小鈴

伝統芸能好きの趣味note。生業は研究教育・文筆。2020年より、旭堂南湖先生の講談教…

小鈴

伝統芸能好きの趣味note。生業は研究教育・文筆。2020年より、旭堂南湖先生の講談教室に参加。講談教室で作る創作講談のアーカイブを中心に、演芸の感想やちょっとした考察などを書いています。

マガジン

  • 創作講談の習作

    所属する講談教室の課題「3分講談の創作」。毎月ひとつ、お題に即してミニ講談を作ります。内容を考えるのも書くのも楽しく、私にはとても合っている課題です。文章力の筋トレにもなっています。3年経ち、だんだんと増えてきましたので、整理の意味も込めてこちらにアーカイブしています。講談なのか、ショートショートもどきかエッセイか、よく分からない雑文ですが、ご笑覧ください。

  • 見た演芸・読んだ本の感想・紹介など

    心に残った演芸・舞台・本などの感想や紹介、ちょっとした考察など。

最近の記事

3分講談「守山宿の仇討ち」①

★謡曲『望月』の翻案・リメイク作品です。 時は、室町のころ。ところは、近江国・守山でございます。 ここ守山には、京の都と東の国とを結ぶ木曽街道が通っておりまして、江戸時代にはこれがいわゆる中山道となるわけですが、それ以前から、宿場町として大変に賑わっておりました。 この守山宿に、「甲屋」という一軒の旅籠がございます。宿の主人は友三と申しまして、四十手前。無口ながら柔らかな物腰で、客あしらいも上手く、仲間内での評判も上々でございました。 あるうららかな、春の日の昼下がり。

    • 3分講談「髑髏の仇討ち」(テーマ:仇討ち)

      亡くなった人の骨というものには、骸骨、どくろ、しゃれこうべ、野晒し―、実に色々な呼び名がございますが、この骸骨というのは、怖いようでいて、どこか愛嬌があったりもいたしますね。 上方落語に『善光寺骨寄せ』という演目がありまして(江戸では「お血脈」ですが)、閻魔大王が石川五右衛門の骨を寄せ集めて復活させるという荒唐無稽なお話で、そのくだりが上方では、骸骨の操り人形を実際に遣いながら演じられます。私も一度だけ、先代歌之助師匠の高座で観たことがありまして、骸骨の動きがコミカルでとて

      • 第7回講談教室発表会 振り返り

        2023年12月24日(日)14:00~17:00 第7回旭堂南湖講談教室発表会でした。 (動画は下記からご覧下さい) 2020年の12月から始まった発表会。 早くも7回目とは、驚きです。 今回私は、「江戸川乱歩と神田伯龍」(作:芦辺拓)という新作講談を勉強させていただきました。南湖先生のために作家さんが書き下ろしされた作品です。貴重なネタを勉強できて、貴重な機会でした。3分講談(創作)は、探偵講談にちなんで「私立探偵・岩井三郎」。実在した日本初の私立探偵である岩井三郎の

        • 3分講談「秘密探偵・岩井三郎」 

          明治二十九年、東京日本橋に、日本初の私立探偵事務所が誕生いたしました。創始者は、岩井三郎。元は警視庁の刑事でしたが、三十歳で警視庁を辞して野に下り、探偵業を始めました。当初は、岩井が一人ですべてをまかなう個人事業所でしたが、七年後には大阪堂島にも支店を構えるほどになり、日本初の女性探偵を輩出するなど目覚ましい躍進を続けました。扱う事件も、殺人事件から誘拐事件、保険金詐欺や身元調査まで実にさまざま。本日は、そんな岩井氏の携わった事件の中から、短いお話をまずは一席申し上げたいと思

        3分講談「守山宿の仇討ち」①

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        • 創作講談の習作
          29本
        • 見た演芸・読んだ本の感想・紹介など
          6本

        記事

          曽我の紋づくしと御所五郎丸

          このところ、曽我物の芸能をいくつか観る機会がありました。そんな中で、講談『曽我物語』の「紋づくし」の場面(御所の五郎丸が兄弟に祐経の仮屋の場所を教えるくだり)は、もしかして講談オリジナルのものなのか?という疑問が湧きました。そこで、つらつら調べて分かったことを、ひとまず記し留めています。認識間違いや不足な点もあるかと思いますが、私自身はこういう「物語の変容」をとても面白いと思うタイプなので、同じような興味を持っておられる方への話題提供になれば幸いです。また、資料や解釈について

          曽我の紋づくしと御所五郎丸

          講談の出典研究は可能か、という話。

          講談を習うなかで、その文言・詞章の出所が気になることがあります。 たとえば、弁慶と牛若の出会いを描いた有名な「五条の橋」。私がいただいた台本では、全編美文調で、明らかに、何かしらの古典作品に依っているだろうと思わせられる文章です。(ちなみに、国会図書館デジタルで調べた範囲ですが、大正十二年の『歴史趣味の講談』(文芸社)に所収されている柴田馨口演の「牛若丸」の文言とほぼ同じでした。) 中でも、弁慶と牛若との橋上での戦いを描いた修羅場の詞章が独特なので、その出典が知りたくてち

          講談の出典研究は可能か、という話。

          3分講談「日秀上人御一代記② 大蛇退治」(テーマ:自由)

          室町時代、紀州・那智勝浦の日秀上人は、「補陀落渡海」へと出立いたしました。小さなくり抜き船で大海原へとこぎ出すこの荒行は、さながら、死出の旅路でございました。一度は船の中で意識を失いましたが、次に目を覚ましたのは、穏やかな波音が響く、真っ白な砂浜の上でした。 「観音さまが浄土へとお導き下さったに違いない、有り難や、有り難や」 と、心の内で唱えて、砂浜に横たえた身体を起こそうといたしましたが、全く力が入らない。それもそのはず、もう何十日も飲まず食わずだ。その時、背後から、人

          3分講談「日秀上人御一代記② 大蛇退治」(テーマ:自由)

          3分講談「日秀上人御一代記① 補陀落渡海への出立」(テーマ:自由)

          和歌山県那智勝浦町に「補陀洛山寺」という古いお寺がございます。室町時代、海沿いに建つこの寺を拠点として広まったのが、補陀落渡海でございました。 補陀落渡海と申しますのは、海のはるか彼方にあるという、補陀落観音浄土を目指す修行のひとつでございます。とはいえ、その実態は、過酷な捨て身行でありました。浄土を目指すといっても、小さなくり抜き船にたった1人で乗り込み、舵も櫂もなくただ流れに身を任せるだけ。しかも恐ろしいのは、その舟は屋形船で小部屋があり、その小部屋に入ったあとは、外か

          3分講談「日秀上人御一代記① 補陀落渡海への出立」(テーマ:自由)

          講談教室発表会の振り返り

          第6回旭堂南湖講談教室発表会、無事終演しました。 【番組】 ・湖亭まさ「三方ヶ原軍記」 ・湖亭ちよ「湖水渡り」 ・湖亭のり「西行鼓が滝」 ・湖亭あさ「真田の入城」 ・湖亭なお「雷電の初土俵」 (中入り) ・旭堂南湖「大瀬半五郎」 私は、創作「十返舎一九の最期」と、古典は「真田の入城」を読ませていただきました。創作は、以前noteにも載せたものをリメイクして読みました。 先生が編集版をYouTubeにアップして下さいました。よろしければ、ご感想などいただけると嬉しいです!

          講談教室発表会の振り返り

          日常を横切る怪異―旭堂南湖著『滋賀怪談 近江奇譚』を読んで

          私が講談を教わっている旭堂南湖先生が、今年3月に『滋賀怪談 近江奇譚』(竹書房)を出版されました。読了しましたので、感想(と勝手な紹介文)を書きました。気合いを入れて書いた結果、ガチガチのレビュー文体になってしまいましたが(汗)、すでにお読みになった方にも、まだお読みでない方にも、魅力が伝われば嬉しいです。(5月8日加筆修正) はじめに 『滋賀怪談 近江奇談』(竹書房、2023年3月)は、滋賀県出身の講談師・旭堂南湖先生の書き下ろし実話怪談集です。(コンセプトや目

          日常を横切る怪異―旭堂南湖著『滋賀怪談 近江奇譚』を読んで

          空間を支配する語りの力―「続いざ龍玉」感想にかえて

          様々な語り芸を聴く中で、「微動だに出来ないくらい惹き付けられる」という経験をすることがある。 これまでで鮮明に覚えているのは、桂吉朝師匠の「たちぎれ線香」と、旭堂南湖先生の「大瀬半五郎」「柳田格之進」。最近では京山幸太さんの「文治殺し」。 どれも緊迫感のある話だったというのもあるが、ぴりっと張り詰めた空気が空間を支配して、唾を飲むのも瞬きをするのも憚られるくらいだった。自分の不用意な動きが、今この場に顕ち上がっている芳醇な物語の世界を壊してしまうように感じられて、ただただ

          空間を支配する語りの力―「続いざ龍玉」感想にかえて

          【私小説風な何か】水餃子とミックスナッツ

          ひょんなことから、水餃子パーティーをすることになった。 2006年。今から17年前の初夏のことである。 私は当時、古典文学を学ぶ大学院生だった。 言い出したのは、同じ大学院に通う、陳さんという留学生の女性。芥川龍之介の作品を学ぶため、博士課程に在籍中だった。郷里は中国大連で、旦那さんと中学生になる娘さんを残しての単身留学だという。 「じゃあ、うちの家でやりましょうよ」 と会場を提供してくれたのは、これまた大学院生のトヨダさんという60代の女性だ。奈良の山間部にある農家

          【私小説風な何か】水餃子とミックスナッツ

          3分講談「前田利長と高山右近 十文字の炭手前」(テーマ:旅行)

          ★3月に訪れた、富山県高岡市にまつわるお話です。 富山県高岡市は、富山市よりも西に位置する、商業都市でございます。古くは、越中の国の国府(今でいう県庁)があり、奈良時代には、『万葉集』の編者・大伴家持が国司として赴任していたことで有名です。家持はここ越中で多くの歌を詠み残しましたが、その場所を巡りますと、今でも、胸に染みるような景色に出会うことができます。特に、雨晴(あまはらし)海岸と呼ばれる海岸沿いは絶景で、穏やかな富山湾越しに、雪を頂く立山連峰をはっきりと見渡すことがで

          3分講談「前田利長と高山右近 十文字の炭手前」(テーマ:旅行)

          好きな作品を「語り用」にリメイクしたい。

          タイトルの通り、好きな文学/文芸作品を「語り」(講談も含む)にリメイクしてみたい、という話。 今まで読んで気に入った作品の世界観はそのままに、語り用台本にリメイクする作業は、さぞかし楽しいだろうな…などと夢想します。 あとは自分自身の語りの技術、そして需要があれば。笑 とはいえ、自分が語りたいというよりはむしろ、どなたかが語るのを聴いてみたい。という気持ちのほうが大きいかもしれません。 具体的には… ①「押絵と旅する男」(江戸川乱歩) ②「桜の森の満開の下」(坂口安

          好きな作品を「語り用」にリメイクしたい。

          語りで聴く「女殺油地獄」―蜃気楼龍玉師の落語版に思う

          近松門左衛門の傑作のひとつに、『女殺油地獄』がある。享保六年(1716)に人形浄瑠璃として竹本座で初演された。歌舞伎になったのは、意外にも明治時代になってからのことだという。 劇作の見せ場 現在、浄瑠璃・歌舞伎においてこの演目の代名詞ともなっているのは、「豊島屋油店の段(場)」であろう。油まみれになりながらの惨殺劇は観る者に強い印象を与えるが、決してただ惨たらしいだけではない。義太夫に乗せて繰り広げられる男女の無言の攻防には、ある種のカタルシスさえ感じさせるほどの、演劇的

          語りで聴く「女殺油地獄」―蜃気楼龍玉師の落語版に思う

          3分講談「フェノロサと夢殿」(テーマ:奈良)

          奈良の名所のひとつといえば、法隆寺があげられましょう。法隆寺には、「夢殿」と呼ばれる建物があります。夢殿には、聖徳太子の等身大の姿を象ったとも伝えられる、大きな観音像―救世観音が安置されております。現代でも、春と秋とに期間限定で開帳されていますので、ご覧になった方もいらっしゃるのではないかと思いますが、この観音像が世に見(まみ)えたのは、意外にも、明治時代も半ばになってからのことでございました。(①) 明治初年。日本国内には、神仏分離令をきっかけとした廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ

          3分講談「フェノロサと夢殿」(テーマ:奈良)