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お坊さんの袈裟を見ていて、小津安二郎『お茶漬けの味』を思い出した話

近所の家の玄関で、柴犬が寝ころんでいた。そこへ、月命日のお経をあげてきた帰りなのか、お坊さんが通りがかりニコニコと近づいた。
前に掛けている小型の袈裟、絡子を汚さぬよう、スルリと背中に回し、しゃがみ込んでワシワシと犬を撫でた。

その、袈裟を回す仕草がいかにも慣れていて、お経を詠む神妙な様子からは正反対に軽々としていて、、、何だか、
あーいいなぁ。何だかいいなぁ。
と、なんともいえず愉しい心持ちになった。

と同時にふと何故か、小津安二郎『お茶漬けの味』のラスト近く、台所でのシーンを思い出した。

小暮三千代演ずるお嬢様育ちの妻は、佐分利信演ずる見合い結婚した田舎出身の夫を「鈍感さん」と揶揄し馬鹿にしていたのだが、やがて、気取らない、さり気ない人間関係、というものの嬉しさに気づき、そうしてみると、長いこと疎ましかったはずの夫が、急に愛おしくなるのである。
二人は台所でお茶漬けを作るのだが……。

たまたま放送していて見ただけだったが、根っからのお嬢がそんなに急に庶民的になれるかしら、とひねくれた事を思ったものの、このお茶漬けのシーンに印象的なものがあって。
台所に立って漬物を切ろうとする小暮三千代の袂が汚れないように、佐分利信が後ろから引っぱってやるのだ。

あーいいなぁ。何だかいいなぁ。なんともいえず安心だなぁ。

愉しい心持ちになったのだった。

ちなみに、この作品だけ何となく他の小津映画とは違うにおいがするなと思った記憶が。あれは何故だったのだろう。

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