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詩 『不死鳥(フェニックス)』

作:悠冴紀

君は不死鳥になった
私の中で 永遠に消えない

君がお別れを言いに来たとき
あの場に私がいなかったのは
このためかもしれないと 今は思う

君の命に翼が生えて
空高く飛び立つのを見た気がする

君を愛した者たちの涙をあわせ
空が水の翼を編み上げた

君は不死鳥
濁りを知らない柔らかな翼で
今もどこかを舞っている

君はそうなるに相応しい存在だった
私のような人間さえ
許し 受け入れ 愛し方を学ばせた

約束するよ
君を捜して 毎日空を見上げると

雲よりも遥かに高い 開けたところを
毎日必ず見上げよう

── 君が地上に蒔いた種が
私たちの大地で芽吹きだした

翼はここにもある
君の遺した 何よりもの贈り物

私はそこに言葉を注ぎ
君の切れ端を解き放つ

君は不死鳥
二度とは降り立つことのない 空の住人

君がくれた尊いものに
私が綿帽子をつけ 舞い上がらせる

届かぬ君を想いながら
記憶の大地から 君に贈る

君は死なない

君に何かを学んだ者たちが
君のパーツを育てていく

君を空に重ね見る限り
二度と決して 失われない

私を忘れてもいい
私は君を忘れない
二度と君を死なせない

君は不死鳥
皆の涙を翼に変えて
空の彼方で 永遠になった


* * * * * * * * *

※2012年10月の作品。

 この詩は、一見誰か親しかった故人を思って書いた作品のようですが、なんと実は、かつて飼っていた愛犬を思い浮かべて書いた一作です A^_^;

 実家時代、うちでは複数種の犬を飼っていました。(←サイコパスで飽きっぽい うちの鬼母が、自分の実子に対してしてきたのと同じように「お前は充分生きた、もう要らんわ」などと言って餌をやらなくなったり、病気になっても治療費惜しさに見殺しにしたりするので、どの犬も例外なく不幸な末路に至りましたが (T_T)💧) 中でもこの詩の『君』というのは、私が小学生時代に飼っていたトットという名前のコリー犬♀です。(←『窓際のトットちゃん』から取ってきた名前)

 種を明かせば犬ネタだった、ということで、何やら拍子抜けされてしまいそうですが 、作品自体は、喪失感に満ち溢れた大真面目な一作ですし、読み手それぞれの死別体験に置き換えて、必ずしもペットだけではない人間同士の別れなども重ね見ながら読めば、実に切ない話です。なのであえて、「これは犬の話だ」とわかるようなあからさまな表現は、本文中からは省いてしまっています。

 愛する者の死は、相手が何者であれ、残された側にとっては等しく辛く、悲しく、重いもの。そしてできることなら、その生の余韻を永続させたいもの。そんな思いを共有してもらいたくて、なるべく普遍的な言葉で表現したのです。

 ちなみに、作中3行目の「君がお別れを言いに来たとき、あの場に私がいなかった」という部分には、ちょっとしたエピソードがあります。愛犬トットは、死の数日前から、自分の死期を覚っていたかのように、夜中に家族の部屋を順繰り訪れて、いつの間にか傍で一緒に眠っていたのです。(あんなひどいイカレた飼い主たちだったのに!) 行儀のいい犬だったので、いつもなら決して自分から勝手に屋内に上がり込んだりはしないんですが、この時だけは例外でした。

 タイミング悪く、その時期ちょうど泊まりがけで神戸に行っていて、自宅にはいなかった私だけが、トットに最後のお別れをしてやれませんでした。弱った身体を鞭打って、せっかく私の部屋にも挨拶周り(?)に来てくれていたというのに。

 トットとの死別は小学生の頃のことですが、私が年月を経て尚、詩作品に登場させるほど生々しく振り返るのは、ひょっとするとその別れ方が未だに心残りだからかもしれません。皮肉な話ですが、さようならを言い損ねたことそれ自体が、私の中のトットを永遠にした。

 そんな気がしています。


▲ 私のイチオシMusician、ケイシー・ストラットンの一曲。
 タイトルが同じなので、記事に埋め込んでおきました。こちらもとても切なく、美しい一作です。BGMにどうぞ🎹

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注)シェア・拡散は歓迎します。ただし、この詩作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「詩『不死鳥(フェニックス)』悠冴紀作」と明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります!


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