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【短編小説】いちごのサンドイッチ



ずぶぬれの雨。



あーあ。靴下濡れちゃった。




防水スプレーを貫通した雨水はストッキングに染み渡り、足元の不快指数を上げた。



はあ。早く帰ろ。




でもこのまま帰ってもイライラしたままで今日が終わってしまう。



それももったいない。



頑張ってコンビニでスイーツを買うことにした。



あと数分この足元に付き合ってやろう。



近所のコンビニには気だるそうなお兄さんがお菓子コーナーに商品を陳列していた。



わかるよ。雨の日の仕事はだるいよね。



休日出勤仲間を心のうちで労いつつスイーツコーナーに行った。



プリン、ゼリー、シュークリーム、エクレア、わらび餅、いちご大福



どれも美味しそうだけどいまいちピンとこない。




いちごのショートケーキが食べたい。




売り場にはショートケーキはなく、すでに売り切れているようだった。




ほわほわのスポンジにたっぷりの生クリーム、甘酸っぱくみずみずしいいちごと一緒にほおばりたい。


クリームの海に飛び込みたい。



なにかいい物はないだろうかと店内をうろうろしているとサンドイッチコーナーでそれは輝きを放っていた。




そう、いちごのサンドイッチだ。




ふわふわの白いパンに甘い生クリームと酸味の効いた苺。


想像するだけでも幸せがそこにはあった。




迷うことなくレジに持っていき、だるそうな店員のお兄さんに声をかけた。




サンドイッチを引っさげた私を自動ドアは


ははあー


と恐れ入ったように2つに開いて通してくれた。



自動ドア君、キミもこのいちごサンドの素晴らしさがわかるか。


雨の中ご苦労。



あと数分で帰宅できると思うと先程までの雨の重さをはねのけるように足取りは軽くなった。




帰宅後、水を吸って重くなった衣服を脱ぎ捨て、スウエットに着替える。



あー、スウエット最高。



さて。



親切に手順が書かれたフィルムを剥がし、いちごのサンドイッチとご対面した。



やあ我が家にいらっしゃい。


それではいただきます。



一口かぶりつくと第一印象のパンの奥には会いたくてたまらなかったクリームといちごが飛び出してきた。




会いたかったよ。




一切れ食べ終わったあとなんだか物足りなさを感じた。



おいしいけど、なんだか違う。


なんだか、ジェネリックの味がする。




ああ、食パンだ。正体は食パンなんだ。

スポンジケーキが食べたかった自分にとって食パンはあまりにもあっさりとしていた。



この食パンがスポンジケーキだったら良かったのに。



雨から自分を救ってくれたことに感謝しつつ、もう一切れも平らげた。



ごちそうさま。




ぶら下がったてるてる坊主に少しばかり祈った。



いつか誰かがスポンジケーキでいちごサンドを作ってくれますように。



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