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【短編】独占禁止⑵
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遂に、私にも「検診」が回ってきた。昨日のことである。屋根裏で息を潜めながら、無線を傍受していると、階下でインターホンの鳴る音がした。
私はすぐに受信機の電源を切り、デスクライトを消した。近くの毛布を手に取り、身体に巻きつける。もう一度インターホンが鳴る。縮み上がる思いで、私は部屋の片隅にうずくまった。
しばしの静寂の後である。インターホンを連打する音が聴こえてくる。誰もいない一階の部屋に、連続したチャイムが虚しく響き渡る。
チャイムが聴こえるたびに鼓動が激しさを増していく思いがした。緊張で火照る身体から放たれた熱気が、カモフラージュのための毛布でこもる。私にはとめどなく流れる汗が、気温から来るものか、それとも緊張から来るものなのか、その温度がよく分からなかった。
「大野さん、いるんでしょう。早くしてください。検診の時間ですよ。」
窓の外から看守の怒鳴り声がする。いよいよか。私は身構えた。彼らがこれから何をするかを考えるだけで恐ろしかった。
次の瞬間、ふかしたエンジン音が静閑な夜空に不釣り合いに轟き、地響きが身体を小刻みに揺らした。あまりの煩さに耳を塞ぐ。エンジンがゆっくり停止し、一瞬静かさが戻る。それも束の間、バンっと扉を蹴り破る音が聴こえ、それに続いて大勢の足音がした。
一体何人いるのだろう。足音からして五〜六人ということはないはずである。少なくとも、階下には十人を超えている気配があった。
それだけではない。なお、家の外にはその数倍の看守がいるのである。窓から飛び出しようものなら、即座に包囲されてしまうだろう。
仮にその場を繕えたとしても、捕まるのは時間の問題だった。看守たちは尋常ではない連携をするのである。その様子は、まるで看守全体が一つの意思であるかのようであった。
捕まれば「検診」よりもはるかにおぞましい「教育」が待っている。そうなると最後、二度と帰っては来られない。それだけは何としてでも避けねばならない。
もう逃げ場などどこにもなかった。私は、ただ息を潜めるしか出来なかった。
床下からあらゆる破壊の音が聴こえる。壁が、床が、クローゼットが、どんどん壊されていく。それも当然だった。もうそれらは私のものではないのだから。
看守たちがだんだんと声を荒げはじめる。心臓は今にも破裂しそうな勢いで脈打っていた。私は必死にそれを鎮めようとした。大丈夫だと、無理にでも自らに言い聞かせ、看守の目の節穴を信じた。
それでも、鼓動は鎮まらなかった。それどころか、見つかった時のイメージばかりがまぶたの裏にうち出でてどうしようもなかった。心臓は張り裂けんばかりに膨張する。
その時だった。膨らむ心臓に胃が押されたのだろうか。暑さにとうとう参ったのだろうか。それとも、アドレナリンの限界が来たのだろうか。抑えきれないほどの吐き気が私を襲った。そのまま、私は勢いよく吐き散らかした。
下の音がピタリと止まる。それから、ガタガタと何やら引きずる音がして、カチャっという音とともに床が縦に少し揺れた。
私は"無事"、発見された。看守は床に散らばる吐瀉物など気にかける様子もなく、私を冷ややかに連行した。一階の部屋はもう家具の一つもないのに、散らかって汚かった。
こうして私は、吐瀉物にまみれたまま家を後にし、「検診」に向かうこととなった。
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