【短編小説】ほおばるシュークリーム
がぶり。
体から悲しみをはみ出させたくてシュークリームを思い切りほおばった。
生まれてこの方シュークリームを上手に食べれたことがない。
「おいしい?」
友人に聞かれて初めて自分が泣いていることに気づいた。
人前で泣きたくなかったのに。かっこわるいなあ。
「うん」
おしゃれだってダイエットだって頑張ってたのに。
もう一度シュークリームをほおばると、勢いよく飛び出したクリームが指の間を綺麗に汚してくれた。
よくもやってくれたな。
友人がいる横でクリームを舐めるのは行儀悪いかもしれない、なんて考える間もなく口にクリームを押し込んでいた。
シューに挟まれていない甘いカスタードホイップクリームは、悲しかった心をやわらかく包み込んでくれた。
また泣いちゃいそうだ。
「おいしいよねここのシュークリーム、私のお気に入りなんだ」
知ってる。
パン屋さんの向かいにある赤と白の看板のお店でしょ。
少し高いからご褒美として買うくらいじゃないと手が届かないんだ。
「うん。知ってる。…あ、お金払う」
「いいよいいよ。私が食べたかっただけだから」
この子はどうしてこんなにも優しいんだろう。
「その代わり私が失恋したら高級焼き肉おごってね」
友人はいたずらっ子のような笑みで私にそう言った。
「さすがに高すぎ」
つられて私も思わず笑ってしまった。
彼女が本当に高級焼き肉を食べたかったわけでもないことは知っている。私を笑顔にしたくて冗談を言ったのだろう。
………いや、彼女なら本気で食べたくて言った可能性も捨てきれないけど。
クリームに逃げられた残りのシューをほおばり、最後のひとくちをゆっくりゆっくりと味わった。
あ、これオレンジリキュール入ってたんだ。
こんなわかりやすい隠し味に気が付かなかった自分がなんだかおかしくて、噛みしめながら大笑いした。
「え、こわ、なに」
怪訝そうな友人に気づいたことを伝える。
「このシュークリーム美味しいね」
「そうだよ?」
呆れつつもほっとした友人を見て、気持ちが少し晴れた気がした。
さっきまでわんわん泣いていたのが、今更恥ずかしくなってきた。
美味しそうに食べる友人を見ながら、
今まで食べたシュークリームの中で1番美味しかったよと心の中で感謝した。
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