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【夢日記】<中編>願望夢と現実が行ったり来たりする不思議な夢を見た

※前編


【願望夢②】

僕は大学のバスケサークルで最後となる合宿に参加していた。

僕が所属していたサークルは、3年の夏休み時期に行なわれる夏合宿をもって、引退することとなっていた。

「引退」とは言っても、完全に退くわけではない。それぐらいの時期から、各々、就職活動に関する動きが慌ただしくなって来て、サークルに時間と労力を大きく割くのが困難になっていくため、第一線からは退いて、サークル運営を適宜サポートしてくれる、困った時に頼りになる4年生として、役割が変わって行くわけだ。

最後の合宿の最終日、今日をもって引退することとなる3年生が、一人ずつ、マイクを持って、サークルの思い出を振り返る時間が設けられていた。

僕は、他の人の思い出話には、聞き流す程度で、あまり耳を傾けていなかった。こういう言い方をすると角が立つかもしれないが、まぁ想定の範囲内のことを話している人が大半だな、などと考えていた。

僕は、自分の出番が巡って来たらどんなことを言ってやろうか、そのことばかりを考えていた。聞き手に回っている時の自分と同じように、周りから、まぁ想定の範囲内だな、と思われたくない思いで一杯だった。ゆえに、他の人の話を聞く余裕なんて無かった。

気付けば僕の出番となった。

僕は、話し手のために用意されている壇上に立ったが、仏頂面のままだった。他の人は、手を振ったり、ペコペコしたり、その人のキャラクターに応じて、その場に適しているとされる立ち居振る舞いを行なっていたが、僕は、淡々と準備を済ませ、聴衆に呼びかけることも一切無く、ボソボソと話し始めたのだ。

そんな僕の様子がウケたのか、聞き手のクスクス笑いが僕の耳に入って来た。仏頂面を崩すことは無かったが、心の中で「よしっ」と感じながら、やはり声色はボソボソのまま、サークルの思い出を振り返っていた。

話す内容は、経験していないことを語ることは出来ないので、他の人と大きく異なる部分は無かったのだけれども、自分で言うのもおかしな話だが、独自の観点をふんだんに盛り込んで、どこまで本気なのか、どこまでボケなのか、話している僕自身、良く分からなくなってくるような漫談を展開していた。

どんな漫談が行われていたのかを具体的に紹介すると、大体、こんな感じだったと記憶している。

「僕は、サークルに入るタイミングが、他の人よりも少し遅れています。なぜなら、大学に入ってまでバスケットボールをやろう、という殊勝な気構えを、ココに居る人と比べて、あまり持ち合わせていなかったからです。大学生とは、言わば、学校から社会へのモラトリアムみたいなもの。あの時(大学入学直後)の自分は、この4年間で一生分遊ばずしていつ遊ぶんだ、そんな思考回路で満たされていたんでしょう。」

「しかし、他のサークルを見学したり、体験入部してみても、どれも自分にはしっくり来ません。気付けば、時間だけはあるがどこのコミュニティにも所属していない、大学とは、居場所は『他人に作られるもの』ではなく『自分で作り出すもの』であることを痛感した僕は、原点回帰、やはり自分の居場所はバスケットしかない、そう、俺はバスケットマンなのだ、と思い直した僕は、紆余曲折を経て、当時、バスケットボールサークルの代表を務めていたMさんに連絡を取り、入部希望の旨を伝えたわけです。」

「Mさんからは『昼休みの時間帯に空き教室を利用してミーティングを行なっているからそこに来てください!』と返って来ました。僕は指定された時刻、指定された場所に行ってみると、完全アウェーの空気感、とでも言うのでしょうか、知らない人が知らない人とワイワイ盛り上がっている光景が目に入って来て、一瞬の内に、居た堪れなくなり、『部屋を間違えました!』と、そのまま出て行ってしまおうかとも思いましたが、それでは現状は何も変わらないぞと、お前は自ら居場所を作り出すと心に誓ったんだろうと、自らを叱咤激励し、空いている座席に腰掛け、Mさんが来るのを待ち侘びていいました。『待ち侘びて』という表現が適切だと言い切れるぐらい、僕はあの時、仏頂面だったと記憶しています。それこそ、今の僕の表情とは比較にならないでしょう(意識して仏頂面を作っているよりも、無意識に仏頂面になっていた方が、仏頂面ゲージは圧倒的に高いという意味で)」

「あの頃の話になると『幽霊部員が突然ヌッと現れたと思って内心ではドキドキしていたんだよ』だとか『あの頃の流星(僕の名前)は襟足が首ぐらいまであったから、ドコのヤンキーがやって来たのかと思ってビックリしたたもんさ』といった類いの笑い話に発展することが多いのですが、僕に言わせてみれば、椅子に座って、前方斜め下を凝視して、いかにも所在無さげそうに待機していることしか出来なかった、そんな空気感を作り出していたアナタ達の方がよっぽど怖かったと断言出来るのですが、今振り返れば、僕の風貌の問題で、気軽に声を掛けて貰えなかったんだなと。おそらく『近寄るなオーラ』も四方八方に巻き散らしていたのでしょう。結局は、自業自得だったわけですね」

こんな感じの内容を、仏頂面を崩さず、声色に感情を乗せないよう、ボソボソと話し続けることに注力していた。

つまり、テーマとなっている「サークル活動を振り返って」からは逸脱していないものの、節目節目のイベントを取り上げて、その時に思ったことや感じたことを話すといった風に、お決まりのパターンで語るのではなく、自分の情動が強く動いた一場面をピックアップして、これでもかと言うぐらい詳細に描写する、そうすることで独自性が生まれて、僕にしか出来ない思い出話になる、と仮説を立てたわけだ。

結果として、この仮説は、大成功だった。

言ってしまえば、僕の話は、フォーマットを無視した構成になっているため、「大学1年~現在」を、丁寧に掘り下げてはいない。そういう意味ではアウトだ。

しかし、聞き手からすると、似通った話を何度も聞かされていたことに、内心飽き飽きしていたのか、僕が一風変わった話を、さも不愉快そうに話しているものだから、独特な空気感に、思わずクスクスしてしまい、そのクスクス笑いが他の人のクスクス笑いを呼んで、といった具合に、笑いが会場全体に伝播(でんぱ)していったのだった。

そんな様子をさり気なく横目に見やりながら「よしよし」と内心でほくそ笑みつつ、僕は、僕にしか話せないサークル活動の振り返りトークを、最後まで貫いた。

これも、自分で言うようなことではないのだけれども、話し終えた後の拍手の音は、一番と言って良いぐらいに、大きかった。

それでもやはり、かたい表情は崩さなかったが、少し口角は、上がっていた気がする。形容するならば、してやったり、というような、狡猾な笑み、と表現するのが最も適しているように思われる。

~後編へ続く~


※後編


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