している
④新しい挑戦に割く時間やパワーがある

こんなイメージです。これは今でも変わっていません。

しかし、既存の仕事では、叶わないことが多いと気づきました。たとえば、「やりたいことをやっているか?」では、やりたくても予算が少ない仕事は断らざるを得ない状況でしたし、「お客様は、事業やサービスを信頼してくれているか?」では、事業というよりも、多くのクライアント様は、僕自身のデザインや能力を信頼してくれている状態でしたので、会社の事業として信頼されているというオーダーではなかった。

実際に、僕以外の社員がディレクションやデザインを担当した際に、「佐野さんに担当してもらえないのですか?」や「他のデザイナーに変更してほしいのですが」というメールが届いたことが何度もあります。そのメールをこっそりと受信し、誰もいない場所で、社員に聞こえないように(傷つけないように)、折返し電話をするなんていうことを度々やっていました。

そうか、この仕事は、事業=商品になっていなくて、僕自身=商品となっているんだ、ということに気づきました。だから、株式会社それからデザインに仕事が依頼されているのではなく、僕自身に依頼が来ている状態であり、それが変わらない以上、いくら社員を増やしても、負荷は分散できず、成長機会をつくることもできず、組織で仕事をする、全員が活躍する、という会社にはできないという現状があったのです。

自社サービスの開発運営にコツコツと挑戦。それが、いきなりヒットした。

どうすれば、自分たちのやりたいことをやれていて、お客様から事業を信頼していただき、社員全員が自走して活躍できる会社にできるのだろうか、とそれを考え続けてきました。

ひとつの答えが、「ちゃんと商品をつくること」でした。

ここでいう商品とは、特定の人の才能や能力に依存することなく、組織で開発して運営していける事業のことです。これまでは、僕自身=商品であり、そこを前提とした仕事を請けていたわけですが、それを、「会社全員で開発運営するサービス」=「商品」とすることだと考えました。

たとえばWEBデザインであれば、特定の人物に依存するデザインを商品とするのではなく、デザインを生み出すプロセスを組織で共有し、そのプロセスを信頼していただき、受注につながるようなことが必要です。

しかし、このようなデザインプロセス=商品とする場合の難しいところは、商品が無形であること、お客様の求めるニーズがそもそもデザインプロセスにはないこと(結果や形が納品物という認識はなかなか変えにくい)、ということもあり、難易度が相当に高いこともわかりました。

私がやりたいことは、ビジネスの規模や予算の大小に関わらず、応援したいと思える人にWEBやデザインを提供すること、でした。そのためには、形あるサービスが必要ということと、スモールビジネスの場合はオーダーメイド型の受託デザインでは価格が折り合わないこと、仮にWEBサイトを制作し納品できたとしても更新や運用にも費用がかかってしまうため厳しくなることなど、いくつかのポイントがありました。

実際にスモールビジネスやスタートアップの場合は、初期にかけられる予算に限りがありますし、実際に、スモールビジネスオーナーが求めていることは、「自分でいつでも更新できたり、情報発信できる環境」であることも、これまでの経験上でわかっていました。

そのようなことから、「特別な知識がなくても、サーバーやドメインなどを気にすることなく、自分で作れて、自分で更新でき、等身大価格で続けられる、ホームページ作成サービス」を開発できれば、私たちの思いとやりがいとお客様の信頼が繋がり合うのではないか、そんな仮説を立てて、自社事業の開発に着手したのです。

そのようにして、「気軽につくれる、素敵なホームページ」をブランドコンセプトとした「とりあえずHP」は始まりました。ひっそりと2009年にローンチし、徐々にユーザー数が増加していき、現在では利用実績で累計2万人を超えるまでになりました。

必要なのは理念ではなく、ビジネスモデルだった。

会社には理念が必要だ。

と様々な経営者の先輩からもアドバイスをいただいてきましたし、世の中に出版されている経営本にも、ミッションやビジョンの重要性は多く言及されています。

実際に、経営の究極の拠り所は、理念だと僕自身も思います。しかし、僕の会社では、理念はつくったものの、実際に社員や組織の行動が自走につながったりはせず、年に数回読み上げることと、会社のオフィスになんとなく掲示されているだけ、という状態がありました。
いくら立派な理念を掲げても、経営はそれだけで上手くいくわけではありません。

足りなかったのは、ビジネスモデルです。

商品の特徴が、価値や魅力となって、買って欲しい人から自然と選んでもらえる。その循環の中で、社員全員が輝ける場がある。

そんなビジネスの仕組みこそが、経営には最も重要なのだと、身を持って体験しました。我が社の設立当初は、商品は僕自身であり、僕にデザインを依頼したい人が僕に連絡をする、それを社員が手伝う、というようなモデルでした。誤解されないように補足しますが、それはそれで、デザイン会社としてのひとつの形だと思います。実際に、僕自身も、それでいいのではないかとも思っていた時期がありました。

しかし、自分の理想とする会社とは、主役が特定の一人ではなく、全員に活躍の場が回ってくるような会社です。それをどのように実現できるかを考えた時、経営にものすごく必要なものは、ビジネスモデルだという結論に至りました。

ビジネスモデルがある程度の好循環を生んでいる状況を、理念でがっちりと定義し、さらなる好循環を生んでいく。

その順番がいい会社をつくるコツなのではないか、と思います。

もっと早くそのことに気づいていればなぁと思うことも少なくないのですが、だいぶ遠回りはしてきましたが、ここに至ることができたのは本当によかった。もう一度、ゼロから会社をつくるなら、まずはこのビジネスモデルを計画して、少しずつ試しながら、好循環に乗ってきたら、経営理念にまとめていこうと思っています。

ひとつのビジネスモデルを、ひとつの会社にしてみることにしました。

累計2万人を超えるまでになり、好循環をつくることができた「とりあえずHP」というWEBサービス事業を、この度、単独の会社にして再出発させることにしました。

ビジネスモデルは、スモールビジネスオーナーがDIYで(自分の手で)、ホームページを作成でき、DIYで自分のビジネスを育てていくことを支援するWEBサービスの開発運営です。

理念は、「小さくて無名な価値が、正しく必要とされる世の中をつくる。」です。

社名は、株式会社smallweb(スモール・ウェブ)です。

このビジネスモデルと理念と理想とするイメージを言葉だけではなく、ビジュアルで表現したいと考え、イラストレーターの榎本直哉さんに相談させていただきながら、こんなポスターを作成しました。

私たちの描く未来を、ひとつのフェスのような世界にたとえて表現してくださいました。榎本さんの絵、本当に最高です!

smallwebビジョンポスター


そして、株式会社それからデザインは、これまでと同様に、企業様から依頼を請けるデザインを起点としたブランディング事業として、再整理することにしました。

ビジネスモデルは、デザインとWEB戦略を起点とし、経営者から直接依頼をいただき、経営者に寄り添うブランディング&コンサルティング事業です。

理念は、「デザインを駆使し、ビジネスに結果をもたらす」です。

社名は、これまで同様に、株式会社それからデザインです。


1ビジネスモデル&1ミッション&1カンパニーへ。

このようにして、無名で弱小で不勉強なフリーランスのWEBデザイナーだった僕が、2つの会社の経営者として、自分の会社を、自分自身をブランディングし直すことにしました。

これからは、1つのビジネスモデルに対し、1つの理念を掲げ、1つの会社として独立存在していく。

そんな形で、それぞれの共感を集め、みんなが自立して自走できるような会社をつくっていければと思います。いまは2つの会社の経営者として、まずは軌道に乗せていければと思いますが、その形が本当にしっかりしてくれば、経営者は僕ではなくとも、成り立つはずです。

そして、3つ目のビジネスモデルがつくれれば、またそれを理念にまとめて、会社として育てていく。そんなことを想像すると、経営ってなんてクリエイティブな仕事だろう!とワクワクします。

みんなそれぞれが自由に経営をやって、自分で自分の未来をデザインしていけるようなことができれば、こんな幸せなことはないなーと思います。僕もだれかのつくったビジネスモデルやミッションに共感したら、社員として参加させてもらうかも。

会社という存在ごと、そんなふうに、プロジェクト化してければいいんじゃないかな。それが最近よく想像することです。


株式会社smallweb設立発表&とりあえずHPエピソード大賞オンライン授賞式をやります。

来週の4/12(月)に、株式会社smallwebの設立発表会として、あらためてお話をする機会があります。

イベントの前半では、私が、「スモールビジネスとセルフブランディング」と題した講演をさせていただきます。この記事を少しでも面白いと思っていただいた方は、ぜひご視聴いただければ嬉しいです。
https://pr.toriaez.jp/news/1093

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開催日時:2021年4月12日(月)18:00-21:00
開催方法:オンライン(Youtube Liveにて生配信いたします)/視聴無料
当日の視聴URL:
https://www.youtube.com/watch?v=NBvZt5EQngM

18:00〜18:50
・株式会社smallweb設立発表
・基調講演「スモールビジネスとセルフブランディング」(代表・佐野彰彦)
19:00〜21:00
・「とりあえずHPエピソード大賞2020」授賞式https://pr.toriaez.jp/award/report2020/

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