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ミャーブル先生は、水を飲むために台所へ行きました。そして、コップに水を注ぐと水道の蛇口を閉め、飲み始めたのです。飲み終わったのでコップを洗うため、再び蛇口を開きました。
「ネジが、緩くなってきているな」
蛇口からポタポタと落ちる水を見て、ミャーブル先生は心配になりました。蛇口をしっかりと閉め、これ以上、大事にならないことを祈るだけです。
ミャーブル先生は仕事部屋に入ると、顕微鏡のところへ行き、早速仕事にとりかかりました。
「今日は、どんなニンゲンが映し出されるかな?」
ミャーブル先生が顕微鏡をのぞくと、おばあちゃんがボッーと畳の上に座っていました。足が痛いのか、痛みがあるところを優しくさすっています。すると、玄関のチャイムが鳴りました。
「はぁーい、今いきます」と、おばあちゃんは玄関にむかって、か細い声で言いました。「誰かしらね?」と自分に問いかけながら、畳に手をついて ヨッコラショと立ち上がりました。
「このおばあちゃんは、一人暮らしなんだろうか?」と、ミャーブル先生は思ったままにつぶやきました。ミャーブル先生は、台所に顕微鏡をむけると、お箸が2膳置かれていたので、一人暮らしではないようです。朱色と黒色の色違いの花柄のお箸で、柄が女性的なので娘さんと二人暮らしのようでした。
「はぁーい、どちらさま?」と、おばあちゃんが玄関先で尋ねると
「こちらの近所で建築の仕事をしている者なのですが、お宅の屋根が剥がれていたもんで伝えに来ました」と、男性がハキハキとした口調で答えたのです。
おばあちゃんは、迂闊にも玄関ドアを開けてしまいました。玄関前に立っていたのは、いかにも好青年といった笑顔を浮かべた作業着の男性が立っていたのです。
「はい?」と、おばあちゃんが疑問を投げかけると、男性は再び「お宅の屋根が剥がれています」と答えました。
次に、「屋根?」とおばあちゃんが疑問を口にすると、男性は「棟板金が浮いているんです」と言いました。
「え?何?」と、おばあちゃんは聞き慣れない言葉に聞き返すと、男性は棟板金の説明をし始めたのです。
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