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【ショートショート】二色鍋

「また陳列変わってる」
「一昨日は変わってなかったのにな。ほんとスーパーの陳列って早着替えみてぇ」

 四季の変化を感じにくくなった昨今。もっとも変化を感じるのは、従前通りのサイクルで動く世間のイベント商戦や商品の入れ替わりだ。この目の前のスーパーの陳列棚もその例に漏れない。イチオシと言わんばかりの目立つ棚でカートを押していた足を止め、そこに並ぶ鍋のだしを眺めた。
 自分が子供の頃に比べ、今こう言った鍋のだしの種類はかなり増えた。それこそ昔は寄せ鍋とキムチ鍋のだしくらいしか記憶にないが、目の前には色とりどりのパッケージ。白濁した色が、鼻をくすぐるおいしい匂いを一瞬で思い出させる鶏白湯だしをひとつ手に取った。

「子供の頃さ、しゃぶしゃぶを食べに行った時だけ食べれる特別な味ってイメージだったなあ」
「二色鍋のやつなー。あれ特別感あるよな分かる」

 私の手元をちらりと見た隣の彼は、「あとこう言う本格的なやつ」と言って、赤色が目を惹くパッケージを取る。いかにも辛そうな赤いスープがぐつぐつと煮立った写真に、本格派や本場の味と言ったセールスフレーズが躍っていた。「分かる」と彼に返してから、今晩は鍋の口になってきたと目の前の紅白のだしに思考を飛ばした。
 今日は鶏白湯鍋にして明日は辛い方にしようか、具材はいつもの鍋と同じで良いかを考えていると、隣の彼が動く気配。たたたっと足音がして彼がどこかへ行き、たたたっとまた足音を立てて戻ってくる。何かおいしそうなお菓子でも見つけたのかと顔を向けた瞬間、視界に迫る箱。

「見て、そこに置いてた」
「……鍋?」
「そ。二色鍋。これ買ったらさ、今日そのだし両方食えるじゃん?」

 彼が手にしていた箱。でかでかと、まるで本格的なしゃぶしゃぶの店のような二色鍋がプリントされた箱。どうやら最近のスーパーは売れると思うや否や何でも扱うらしい。まさかこんな物がスーパーで売られているとは思いもよらず、予想外の登場人物に目が丸くなった。
 それと同時に、先の話を聞いてすぐにこうした行動を取ってくれる彼を、本当に好きだと思った。

「だし余っちゃうから明日も二色鍋になるけど?」
「全然OK! じゃあ今日と明日はしゃぶしゃぶ屋のぶかなの開店だなあ」
「何それ」
「俺ののぶと、加奈のかなでのぶかな。ほらテニスの選手とかよくそうやってペア名つけるじゃん」
「じゃあしゃぶしゃぶ屋じゃなくてテニスプレーヤーになるじゃん」

 カートに乗せているカゴに鍋の箱を入れる。絶妙にダサさの漂う店名が決まったところで、食材の仕入れに二人で足を進めた。



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