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ゲームデザイナー Saashi の仕事部屋〜2020年6月前半

Saashi & Saashi(サアシ・アンド・サアシ)のSaashiです。今回は2020年6月前半の何日かの分。オンラインのミーティングしたり、テストプレイしたり、人と遊んだり、あとは海外への輸出と契約についてのことなどなど。だんだん暑くなってきましたね。

「ゲームデザイナーSaashi の仕事部屋」シリーズについて
京都でアナログゲームを作っているんですが、手書きで日記書くのがだいたい滞って記録が記録にならないので、noteで綴ってみようかと思い、書き始めてみてるシリーズがこちらです。半月に一度くらいで載せてます。
ただ、わりと忙しくしている気がしているわりに、特に変わり映えしないので地味すぎる日常ですが、自分の備忘録的に書いています。全日の日記でもないし、その時思ったこと書くだけの日とかもありそうですが、「こういう人もいるのだな」と気楽な感じでお目通しいただけると幸いです。

6月前半某日

Engamesの杉木さんがSaashi & Saashiスタジオに来訪。前にご一緒したのは春ゲムマの中止が発表された3月だったから、約2ヶ月ぶりというわけでゆっくりお話する。

まずはいつもの洋食屋でお昼を食べてから、スタジオへ移動してコーヒー飲みつつ団欒。つもる話もあったし、海外事情や工場や流通や仕事の仕方に関してなどいつも話題は尽きないので、すぐに時間がなくなってしまう。そんな中で、自分の作りかけ(進捗15%)のプロトタイプでのプレイテストもしてもらいつつ、ご意見や感想いただいたりして楽しく過ごす。またお会いしましょう。

6月前半某日

THA BLUE HERBのライブ配信があったこの日、ぼくに彼らの音楽を教えてくれた(もう20年近く前なのか)友人とラインで話しつつライブを視聴。思いのほか音質も良くて驚きつつ楽しむ。

そう言えば、彼らの音源はほとんどアナログ盤で揃えているのに、いまレコードプレイヤーが故障していて聴けないので、CDで聴くほかなかったのだが、思い出してプレイヤーの修理を問い合わせてみたらば、古い機材なものだから中古で買い直した方が安くて早いらしい。Technicsの使いやすい型で気に入っていたのだが、そろそろ乗り換えも視野に入れなくてはいけないのかもしれない。

6月前半某日

ぼくが京都で一番おいしいと思っているお店の大将と、お店がおやすみの時にボードゲームをする会を時々していたのだが、今日は久々に4人でその会を。ドイツゲームの簡単なものがメインでいくつか遊んだあと、あとは呑んだり食べたり。

この日はどういうわけか、貴子さんが遊びたいと言ったことから麻雀なるものの手ほどきを大将から受けることに。あ、もちろん賭けたりしてませんよ、ルール把握がメインでプレイしてみただけ。まったく麻雀の中身を知らないのはぼく1人で、随分苦戦しつつルールを教えていただいた。

昔中国にいた時分にはぼくの周囲ではみな麻雀していたのだが、お金を賭ける競技なイメージだったのでまったく興味がなく完全スルーで、中身を知ることがこれまでなかったのだ。

専門用語連発で把握に時間はかかったが、だいたい大枠は掴めたように思う。とりあえず役の種類と得点を覚えていないとゲームにならないことはわかった。プレイ的には待ちの幅を調整することと、損切り的な判断がメインなように感じた。待ちの幅の自由度というか、融通無碍なところはちょっと驚いたなぁ。ゲームデザイン的に、これだけ大きくとった構えの中でプレイヤーに選ばせるゆとりをもったゲームってなかなかないだろうなと思ったのが第一印象。慣れていくことが叶う場合はおもしろく感じることもありそうな気配はあった。

ただ、新規プレイヤーの参入障壁の高さはもう高層すぎて唖然とするレベルで、そこも印象深かった。昔は娯楽が少なかったので、新規者はみな必死に覚えるという構図がなり立っていたのかな。そこまで新規プレイヤーに高い障壁を登らせることを強いて、なおも新規者が一定数いたというのはすごいなと感心する。新規者が猛烈に麻雀のルールを学んでいる姿はその時代の風物詩のような景色だったのかも。まあ、将棋だって囲碁だって、最初に覚えなくてはいけない情報がやたらに多いのが特徴なんだけれども。

6月前半某日

入手してから随分長らく積んでいた三國得志』(Capstone Games)をようやくプレイできた。

三国志1

3人専用のゲームで、中身は ワカプレ+競りなのだが、魏呉蜀の各勢力は武将の質的にも非対称で3すくみをうまく表現している。カードにはテキストがあるのだが、トリックプレイ製の和訳シールに助けられました。武将タイルのほうは名前がアルファベット表記でそこだけが判別しづらかったので、次戦のためにタイルの武将名を日本語化してみようかと思うくらいには楽しみました。(結局後日、武将タイル用のシールを作成しました)

三国志2

一見、海外ゲームにありがちな、なんちゃって歴史物と見えるも、三国志演義には登場しない蜀の陳到をしっかり採用するあたり、作者の三國志正史愛が垣間見える良作。ちなみにインスト込みで数時間かかりましたが、同じメンツで遊ぶなら2回目は格段に短い時間で遊べそう。強く再戦希望です。

6月前半某日

北米の出版社にサンプルを送りたいのだが、まだ送ることができていない。郵便局経由ではまだアメリカへ国際輸送ができないのだ。船便はできるが航空便は難しい様子。いっそ郵便局ではなく他の手段で送ろうかと考えていた時に、ふと「アメリカの国内輸送なら問題なく可能なのではないか」と思い至った。

つまり、わたしたちのゲームを取り扱ってくれている北米のゲームショップの内、どこかのお店にまだ在庫が残っているなら、そこから直接出版社へ送ってもらえば良いのではないか、と。

BGGストアは在庫切れで、その他の小さなゲームショップもほとんど品切れだったが、諦めずに在庫の有無をいくつかの店舗に尋ねてみる。できるなら店主のレスポンスの早い店のほうが良い。そういえば彼がいたな!と途中である店主を思い出してメールしてみたら、即レスで、在庫が数個だけあり、もちろん協力するとのことで快諾してくれた。(送ってもらうゲームの分を買い戻す方向で話を進めるも、「それではわたしの良心が許さない」と無償で送ると申し出てくれるナイスガイな彼でしたが、どうかお店の損失にはならないように配慮させていただきました)

ゲームを取り扱いと問い合わせをしてくれたのが数年前で、これまでに何十回もメールしたり、商品の取引もしてきている経緯はあるのだが、こういう急な(彼には何の得もない)協力を依頼した際にこちらが恐縮するくらい前傾姿勢で快諾してくれる人は、彼だけでなく幾人もいてくれて、しかも金銭的な損失を度外視で申し出てくれるのだから頭が下がる。その気持ちだけでも大変にありがたいと、こういう機会のあるたびに思います。

6月前半某日

欧州の出版社とオンラインでのミーティング。
確認したいことがいくつかあって、ようやくそれを押さえることができた。新たにルールを作ってしまう前に明確にしておきたかったのだ。おかげでスムーズに次の段階へ進めそう。

プロジェクト自体は来年のことになり、続いてそれ以降のプロジェクトもある。ともかくも滞りなく進めることが叶いそうな見通しなので良かった。あちらサイドで進めているものもうまくいってくれると良いな。

とはいえ、それも来年再来年のことなのである。このタイムラグをどう捉えるかは、良し悪しがいろいろとあるが。まあ、出版はこういうタイムスケジュールなのだろうと思えるくらいには慣れてきた。

あとは、別件でようやく英語のインタビューの文章を整え終えて、他者による校正まで終えたのでお待たせした先方へ送ることが叶いそう。このインタビューは質問自体が興味深いものだったので、回答も自ずとおもしろいものになった、ような気がする。やはりその掛け合いは打って返してのラリーみたいなものなので、相手の問いかけ次第で内容はいろいろ変化しますよね。

6月前半某日

新たに買うより、書棚から取り出しての再読のほうが多い期間だった。とは言え、新刊も買ってはいたのだが。

書籍

『書物の宮殿』 ロジェ・グルニエ
数年前にオビ湾さんとごはんに行った際に待ち合わせに使った東京の書店で購入した一冊。当時買ってすぐ読んで、今回はゆっくりな読み返し。ロジェ・グルニエは短篇より中篇が好みなのだが、これはエッセイ本なのでそのどちらでもない。話題はおおまかな区切りでしかなく、つらつらと流れるままに話題が飛ぶのがまた良い。

『思考の技法』 グレアム・ウォーラス
新刊。アイデア発想関連の名著と名高い『アイデアのつくり方』の元ネタとも言われる本書が「本邦初訳」という惹句だが、中身はわりと落ち着いた読書時間を要請する内容。少し古いかなと思われるところもあるが、嫌いではない。アイデアを練る際の「培養」や「習慣」についてなど興味深い指摘も多々。教育など広範囲に渡るが、「発現」の箇所などおもしろく読みました。

『百年戦争』 佐藤猛
新書は昔から玉石混淆だけれど、最近良いほうの新書はにわかに熱い。英仏王家の戦いの歴史を勘所を押さえつつ書かれた読み物。コーヒーのお供に気楽に読めるので重宝する。ジャンヌ・ダルクによるオルレアン解放など、そのあたりの前後の出来事が希薄だった自分の知識がふと繋がり合うところが出て心地よい。

6月前半某日

週末ちょっと疲れ気味だったのか、寝不足なのかわからないがちょっとダウン。朝方からスタートして12時間ぶっ続けで寝る。起きたら回復。やはり睡眠不足なのか。

急ぎのメールを返してお風呂に入ったあと、再開したスペインサッカー観たり、本を読んだりして数時間、ようやくエンジンかかったので、メモをとりまとめつつゲームアイデアを整理する。集中力を使う作業である。緩慢にやってもただメモ書き写したり集め直したりするだけに終わってしまうので、集中力のある中で「新しい何か」が発見していきつつやらないことには始まらない。やったら疲れて少し昼寝。

6月前半某日

数年前からやりとりのある社から、海外におけるディストリビュートに近い形での販売の話の相談が舞い込む。いま現在は北米にゲーム輸送をしづらいタイミングなのでポンポンと進めるのは難しいのだが、将来的に広がる可能性があることをぽつぽつ話し合ったりする。

前提として、自分たちで製造したゲームを海外へ輸送して販売することと、出版契約を交わした上で現地出版社がパブリッシュしたゲームを売ってもらうことは状況としてまったく異なる。前者はディストリビュータやショップ経営者に卸売するわけで、これは日本国内への卸と同じような感覚で、売る商品はわたしたちが製造した「わたしたちの商品」である。が、出版契約を交わして現地出版社が売るものは彼らが製造した「彼らの商品」である。

むしろ両商品の利害は相反していたりするわけで、両者は並び立ちづらい。海外のゲームが日本国内で「和訳付き輸入版」として流通しているところに同じゲームの「日本語版」が販売を開始した状況を思い浮かべればわかりやすいだろう。

時期として、両者の販売時期がかぶらないことも状況としてはありうる。が、出版契約を目論む現地出版社としては、すでに彼らの国内でかなりの数が「輸入版」として出回っている商品は、契約対象としての魅力が下がることは否めない。希少感のあるゲームのほうが出版後の売り上げの伸びがありそうな印象があるためだろう。(とはいえ、前者が彼の国で流通する全体量によります。)

実際には、現地で「輸入版」を購入する層と、後者の現地出版社がパブリッシュしたものを購入する層は異なるという側面もある。前者は海外からの舶来品として多少高額であっても「輸入版」をいち早く手に入れたいと考えているアーリーアダプタ的な層なのだ。後者はその「輸入版」は高額だと感じて手を出さない層である。

つまり後者は安価になった国内出版社の出版物のほうを喜んで手にする層なのだから、実際はそこまで利益が相反しているのかと言えばそうでもないのかもしれないが、両者が同じ市場に同じ時期にあれば、高額なほうが売れ残るリスクがあるのも事実であり、また後者に関わる出版社が前者の商品を事前に見る機会が多ければ多いほど「すでに国内に数多く流通しているという印象」を持たせることになり、出版契約に二の足を踏む要素にはなりえるだろう。

このあたりの話は書き出せば長くなるので、別の機会に独立した記事にしたほうが良いかもしれない。

ともかく、将来的に現地出版社との出版契約を見据えているのであれば、現地でのディストリビューションに関する話はなかなかにデリケートなものになる。というわけで、慎重に話し合う。要は規模の大小によって状況は変わってくるのだから、詳細を詰めていったら両者の良い落としどころは見つかるかもしれないのだ。

6月前半某日

起き抜けに貴子さんとカフェ・ヴェルディへ。久々である。窓を開けて、席数も半減させた中での営業なので、タイミングが良くないとすぐに満席ということもあり、以前のような頻度では行くことができていないが、来たら来たでリラックスできる。コーヒーと読書、あとはちょっとメモと考察。

自分が自分のやっていることに厭(あ)きないために、以前から思っていることがあって、それを実行に移しても良い時期なのではと考えたりする。生活や活動全体がルーティンに陥って硬直化し、それを繰り返すだけでは刺激や活力がなくなっていき、厭きたらそれまでなので、そうならないように昔から何事にも配慮してきたつもりである。それほどに自分の「厭きやすさ」が怖いのだ。かつてあれだけ楽しんだ音楽というものを、丸10年のあいだ心から楽しむことができなかったように、いまゲームに関わることを楽しめなくなるのは避けたいということである。そのための方策。要は新鮮な気持ちで楽しめるようにという工夫の話。

タイミングを推し量るのはいつも難しい。(自分の中での)ジャストを狙おうとして、ちょうどジャストのつもりが遅すぎたり、早かったり、というズレはきっとある。結果はつねにあとで明確になるものだから、決めた瞬間には良いも悪いも判断しづらいものだ。

だから、なるべく楽しくなるほうへ少しでも近づけている気がしたのなら、それは良いサインではないかと思うようにしている。たとえばクリエイトなら、作っているあいだ楽しくなるほうへ自分を導いていけるような気がしたのなら、それは自分には「良いもの」ではないかというわけ。

この春は新型コロナの影響で大阪と東京のゲムマがなくなったので、大阪行きや東京での滞在がなくなったというのはあったが、それ以外はやることが少なくなるということもなく、もうちょっと少なくなるのかなと思って、この機会にいろいろいつもなら進められないことを進められるかもとか考えていたのだが、実際は普段とやる量がそれほど変わらず、ものによっては増えたりもしていた。

時々、ふと思い出したように和歌集を書棚から取り出す時があって、それは自分の場合、無性に心が潤いを欲している時にそういう行動に出やすい傾向があるのだが、こないだ『後撰和歌集』を手にして読みふけりつつ、そこに満載の情緒がしんしんと心に沁みていくのを確認して以後、近頃はできるだけよく寝るようにし向けています。

ということで今回はこの辺で。

Saashi

2020年6月上旬

Saashi & Saashi
Twitter / WEB


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