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リーディング小説「生む女~茶々ってば~」第六話  Are You Ready?


Are You Ready?

野心の扉の開いた先は、秀吉の跡取りとなる天下人の母。

秀吉が望む子どもを、私が彼に与える。正室の寧々にも他の側室達にもできなかった豊臣を継ぐ男児を産む。その子が彼から私への愛と地位を、揺るぎないものにする要石。
私は「どんな手を使っても、この要石を手に入れる」と彼との褥を終え、決意した。

早速翌日、手を尽くし子どもが授かる、という妙薬を取り寄せた。
そして、子どものできる願掛神社を回り始めた。
身体を冷やさぬよう気をつけ、身体を冷やすと言われる食べ物をやめた。

秀吉は毎週、私のところに通い夜を共にする。
ただ年齢のせいもあり、男の機能を果たさない時もあった。
「もう、わしは男としてダメなのかもしれん・・・」そうガックリ肩を落とす時もある。そんな時の彼は天下の覇者でなく、しぼんだ彼の象徴と同じように、しょぼくれた年寄りだ。私は聖母のような優しい笑みで「大丈夫ですよ」と彼の背中を優しく撫でる。だが、言葉と裏腹に、彼への憐憫の情は湧かない。なぜ彼が妻や側室達に子種を植え付けられないのか、分析する。

貧しい農民の出だった秀吉は、子どもの頃から食うや食わずの生活をしていた。母親の再婚相手とそりが合わず、早くに家を出て苦労した。
身体が出来上がる成長期に、十分な栄養を摂っていない。だから身体は強いが、背は低く貧弱だ。
そんな生活だから、男としての子種が薄いに違いない。

しかも女好きの彼は、これまで無駄に女達に子種を放出した。
彼が放つ子種は、彼の強い執着力や精力や権力欲とは反対に、身体から出たとたん元気をなくし、女達の子宮にたどり着かない。
次から次へ鉄砲の玉のように放出しても子どもができていないのは、彼の子種の生命力の弱さだ。私はそんな弱い子種をどうやって自分の子宮に導き、植えつけるか知恵を絞った。

子種を強くするため、鰻や山芋など精力のつく食事を用意した。
だが秀吉の好物は、割粥という石臼で米粒を細かく砕いたお粥なのだから、貧乏くさい!

ずらり、と並んだごちそうを用意しても、少しずつ箸をつけるとすぐ
「粥をくれ!粥だ!」
と、美味しそうに粥をすする。
こんなものでは弱い子種がさらに勢いをそぎ、弱くなるだけではないか!

私はイライラし、不機嫌になる。むかつく。
彼が私の身体に手をかけようとすると、プイッと背中を向けてふてくされてやる。
そんな時は、彼がオロオロする。

「どうした、茶々?
どこか、具体が悪いのか?」
と何度も聞く。

私は彼の様子をみながら、どれくらい不機嫌な態度を見せるか時間を計る。長時間不機嫌でいるのは、得策ではない。
男が下手に出る時間を、長引かせてはいけない。
ましたや彼は天下人だというプライドが高い男だ。
そのプライドを傷つけることは、彼の怒りを買うことになる。彼の高いプライドを傷つけてもいいのは、彼の子供を持った時だ。
その時まで私は、犬をしつけるように上手に彼を手なづける。その自信、私にはある。

プンプンする私に彼がため息をつくタイミングで、私はくるり、と身体を秀吉に向け笑みを浮かべ、自分の胸を押しつけた。
秀吉はホッとしたように、私の身体を抱いた。
「驚かすな、茶々。
わしは、もうそんなに若くないぞ」

「いえ、秀吉様はまだ若くお元気でございます」
そう悪戯っぽく笑いながら、私は右手を彼の下半身へと伸ばした。

ニヤリと笑った彼は、ゆっくり私の上にかぶさってきた。愛撫もそこそこに性急に、私の中に自分をさしこむ。
私の花芯は彼が入っても、もう痛みはない。だが快感もない。
あの時開いた快感の扉はすぐ閉じた。子供、という野心の扉だけが大きく開かれている。だから私は快感のあるフリをし、切なげな声を出し腰をねじる。

私は欲しいのは、彼の子種。
愛はいらない。
愛は邪魔。

愛は心に楔を打つ。
私を縛り、喉をしめ逃せないようにする。

楔は自分自身に打つだけでいい。
私が愛するのは、自分だけ。

私が自分を使い、揺るぎない地位と権力を与える。
そのためにどうやってでも、彼の子種を手に入れる。その為なら、偽りの愛もsexもかまわない。

私は彼にすがり、子種を植えつけ妊娠させろ、と彼をゆする。間違えるな、欲しいのはお前ではない、お前の子種だけだ。私を妊娠させる子種だけが欲しい。

今日の子種は、私の子宮に達しただろうか?秀吉が眠った後、愛おしい我が子を抱くような思いで、自分のお腹をゆっくり撫でる。私は、彼の子種が子宮にドッキングして妊娠し、自分がふっくらしたお腹を撫でているビジョンが見える。

必ず子種を手に入れ、野心を叶える!そのためなら、どんなことでもしてみせる。


Are You Ready?

私の中から声がする

OK!

覚悟はできている。

声に出さずそう叫び女王のように、すっくり立ち上がった。オレンジ色に輝く月がぽってり空に浮かんでいた。私は手を広げ、月を抱くように自分を抱きしめた。


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