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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。…
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2021年2月の記事一覧

曼珠沙華といつかの夢

曼珠沙華といつかの夢

曼珠沙華の工芸茶を飲んだことがある。
いつだったか、東洋の秘境を訪れた時、とある村の人々に振舞ってもらった。

当時は曼珠沙華がどういうものだとか、あんまり詳しく分かっていなかったから何も疑わずに飲んでしまったのだけど、もし君が振舞われたのなら気をつけたほうがいい。
大きな硝子でできた急須に、茶色い蕾を落とし、お湯をゆっくりとそそぐ。
すると、じんわりと透明に色が染み出して、それと同時に蕾が静かに

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カノン

カノン

オルゴール人形は恋をした。
ねじ巻くあの人に恋をした。

優しい手つきで、柔らかな眼差しで、ゆっくりゆっくりねじを巻く。

オルゴールが奏でるメロディーにそっと耳を傾けながら、オルゴール人形の踊りをうっとりと見つめる眼差しに、
人形自身が恋に落ちた。

奏でるうたは恋のうた。

捧げる踊りは恋の舞。

祈りを込めて今日も踊ろう。

“わたし、あなたがみつめてくれて、それだけでしあわせよ。”

オル

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マロンクリーム革命

マロンクリーム革命

ショウケースにならぶ彩どりのケーキたち。
真っ白なクリームと艶やかな赤のコントラストが美しい定番のショートケーキから、まるで宝石を敷き詰めたかのようなマスカットのタルト、デコレーションが可愛らしいカラフルなカップケーキまで、どれもこれも美味しそうで目移りしそうだ。

仕事終わり、前を通りかかる度に気になってはいたが中々入ることの出来なかった店だ。
夜になってしまってはケーキはあまり残ってないかもし

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とっておきのひととき

とっておきのひととき

知り合いから、柘榴コーヒーを貰った。

まあ厳密にいうと、知り合いの知り合いなのでほぼ知らない人からなのだけど。

柘榴コーヒーは本当の柘榴のコーヒーではない。
ただ、特別な製法を行い、柘榴の味を楽しめるコーヒーとなっている。

最近作られる様になった、新しいコーヒーなのだ。

袋を開けて豆を瓶に移す。
カラカラと小気味良い音を立てて瓶の底へ滑り込む。
コーヒー豆は焙煎されているのに、透き通る様な

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結晶の花

結晶の花

その山は一年中雪の降り続ける氷の山でした。
一年中冷たい雪が降りしきる雪山に生き物の影は一つもなく、静かに、ただ静かに深々と雪が積もっていく山でした。

その雪山に降りしきる雪の結晶は、様々な花の形をしていました。
ある時はラベンダー、
ある時は牡丹、
またある時はネモフィラや金木犀。
様々な花の形をしていました。

氷でできた花は氷でできているから匂いや色は欠けていましたが、けれどもとっても美し

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透明のタイムカプセル

透明のタイムカプセル

タイムカプセルを貰った。
透明のまんまるなガラス玉みたいな形で、ガチャガチャのカプセルみたいに真ん中でパカっとあけられるやつ。

使い方は簡単。パカっと開いて片方、どっち側でもいいので入れたい景色をカプセルにかざす。空洞になってるところを景色に向けて、自分は反対側から丸く歪んだ景色をみる。

ゆっくり、時間をかけてかざしていく程に景色はより鮮明になっていく。
15分くらいだと、モノクロやセピア。

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くまのすけ くまたろう

くまのすけ くまたろう

おいら、くまのすけ くまたろう。

くまのおとこのこだ。

かさかあさんくまは、おいらにいう。

くまたろうや、東の山を降りては駄目よ。
恐ろしい獣に攫われてしまうから。

くまたろうや、西の海を越えては駄目よ。
深い海に溺れてしまうから。

おいらのかおをなめながら、ぺろぺろぺろぺろなめながら、こんこんおいらに言い聞かせる。

くまたろうや、くまたろうや、くまたろうや

かあさんくまは、おいらの

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夜のカナリア

夜のカナリア

眠れませんから夜更かししましょう?

あたたかいミルクに落としたいのは胡桃兎の涙?それとも渇きの蝶の鱗粉?
どちらも香り高くて身体が温まりますもの、迷ってしまいますね。

ブルーダの歌姫のレコードをかけて、そっと身を寄せ踊りましょう。
手に手を取って、揺蕩うように。
気持ちのいい音楽と、夜の静寂の境目が、溶けてなくなるまで踊るのです。

あなたのくれた赤い花束、一本ずつ手折っていきます。
あさがく

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オリヴィエのアトリエ

オリヴィエのアトリエ

オリヴィエのアトリエはオリヴィエの宝物が詰まった空間。
キラキラの夜空を閉じ込めた天井、街中かや路地裏から拾い集めたガラクタ、数えきれない程の絵の具たち。
大きな窓からはアリアの海と花が見える。

オリヴィエはハンモックに揺られながら、窓の外を眺める。今日も明日もただぼーっと眺め続ける。
時々、グランドピアノを爪弾いて、退屈そうに景色を眺める。

オリヴィエのアトリエはオリヴィエの大好きが詰まった

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ブリキの砂漠

ブリキの砂漠

ブリキ缶に詰めた思い出は、蓋をして海に流してしまった。

モノクロの虹と音のしないさざ波。

盲目の羊に連れられ、とろとろと進むトロッコの一番後ろに、僕はいた。

一体いつから旅しているのか。
一体自分が何処から来たのか。

何一つとっても思い出せない。

覚えていないのか、忘れてしまったのか、思い出せないのか。
そのいずれでもなく。
ただ知らぬだけなのかもしれない。

見知らぬ旅人が通り過ぎた。

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金のたまご

金のたまご

“金色のたまごを温めると、中から魔法使いが生まれてくる。
魔法使いは初めて見たその人を親と思いとてもよく慕う。
親の言うことはなんでも聞く。
例えばそれが、世界を滅ぼす恐ろしい願いだとしても。”

昔から、伝え聞くおとぎ話。
小さな子供は信じていて、大きな大人は作り話だと笑う。
だけど、僕は今、あながち作り話じゃなかったんだと思っている。

だってお祭りの出店で買った金のたまご。
何とは無しに温め

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半分のオレンジ

半分のオレンジ

はんぶんこにしたオレンジ
大きい方を君にあげる。

甘くて酸っぱいオレンジ
形はまあまあ、でも味はイケるね。

次の約束はできないけれど、
きっとまたこうして出会える筈。

そのときはまたこうして、
オレンジ二人ではんぶんこしよう。

迷ってしまうか心配かい?
そしたら君、今日のことを思い出してごらん
大丈夫、きっとうまくいくから。

世界中何処探しても、
ぴったり重なるオレンジはここにしか無いよ

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さかさまのあさ

さかさまのあさ

あさ をさかさまになって みてみる
せかいは わたしが さかさまになるだけで
いともかんたんに ひっくりかえる
あさ さかさま さあ いこうか

__________
あさとよるには さかいめがある
そのさかいめがまざるしゅんかんを
さかさまになってみつめてみる
あいいろのそらと くりいむいろのくも
まじって とけて きえる
にどとみえない さかさまのあさ

__________
いきをのむ めが

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不思議なショコラトリー

不思議なショコラトリー

恋を叶えてくれる特別なチョコレートがある。

それは、探そうとすると見つからないけど、求めているとやって来る
そんな不思議なショコラトリーで買えるのだそうだ。

ある人は電車に乗ったらショコラトリーにいただとか、またある人は高架下をくぐり抜けたら目の前に扉があっただとか、人によってそれぞれ違う。

重たいドアを開けると、チリンと可愛らしいドアベルの音が響く。

ショーケースには、並べられた色とりど

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