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妄想なのか現実なのかわからないことを綴ります。

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架空の思い出

昔、小川範子というアイドルがいた。女優としてもドラマなどにちょくちょく出て、アルバムも何枚かリリースしていた。その中に『架空の思い出』という曲があった。片思いの女の子が彼とのデートをあれこれ夢想する歌詞。そして、サビのフレーズが、 まだ言葉さえ交わしていない 増えていくのは架空の思い出ね 冷静に考えるとちょっとホラー。『架空』というわりと固い印象のワードと、『思い出』というウェットで情緒的なワードを組み合わせた『架空の思い出』というタイトルが、歌詞のインパクトも相まって強

    • 【一日一捨】 アルコール消毒ジェル

      コロナが始まった年に買ったジェルタイプの消毒用アルコール。 あの頃は何もかもが不安でちょっと外に出るだけでも怖くて家に閉じこもっていた。仕事は完全リモート。誰ともリアルで会わない日々。ちょうど付き合い始めたばかりの彼女がいたけれど、怖くてなかなか外では会えなかった。だったらということで、うちに来てくれたときにこのアルコールで消毒してもらおうとしたら、ジェルタイプはなんだかベトベトして気持ち悪いって言われた。たしかに、と思って液体タイプを買い直したけど、その後、結局、彼女が再び

      • 【一日一捨】 リステリン

        道下君という年下の知人がいる。友人と呼んでいいのかどうかはわからない。道下君はそこそこ名のある企業に勤めていて、イケメンで女の子にモテて、まあまあチャラい。僕とは正反対の性格だし、年もだいぶ離れているけれど、なんとなく気が合い、道下君も僕に懐いてくれて、ときどき一緒に飲んだりしている。たまにうちに来ることもある。去年の末にもわりと遅い時間に「近くで飲んでました。今から行ってもいいですか?」と突然LINEがあり、うちに来た。 道下君、その日はアプリで会った女の子とデートだった

        • 【一日一捨】 根付け

          もう10年以上昔のこと。近くの公園で開催されたフリーマーケットで、僕は文学フリマで売れ残った自作の小説を売っていた。隣のスペースでは、ちょっと年齢不詳なお兄さんがアクセサリーや小物を売っていて、せっかくのお隣さんだから何かひとつ買おうかと、木材を加工した手作りらしきその根付けを買った。 「それ、ラッキー根付けっす。きっといいことあるっすよ!」 「じゃあ、キーホルダーにしようかな」 お兄さんは「じゃあ、オレも…」と、僕の本を一冊買ってくれた。僕はその根付けに当時つきあってた彼女

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        架空の思い出

          【一日一捨】 Tシャツ

          身体をこわして1年ほど病院に通っていたことがある。 2ヶ月に一度、病院に行き、血液検査をして薬を処方してもらう。採血室には、何人かの看護師さんがいるのだけど、その中に、田川さんというちょっとキツい感じのベテラン看護師さんがいた。田川さんは、いつもよけいなことは話さず、もちろん笑顔を見せたりすることもなく、でも、腕はたしかで、針を刺すときも抜くときも痛いと感じたことは一度もない。あまりに上手いので、僕は毎回「今日も田川さんにあたりますように…」と祈りながら採血の順番を待っていた

          【一日一捨】 Tシャツ

          【一日一捨】 香水の瓶

          何年か前にうちでホームパーティー的なことをした。 そのとき友達が連れてきた役者の卵だという男の子がすごく良い匂いで、聞けばユニセックスの香水らしいのだけど、なんだか胸の奥をくすぐられるような、女性的なとても甘い香りだった。それまで香水なんて使ったことはないし興味もなかったんだけど、僕はその香りがとても気に入ってしまい、ブランド名を教えてもらって、六本木までわざわざ買いに行った。香水を一瓶全部使い切るというのはなかなかのことだと思うけど、わりと早くに空になった。その頃には、同じ

          【一日一捨】 香水の瓶

          【一日一捨】 バスタオル

          何年か前、学生時代の友人・安浦が泊まりに来たときに買ったバスタオル。 別に男友達なんだから、わざわざ新しいの買わなくてもよくない? 彼女が初めて泊まりに来るとかならわかるけど。脳内で自問自答したけれど、彼女が泊まりに来るからバスタオルを新調するっていうのは、もし自分の使ってるタオルを貸して「臭い」って思われたらどうしようという理由によるものだけど、男友達の場合はそれだけではない。仲良しとはいえ、安浦が使った、安浦の金玉やお尻を拭いた、そのバスタオルをたとえ洗濯したとしても、そ

          【一日一捨】 バスタオル

          【一日一捨】 ドラえもんのペットボトル

          甥っ子のしんちゃんが、「これあげる!」と持ってきてくれた。 僕がドラえもんを好きなのを知ってたからだ。それまで何度かうちに遊びにきて、よくドラえもんの話をしてた。てんとう虫コミックスのドラえもんはさすがにとうの昔に捨ててしまったけれど文庫版のドラえもんは持っていて、「しんちゃん、この話、知ってる?」とか言いながら一緒に読んだのを憶えていてくれたのだ。しんちゃんのお気に入りエピソードは『独裁スイッチ』と『石ころ帽子』だ。なんとなく共通点がある。小学校2年生にしてなかなか見所ある

          【一日一捨】 ドラえもんのペットボトル

          電車

          何かアイデアを思いついたとき、昔はメモ帳を持ち歩いていた。 ここ十数年はそれがノートPCの『ネタ帳』というファイルになった。 そこに1行のフラッシュアイデアから、わりと長文のあらすじ的なもの、思いついた台詞やギャグ、様々なものを書き込んでいく。ファイルの頁数も随分と増えた。アイデアに詰まったときにたまに見返していたのだけれど、最近はほとんど見返すこともなくなっていた。 昨夜、ふと思い立ち、久しぶりに古いメモまで読み返していて出てきたのが、『電車』というタイトルのついた短文だ

          遺書

          その状況に興奮することを初めて認識したのは、木嶋佳苗の事件をニュースで見たときだ。死んだ何人もの男たち。彼らは騙されているとわかっていたのか、それとも何も知らずに死んだのか。殺されるときどんな気持ちだったんだろう。 自分が彼らの立場だったらーーと想像し、勃起していることに気づいた。それで、当時つきあっていた彼女に冗談半分でお願いしてみた。僕に遺書を書くよう命じてくれないかと。 彼女は面白がって、僕のその無茶苦茶な提案につきあってくれた。 彼女の言うとおりに、僕は遺書を書く。