【短編小説】ご飯チャーハン
ごま油の香ばしい香りがキッチンを満たした。
溶き卵をフライパンで手早く炒め、お皿に上げる。
味付けにはやっぱり鶏ガラスープだ。
ご飯、鶏ガラスープ、残り物のチャーシューを混ぜ合わせ、手早くフライパンを揺すった。
家庭用のフライパンでこれをしない方が美味しく出来上がるらしいが、それではチャーハンを作っている意味がない。
チャーハンはやっぱり気分だ。
気まぐれシェフになった気持ちでフライパンをオーケストラの指揮者のように振り、具材たちに最高のハーモニーを奏でさせた。
先程の卵を戻し、全体に行き渡るように混ぜる。
ここまでは普通のチャーハンと何ら変わりない。
僕が作ろうと思っているのは究極のチャーハン、そう、ご飯チャーハンだ。
わからない諸君のために説明しよう、ご飯チャーハンとはご飯を加えたチャーハンである。
…まあまあ言いたいことはわかる。
しかし考えてみろ。美味しい料理にはほとんどといっていいほど隠し味が隠されている。
チョコレートに少量のリキュール。
カレーに数絞りのケチャップ。
ふわふわのオムライスに生クリーム。
これらはどれもその料理の邪魔をせず、最高に美味しくしてくれる。
チョコレートもリキュールもカレーもケチャップもオムライスも生クリームもどれも美味しい食べ物だ。
しかし僕の見解ではこれらはあまりにも隠れていなさすぎる。
シマウマを海に隠さず、オットセイを森に隠さないようにあくまでそれがいるべき場所に溶け込ませるのが大事なんだ。
もちろん、僕は料理の素人ではないのでマグロをパフェに乗せたら美味しいんじゃないですかー?などというアホな屁理屈は言わない。
ちゃんと料理のハーモニーのことを考えられるんだ。
そこでだ。炊きたての美味しいご飯をとびっきりうまいチャーハンに隠したらどうだろうか。
そう、最高の、究極の、チャーハンが出来上がるのだ。
もちろん言うまでもなく隠し味はご飯だ。
自分の理論に完璧な自信を持った僕は満を持してご飯をチャーハンに投入した。
先程と同様に完璧な鍋振りを魅せ、味見をした。
チャーハンだった。
流石に加えるご飯が少なかったか、やれやれ困ったちゃんだ。
仕方なくご飯をしゃもじひとすくい分追加した。
またしても完璧な鍋振りをしたあと、再び味見をした。
チャーハンだった。
おいおい勘でも鈍っちまったかと思い、しゃもじもうひとすくいのご飯を加えた。
世界鍋振りコンテスト家庭部門なんてものがあったら優勝できるんじゃないかというくらいの鍋さばきを魅せ、また一口、味見をした。
チャーハンだった。
自分がした世紀の大発見を妹に話すと、妹はちらっとこちらを見て、鼻で笑ったあとすぐにスマホに目を落としてしまった。
やはり水の水割りの方が良かったか
と反省した。
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