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📖継承者 〜掻動家たちのリング📖  小説『JADE〜衚象のかなたに〜』より詊し読みⅢ

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

 は珟圚の仕事堎である蚓緎斜蚭ぞず向かう前に、グルヌネノァルトの持ち家に立ち寄った。この前憲玲ケンレむず䞀泊したずき、眮き忘れおきた腕時蚈を取りに戻ったのだ。
 だがが、を無効にした車で敷地内に乗り入れたずき、思いがけず門の手前にランゲ倧䜐の姿を認めお、眉をひそめた。倧䜐は䜕故だか懐かしむような郷愁の県差しで、屋敷の方をじっず眺めお立っおいる。
「倧䜐、こんなずころで䜕を  」
 この堎に立っおいるのが他の䞋っ端工䜜員だったなら、䟋によっお䞊の呜什で自分や憲玲の居所を探りにきただけず思うずころだが、倧䜐が自らやっおくるからには、䜕か別の理由があるはずだ。
 はひずたず、圌の出方を窺うこずにした。い぀かず同じように、二、䞉歩距離を保ち、斜め埌ろから慎重に。
 倧䜐は、屋敷の方を向いたたた、ふずこう投げかけおきた。

「私が君を芋出したのは、ただの偶然だず思うかね、ノァむス」ず。

 の反応を埅たずに、圌は続けた。
「あれから 、君を匕き入れおから、早くも十数幎が経぀んだな」
 圌の芖線が蚘憶を遡さかのがり、過去ぞずシフトしおいくのを、は芋お取った。
「君にずっおはカビの生えた話かもしれないが、ただこのベルリンに壁があった頃、私は東偎にいた芪族を逃がすために、あの手この手で亡呜蚈画を䌁お、掻動家グルヌプに働きかけおいた」
 倧䜐ずの付き合いは長いが、圌自身のこうした個人的な話を聞くのは、には初めおのこずだった。
「そんなずき、知人の掻動家の䞀人を通しお、私はある資産家の存圚を知った。圌は欧州にファシズムの嵐が吹き荒れおいた若き日々を、反ナチの地䞋掻動に費やしおきた人物だった。その埌蚪れた冷戊時代には、自ら築き䞊げた富を掻かし、察東偎の問題に取り組む人暩団䜓を陰から支揎しおいお、その道の人たちの間では、䞀皮䌝説的な存圚ずなっおいた。私の知る掻動家たちの䞭にも、東偎圓局に付け回されおいた危ういずころで圌に救われ、匿かくたっおもらったずいう者が䜕人かいる。圌が囜内倖に保有しおいた耇数の別宅は、そのためのシェルタヌのようなものだったんだ」
「──それで俺にあんな䟝頌を  継父ずの関わりがきっかけで」
 䌝説の資産家ずやらの名を聞きもしないうちから、が驚く玠振りもなくそう反応したので、倧䜐はさすがだずいうようにニダリずした。
「やはり気付いおいたのか、圌がそういう人物、、、、、、だず」
「  確信はなかったが、あの䞖代にしおあの性栌だ。容易に察しは぀いた。ファシズムやその他の歪んだ䜓制の脅嚁に぀いおは、生前俺の前でも語っおいたしな。しかも俺は、あちこちに点圚する圌の別宅で転々ず暮らしおきた身だ。屋敷の奥にある叀びた隠し扉の痕跡や、地䞋通路ぞ抜けるワむンセラヌの秘密に気付く機䌚も、圓然あった」
「入念に封印された秘密だ。凡庞がんような芳察県の持ち䞻なら、芋぀けられなかっただろうがね」ずコメントしおから、倧䜐は再び過去の蚘憶を手繰り寄せた。
 冷戊時代の芪族救出䜜戊の過皋で、東偎ずいう共通の敵を持぀の接觊を受け、床々圓局の手を借りおきた倧䜐は、軍圹を経たのち、に入局するに至った。には、囜内倖の掻動家やその関係者たちに関する膚倧な量の情報が保管されおいる。そこで、それたで闇に埋もれおいたかの資産家ペヌタヌ・シュルツ氏に関する極秘の蚘録を閲芧する機䌚を埗た倧䜐は、今曎ながらに圌ぞの興味が再燃した。
 さながら圌に぀いおの論文でも䜜成するかのような勢いで、独自に調査を進めおいった倧䜐は、その延長䞊で思いがけず、晩幎の圌の呚りに珟れた謎の母子の存圚に突き圓たった。はじめのうち、歳の差が開きすぎおいるその若い劻ず、ずおも十代半ばの少幎ずは思えない䟮れない県をした連れ子のこずを、倩涯孀独な老富豪の財産を狙う怪しげな母子ず芋なしおいた倧䜐は、化けの皮を剥がしおやる぀もりで探りを入れ始めたのだが、息子の方の動きに、か぀おの自分や他の掻動家たちの動きに近いものがあるこずに気が付いた。
 そこで倧䜐は、皚拙な自分探しや手前勝手な憂さ晎らしから過激な行動に出る珟代の゚セ掻動家たちずは違う、逃れようのない時代の朮流の䞭で人間尊厳のために奮闘しおきた本物の掻動家たちを、ずっず昔から擁護ようごしおきたシュルツ氏の刀断を信じ、ひずたず遠くから静芳するこずにした。
 シュルツ氏亡きあずも尚、䜕故だかぞの関心を保ち続けおいた倧䜐は、仕事の合間を瞫っおその動向を窺ううち、次第に芋えおきた。各囜に遺された継父の別宅を転々ずしながら、䜕やら胡散臭うさんくさいカルト教団を盞手に独りで奮闘しおいるの実態が。

「──君を芋おいお、思ったんだ。君はおそらく、シュルツ氏が遞んだ最埌の掻動家。その道の玠質をふんだんに秘めた金の卵ずしお、圌が築いたすべおを蚗されたのだろうずね」

 そんなをどうにか埗たいず望み始めた倧䜐は、がの数ある監芖察象の䞀぀だった闇䌁業に斬り蟌もうず乗り出したずきに、奜機ず芋お接觊を図った。前々から個人的に関心があったのだず芚られお譊戒されないよう、本人に察しおも圓局に察しおも、真意をひた隠しながら。
「君なら任せられるず思った。あの圹目、、、、をこなせるのは、君をおいお他にはいない。君であるべきだず──」
 倧䜐の芖線が、目の前のの芖線を正面から捉えた。
「私にずっお未だ謎なのは、䜕故君がこんなにも長い間私のもずに 、いや、圓局に留たっおきたのかずいう点だ。あの䟝頌はあくたで䞀時的な契玄。君自身も確かに蚀っおいた。『手䞋にはならない。互いに必芁を満たし合うために手を組むだけで、ギブアンドテむクの䞀時的な付き合いだ』ずね」
 䞀呌吞おいお、倧䜐は続けた。
「䞀所に居぀かない君のそれたでの生き様ず性栌からすれば、契玄範囲内で䞀仕事終えた途端、ばっさり我々を切り捚おるものず思っおいたのに、君は、教団の脅嚁から解攟され、圓局の埌抌しを必芁ずしなくなった今も尚、ここにいる。第䞀線から退き、教育課に転向したずは蚀え、圓局を蹎っお姿を消すのずはわけが違う」
 は䜕も答えず無蚀のたた、ただ静かに耳を傟けおいた。
「私個人的には喜ばしい限りだが、䞍思議でならないんだ。党く、かのシュルツ氏にも増しお、君こそが最倧の謎だよ」
 䜕かを探るようにじっずの目を芋ながら、倧䜐は今䞀床問いかけた。
「䜕が君を匕き止めおきた、ノァむス いや、ゟラン。我々は君を拘束しおきたわけではない。䜕かの匱みに付け蟌み、脅しお留めおきたわけでもない」
 するずは、その切れ長の目を疑わしげに现めながら、倧䜐を芋やった。

「その発蚀は問題だな。是が非でも匱みを持たせお俺を埗ようず、圓初あの手この手で裏工䜜を仕掛けおきたのは、䞀䜓誰だったか──」

 ハッず目を芋開いお、倧䜐は気たずい衚情を滲たせた。
「  そのこずにも気付いおいたのか」
「気付かないわけがないだろう。圓局が俺に興味を瀺し始めた途端、それたで俺が少しず぀切り厩しお売り捌いおいた継父からの盞続物に、急に買い手が付かなくなったんだからな。俺がその埌の人生を自由に暮らしおいけないよう、たずもな職にすら぀けないように、裏から『誰か』が手を回しお、頻りに道を塞いでいた。ぞず繋がる䞀本道を陀く、すべおの道をな」
 そう、倧䜐はを匕き入れるために、あえお経枈的に逌迫ひっぱくさせお、、、、単独者ずしおの限界を思い知らせるず同時に、が切実に、教団に劣らぬ䜕かの組織力を必芁ずするよう仕向けたのだった。そうでもしなければ、正攻法では埗られない盞手だず思ったから。
「し、しかし、知っおいたならたすたす疑問だぞ。䜕故そんな私のもずに、今の今たで留たり続けたのか」
「あんたが個人的にどういう぀もりでいようず、人物調査の過皋で浮䞊した俺の数々の脛すねの傷を、みすみす芋逃す圓局じゃない。あんたの小现工で収入源を奪われお以来、俺は食っおいくため、掻動資金を皌ぐために、やむなくそこらの犯眪組織や詐欺さぎグルヌプから金を掏りたくっおきたしな。俺が組織から逃げ出そうものなら、圓局はすかさずそれを脅迫材料にしたはずだ。蚀う通りにしなければ譊察に突き出すずか、俺に金を盗られた連䞭に盎接犯人を教えおやる、ずか蚀っおな」
 腰に手を圓お、安定感のある脚力でしっかりず地面を螏みしめながら、は続けた。
「それでなくずも、俺は元々あちこちの囜に䞍法入囜しお逃げ延びおきた流れ者の身だ。圓局に目を぀けられた時点から、どういう埅遇が埅ち受けおいるかは明癜だった。最初のあの䟝頌、、、、を受けたのも、どの道すでに退路を塞がれ逃げられない身なら、ずにかく良回答で応じるのが賢明だず思ったからだ。匱みを握られ脅しおこき䜿われる奎隷どれいずしおではなく、胜力を買っお匕き抜かれたビゞネスラむクな傭兵ようぞいずしお」
 継父からの盞続物を資金源ずしお必芁充分に掻かすこずができおいれば、もっず早くに解決できたかもしれないの地䞋掻動を、故意に劚げ遅延させた身でありながら、四面楚歌しめんそかで䜙裕をなくしお困っおいた圌に仕事ず居堎所を䞎えお救っおやった、ずいうこずにしお郜合良く味方に匕き蟌みたがっおいた圓局を、は䞞めこたれたふりをしながら逆利甚しおきたのだ。
 ちなみに、ナポリの持ち家だけがあっさり売れたのも、偶然ではなかった。ちょうどその時の買い手が圓局の関心のある芁泚意人物で、居所を抌さえお監芖しおいくのに郜合が良かったので、圓局はあの家の売华時だけは劚げなかったのだ。
 だが曎に蚀えば、そういう人物がの持ち家に関心を瀺したこず自䜓、実は偶然ではない。教団の砎壊蚈画の実行日が刻々ず迫り぀぀あった圓時、には日本での地䞋掻動を本栌化させるために、切実にたずたった資金が必芁だった。だから圓局が興味を瀺しそうな人物を遞んで、自分から接觊しかけおいったのだ。もちろん、その盞手にも圓局にも意図的だず芚られないよう、偶然を装っお──。
「やはり君は、返す返すも隅にはおけない男だな。䞀芋どんなに䞍利な状況でも、事を有利に運ぶすべを心埗おいる」
 お芋それしたずでも蚀うように、倧䜐は軜く肩をすくめた。
「だがそれでも、私はただ玍埗しおいないぞ。君なら、本気で望めばい぀なりず圓局の手を振り切り、逃げられたはずだ。脅されようず責められようず、抌さえ蟌たれるような人間じゃない」
 はそれには答えず、質問に質問で返した。
「俺を質問責めにする前に、いい加枛こっちの疑問にも答えたらどうだ」
 銖をひねっお「どの疑問だね」ず蚊き返す倧䜐に、は単刀盎入に投げかけた。

「憲玲を呌び寄せたのは䜕故だ」ず。

 するず倧䜐は、から屋敷の方ぞず芖線を移しお、神劙な顔぀きでこう答えた。
「せめおもの眪滅がし、ずでも蚀っおおこうか」
 屋敷を囲う柵に手を茉せお、倧䜐は語った。
「時代が違えば䜓制ず反䜓制の立ち䜍眮も倧きく違っおくるずは蚀え、私は元々、反䜓制掻動家たちにずっおの守護神だったシュルツ氏ぞの敬意をきっかけに君に興味を持った身でありながら、この道の仕事で染み付いた汚い手を䜿っお、君を䜓制偎のカオスに匕き入れた。そろそろ君を解攟すべきずきだず思っおいたし、できれば教育課ぞの異動を認めるだけでなく、もう少し色を぀けお、君から奪った幎月を返したかったんだ」
「柄にもなくしおらしいそんな話を、この俺が真に受けるずでも」
 のその醒めた切り返しで、倧䜐がたた、持ち前の豪傑颚ごうけ぀ふうの顔に含みのある笑みを浮かべお芋せた。
「実際、君にずっお、圌女は倱われた十数幎にも優る存圚だろう」
「ごたかしおも無駄だぞ。ひょっずしお、俺が教団の開発した生物兵噚を圓局に持ち垰らず、凊分しおしたったこずを根に持っおいるのか あんたのパワヌ・バランスの理念を知りながら、非協力的な行為だったず、凊眰の぀もりで憲玲を──」
「そうだずしたら、君にずっおはずいぶん幞運な凊眰、、だな。本来ならむしろ、倖囜人に譊戒する圓局の劚害で遠ざけられるはずの圌女を、堂々ず招き入れられたのだから」
 の蚀葉を途䞭で断っお、倧䜐はそう蚀葉を返した。
「そりゃあ確かに、ただどこも゚アロゟル化に成功しおいなかったボツリヌスの成功䟋を、研究蚘録䞞ごず抹消しおしたったのは、勿䜓ない決断だったずは思うがね。あれがあれば、危機管理察策の研究に圹立おられただろうし、いくらかは我が囜の抑止力の足しになっただろう」
 人の歎史は殺し合いの歎史。どの時代にも䞖界のどこかで戊争があり、倧勢の血が流れおいる。平和的に暮らせる箇所が存圚するずすれば、それは誰かの正矩の行いがもたらした良心の勝利ではなく、呚りに必芁ずされる『力』の䞋にできた束の間の安党だ。
 たずえば、「この囜の経枈力が砎綻はたんすれば、自分たちも共倒れになりかねない。䞖界経枈の安定ず秩序のためにも、むしろこの囜が富を保持しおいる必芁がある」ず思われるほどの経枈䜓系を築いおいれば、それ自䜓が『力』ずしお働き、必芁ゆえに攻撃察象からは倖される。その力が突出しすぎお、怪物芖されない限りは。
 あるいは「この囜の軍事力が衰えたら、自分たちにずっお脅嚁ずなる別の囜や集団が優䜍に立ち、猛嚁をふるいかねない」ず思われるような圱響力を持ち合わせおいれば、敵も倚いが味方も増え、自囜を守るシヌルドの匷化に繋がる。その堎合もたた、匷倧化しすぎお自囜が怪物ず芋なされない限りは、ずいう条件぀きの話なのだが、少なくずも、䜕のメリットもないからず䞖界䞭に芋攟された匱小囜や、代理戊争で力を挫くじかれた敗戊囜のように、無法地垯のたた攟眮されたり、よその囜々に分割統治されお隷属れいぞくさせられる心配は圓面ない。そこにたた、『力』の恩恵に預かった䞀郚の人たちが、平和的に暮らす䜙地が生たれる。
 そうやっお人も囜も、『力』の傘で血の雚を凌ぎ、戊争ず平和の分垃図は、その『力』の移り倉わりに沿っお時期や堎所をシフトしおいくのだ。
 恒久的な平和をもたらす絶察的に正しい䞀本道など存圚せず、たた怪物を䞀人も生み出さずに枈む時代などずいうのも、存圚し埗ない。どんな囜でもどんな人間でも、きっかけ䞀぀で怪物になり埗るし、すべおの人間が良心に埓った遞択をしお、この䞖から暎力や戊争を皆無にするなどずいうこずは、実珟䞍可胜なナヌトピアなのだ。
 それが珟実だからこそ、どこかの囜やグルヌプに力が䞀極化しお独走を蚱し、䞖界が叞られるような事態を招かないよう、パワヌ・バランスで力を分散すべきだずいうのが、倧䜐の持論だ。耇数の怪物候補を睚み合わせ、互いに絶えず監芖・牜制けんせいし合わせる圢で、それぞれの匷倧化や暎走を封じ合う他ない、ず。
 だから倧䜐は、根っこの郚分では人間尊厳に関わる同じ䜕かを求めながらも、特定の人暩団䜓や反䜓制掻動家たちを支揎したシュルツ氏ずは違い、䞀芋真逆の立堎ずも蚀える䜓制偎の政府機関に身をおいおいる。攟っおおいおも、自分の囜や家族だけが豊かで安党に暮らせればそれでいいず思っおいる倚くの身勝手な人々が、方々からこちらの揚げ足を取り、今にも力を削ごうずけしかけおくるものなのだから、自分はそれに備えお、䞎えられた県前の倧地ず守れるものを粟䞀杯守り、この䞖の均衡を保぀䜜業の䞀端を担えばいい、ず  。
 に蚀わせれば、それはそれでどこか独善的な芳点ず蚀えなくない。だが、自囜の正しさを劄信しお䞖界の譊察を気取り、他の囜々を悪や敵ず芋なすのではなく、自囜や自組織や自分自身の身分さえも、壮倧なパワヌ・バランスの地図䞊に眮かれた駒こたの䞀぀ず芋なした䞊で、倫理や道埳では動かない政治システムの実態ず珟実的に向き合っおいる点で、䞀応に地に足が぀いおいる。
 そしおそんな人だからこそ、䞇䞀い぀かの時代のように、自囜が䞖界䞭の平和を脅かす怪物ず化そうものなら、倧䜐は迷わず立堎を転じお、内偎からその力を削ごうずさえするだろう。のような、枠組みの倖偎の囜なき男、、、、に察する関心ぞず繋がるものは、やはりそれなりにあったのだ。

「君が、この囜の抑止力を補匷するためだけに、自ら進んで殺人兵噚をよこしおくるず思うほど、私の芋立おは甘くない。レオニヌず犬猿の仲にある女性諜報員ちょうほういんを䜿っお、どうにか脇から掏り取ろうずも詊みたが、盞手が君ではそれも適わないだろうず、半ば諊めは぀いおいたよ。そもそもあのボツリヌスは、君を監芖する過皋で目に留たった副産物にすぎなかったしね」
 䞀呌吞おいお、倧䜐は続けた。
「日本での監芖掻動の䞀番の目的は、君だった。君が長幎抱えおきた教団の問題をどう凊理するのかを芋届け、その埌圓局ずの関係をどうする぀もりなのか、確かめたかった。それだけだ」
 倧䜐はそこでようやく時蚈に目をやっお、思い立ったように元来た道ぞず螵きびすを返した。憲玲を招いた本圓の理由に぀いおは、結局定かにしないたた。
 だがその途䞭、倧䜐は出し抜けに振り向いお蚀い足した。
「──立ち去る前に䞀぀だけ断っおおくが、私がこの屋敷を『売れない城』にしたのは、䞍玔な動機からではないぞ、ノァむス」ず。
 が眉をひそめお続く蚀葉を埅っおいるず、倧䜐が今䞀床、どっしりず䜇むペヌルグレヌのシュルツ邞を眺め䞊げお、蚀った。
「数ある持ち家の䞭でも、あのシュルツ氏が最埌に過ごした思い入れ深いこの屋敷を、節操のない珟代の富裕局に売り枡させたくはなかった。他の盞続物をどう扱おうず君の自由だが、この家だけは、君が自分で守り続けおいくべきだ。血の繋がりはなくずも、君は圌にここを蚗された唯䞀の身内なのだから」
 どこか説教臭い響きのあるその発蚀に、は埮かに口蚱を歪めた。
「たるで埌芋人気取りだな」
「実際そんな気分だったよ。最初に私が君を芋出したずき、君はただ若かったからね。たずえ粟神的成熟床は五十を越える萜ち着きでも」
 懐から取り出したお気に入りの葉巻に火を぀け、䞀床深々ず吞い蟌むず、倧䜐は「君もそろそろ行きたたえ。教育課は新人に手本を瀺す堎。教官が遅刻しおは様にならんぞ」ず蚀い残しおから、付近に停めおいた自分の車ぞず歩き去っおいった。
 時間に厳栌なは、䞍枬の事態が起きおも遅れずに枈むよう、垞に半時間以䞊䜙裕を芋お出かけおいるので、い぀も通りの沈着さで䜕事もなかったかのようにシュルツ邞の扉を開くず、目的の腕時蚈を取っおきた。シュルツ氏を祖父に、倧䜐を父芪代理に持ったかのような埮劙なやりにくさを芚えながら。

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── PHASEシリヌズ第二匟
『 JADE 〜衚象のかなたに』より

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