連作短編『愛とiと』3-前編
三、氷山新希 スーッと空気の漏れる音が聞こえて隣を見ると、やはり仁が寝息を立てていた。相変わらず幸せそうな顔をしている。私は笑いをこらえて隣の席を軽く蹴る。
ゴン。
鈍い響きに驚いて彼が目を覚ます。もう何度、このやりとりを繰り返しただろうか。
中間試験が終わった頃から彼の遅刻癖は鳴りを潜めている。が、代わりに授業中の居眠りが増えている。つまりは早起きした分だけ眠気に負けているということだ。なんて素直な体質だろう。
「サインコサインを教えてください」
期末試験を控えたあ