【小説】SNSの悪夢
「何になさいます?」低い声で自分に戻った、さて何を飲もう、酔うといけないのでビールにしよう、バーでビールってのは粋では無いけどな。
「ビールで。」答えながらも、カップルに神経が向かっているので、声の主の顔を見ていない。
一つ空いた席の向こうはひそひそ話になっていて、ここからでは聞き取れない。
「珍しいですね、お一人ですか?」店長らしいその男が低い声で話しかけてくる。
「そうですね、相手も居ないので、ビールだけ楽しみますよ。」不自然な言葉を返した。
「お客さん、何処かで見たことが有るんだけど、役者さんですか?」きっと他人の顔を覚えるのが得意なんだろう。
何も言わずに、指を口の前に立ててみた、これでその話はNGだと理解するだろう。
「今日は1人で静かに飲みたかったので。」そう言って返事はしなかった、自分だと気付かれると面倒だ。
「すみません、こんなバーに来て貰ったのかと嬉しくて、つい聞いてしまいました。」カップルが気になって言葉が入って来ない。
「いえ、私も我儘ですから。」短く答える、隣が気になって仕方ないので、早く話を終わらせたい。
よく考えると、この人に聞いても良いのかも知れないな、少し考え方を変えてみる。
あちらの声は聞こえてこないのだから、こちらの声も聞こえないという事なんだろうと思った。
「ここはカップルが多いですね、自分みたいなのは場違いみたいだ。」話しかけた。
「お一人のお客様も多いんですけど、2人で見える方の方が多いです。」そこはペラペラ話したりしないだろう。
「若いカップルは少ないみたいですけどね、お店の雰囲気かな。」続けたが、不倫カップルの穴場だろうとは言えない。
「そうですね、ここは入りずらいので、落ち着いたお店を望んで見えるお客様が多いようですね。」言葉を選んでいる。
「不倫カップルだったり。」店長以外には聞こえない様に、小さい声で話してみる。
「そんな方も居られるかも。」店長もカウンターを気にして、小声で答えてくれる。
「ここは常連さんが多いんですか?」今度は少し大きな声で聞いてみた、普通に話した方が、勘ぐられない。
「ええ、殆どのお客様は常連さんで、私はよく存じていますよ。」店長が言った。
その答えはあの2人を知っていると言ったも同然だ、あの2人はここに通っているのだろう。
あの2人が居ない時に聞きに来ても良さそうだ、いつの間にか置かれたビールを口に含みながら考えていた。
カウンター席の二人が出て行きそうだ、自分も出無ければ、「いくらですか。」と聞いた。
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