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箱庭日記8

1月●日 晴れ
「継承」

お気に入りのマグカップを割ってしまった。

一昨年1人暮らしの祖母が、叔父一家と暮らすことになった。
その際に、家中を整理して祖母の思い出の品々は大半を捨ててしまった。

理由としては、叔父の家に持って行けないから。
本人の意思で捨てた。との事だった。

確かに祖母の家には、狭いながらも長年培ってきた収納術を使って(収納術よりは、収納研究の集大成だが)ありとあらゆる『家の歴史』が地層のように存在していた。

掘れば昭和の時代の扇風機やらミシンやら、もう名前も変わってしまった銀行の古い非売品の貯金箱やらグッズが出てくる。
お年寄りの家にありがちな、何に使うのかわからないリボンや包装紙や紙袋やら旅行の旅に貰ってきたであろう歯ブラシやシャワーキャップがたくさんあった。

私は祖母の家に行くたびに、色々な使える物使えない物をお土産に持たされた。
母は文句を言っていたが、その恒例行事含め祖母の家が好きだった。

そんな事で、仕方が無いとはいえ歴史詰まった思い出の一部を、私に是非貰ってほしいとの事で譲り受けた食器の中の一つだった。

一昨年から愛用していた、マグを年初めに割ってしまった。

裏に某ドーナツ屋の非売品である事が記されていた。

1月●日 晴れ 現在の気温5度
「一日一善」
初詣に来ていたご老人が、賽銭箱の前で財布から小銭をぶち撒いてしまっていた。
周りの人がせっせと拾っていた、私も拾った。

小銭の量が多く、10円や5円が多かったが合わせれば3,000円位にはなりそうだった。

集まってきた小銭を、ご老人が財布にしまっていた。
シェニール織の花柄の財布は、小銭でパンパンになり、チャックの部分まで小銭が圧迫してきているのが見てわかった。

また小銭を撒いてしまわないか心配になった。


1月●日 ヒョウ 珍しい
「継承2」

休みなので徹底的に掃除をした。
掃除機のゴミ捨てランプが点滅しており、ゴミ捨て部分を開けると植物が生えていた。

ホコリやら羽やらに塗れて、白っぽい植物が芽吹いていた。
触ると結構硬く、掃除機内のよくわからない部品を突き破っているものもある。

どうやら先日のマグカップの破片から、育ってしまったらしい。

小さいものは、2センチ程から大きいものは10センチ程まで伸びていた。
陶器のような触り心地で、掃除機の部品を突き破っているものを引っ張ると割れてしまった。

ホコリやら羽毛の中から、慎重に芽が出ているものを取り出した。

無事だったのは5株。

ネットを見ながら、当面は水捌けの良い植木鉢に1株ずつ植えて日当たりの良い場所に置いておく事にした。

とりあえずここに

半年くらいで20センチほどに育ち、花が咲くそうだ。

壊れてしまったものや、失われてしまった様に見えるモノの魂の様なものは実は脈々と継承されている。

私の中にも祖母の家の面影はあり、マグカップは欠片から新しい芽を出した。

きっと良い事も悪い事も、芽は何処かで受け継がれているのかもしれない。


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