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【短編小説】申し訳ございます




その女は反抗的な目をしていた。




クレームを入れた男性に対し、丁寧に腰を折りながら、誰もが謝るのだろうと思った。




しかし彼女は反抗的な目をしていた。




「申し訳ございます」




「俺を馬鹿にしているのか」



「はい」



「まずは謝るのが筋だろ」



「ですから、申し訳ございますので」




女は折れない。



しかし腰は折れている。




そこまで行ったら頭下げてもいいような気もするが女は決して折れない。




男は苛立っていた。




「だから、おたくで買った弁当にカブトムシが入ってたんだよ」




「いいえ、そんなわけございません」




「あるからクレーム入れてるんだろうが」




「いえ、お客様は夢を見ていらっしゃるのです」



「はあ?」



「すでにお分かりでしょう。私の腰がどうしてこんなに折れているか。そしてなぜ私があなたに対して決して折れないか」





女は蛇も殺せそうなほどの強い眼差しで男性をただじっと見る。




走馬灯のように嫌な記憶が蘇ってきた。




そうか、これは夢だ。




しかし額を伝う汗が現実味を帯びていた。




胃の中で何かが蠢くのを感じた。





カブトムシだ。




思わず飛び起きてしまった。






そうだ、俺はあの女にクレームを入れたかったんだ。




しかし現実で勇気を持たない男にできるのは、せいぜい我慢してカブトムシを食べることだった。

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