【詩】流動
自ら貪欲であることを
みとめながらそれでもなお
ここち良く死を迎えられるその最期を待つ痛みから痛みからだけは逃げたい痛みを退けたい痛みは嫌いなのだ
鼻からチューブを差し込んで耳に達するように操作するのだろう
鼻腔から喉ガラガラ声の喉喉そして耳
チューブは器用に蠢いて粘膜を擦り掻き分けて進む
抽象はいつも優しく具象を包みキスをして誘う
さぁ一気に吹き出せあるがまま流れるまま想いはそんなふうに断続的ではないはずだ想いはこんなふうにぶつ斬りでは
ないはず
今から明日に向かって忌々しい今から忌々しい明日に向かって未来に向かって川は流れていくのだそこに暴虐はありそこに平穏はある
また非道が渦巻くがまた優しさが輝く
きみの誇りが煌めいて私の耳から脳を震わせあの忌々しいチューブが鼓膜を破って喉に戻るさて
今は夏荒れ果てた家の破壊された壁
さて今は秋泣き崩れる少女と蔑むような母の視線
酒浸りで無視する父
汗が匂って藁を腐らせる音
ミシミシ
風景はやがて辿り着いてしまうもう思い出したくもないカミソリの輝く激痛が閃光となって目を射るのだ助けて
助けてくれ
こわい
あの切っ先が皮膚を裂く
刃が撫でる
暗闇に髪を梳く女の影と鏡
思い出は哀しく現実の虜
振り向くと
母さん
笑顔薄い唇豊満な肢体カールした黒髪は薄闇の中で色を失いただ影として舞い踊る
あの階段を駆け上る音ダンダンダンと駆け上る音
父さん
ぎょろぎょろした目が光り細い影を覆い暴れ突き飛ばしうつ伏せて呻く咆哮
咆哮咆哮
闇に千切り毟る花弁にあの日の血液が垂れる
そして滴り落ちて土
吸われて土
抽象は内包した具象を突き上げて虚空へ
闇へ
千遍万遍の行脚
恍惚
ため息の地獄
いつまででもここにいていいんだ
いつまでもここに
安らかな寝顔にチューブを挿してやがて
チューブは
鼓膜を突き破り宇宙に
抽象が拡散して具象を抱き
無限を
実在の
世界に導く
今から抱き合おう滑らかに
汗で滑ろう
地域を壊し縮小する世界の中で死に向かってだれもが走っている
その名の通り抽象は具象を抱き内側から突き破って破裂
宇宙を包む全無意識の拡散と抽象の結合の果てに生まれるのはつまらない生物とそのつまらなさが内包する無限と抽象
自由であるから気楽に行こう
あの辛気臭いノマドの女をこの城に幽閉して存分に
続くよ
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