りゅりゅ

言葉を起こしたい時に、俳句のように、日常を発信します

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人生で一番大好きな人

「かなでって名前はどう?」 「えっ、かなで?」 「花に奏でるで花奏、良い名前じゃない?」 「良い名前だよ、めちゃくちゃね」 二人目を授かったと、医者から聞いた。まだそのレベル。女の子だとか、男の子だとか言われてもない。 「雨が降る気がする」 晴天の空。俺は、言葉を残して洗濯物をしまう。 「今日、そんな予報なかったよ?」 桜は首を傾げる。これで降ったら、天気予報士以上だねと微笑みながら。 そんなんじゃない。俺の脳の片隅にあった記憶のかけらが、予報しているだけだ。 「翔くんには

    • 蝉の声

      明日から夏休み。私は夏休みが嫌い。 新しいクラスになって仲良くなった時間が遡る気がするから。 夏休み後の独特の空気感が苦手。夏休みに友達と遊べばいいって話ではない。 母親の実家が遠方にあるから、夏休みはこっちにいない。 「明日何する??」「カラオケ行こ!!」 そういう言葉たちが教室の宙を舞う。私の前には現れずに。 あの夏休み後の空気感は何かに似ている。 なんだろう。そう思いながら、制服のスカートを握りしめる。 パカパカと脱げたり履いたりを繰り替えすローファー。 あぁ、好き

      • 五月病

        雨音が響く教室。室内には、タイピングをする音も複合機が稼働する音も聞こえる。卒論の中間発表に向けて、作業をする男女。 いや、抽象化すると生きている人間。生きている人間って表現は合っているのだろうか。死んだ者はもう人間じゃないのか。ただの有機物。そんなことを考えていた。 「雨ばっかりでつまらないですよね。気分も上がらないし」 石原の声が微かに響いた。 「それ、僕に言ってる?」 「この状況で誰に話しかけるんですか」 「AIとかじゃない?」 「哲学科なんですから、そんな話はやめてく

        • スクランブル

          学生という身分と一緒に君への好意を置いてきた。そんな春だった。あの子とは、もう会うはずがない。そう思っていたはずなのに。 表参道の喫茶店。観葉植物に囲まれた席に座っている。目の前にコーヒーを挟んで、眼差しを輝かせる君が座っている。 何故、ここに居るんだろう。 学生じゃなくなって、社会人になった。朝起きるのも辛くて、大好きな星も見られずに寝るだけの毎日だった。 異常に休みが尊くて、アラームに呼ばれた後も、頭は冴えない。開かない目を擦りながら、コーヒーを淹れる。 コーヒーを持っ

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        人生で一番大好きな人

          宗教的観測から恋の唄

          人は信じたいものしか信じられない 彼が私を好きだということを信じ 彼が私を嫌いだということを信じない どちらも私が対象物なだけなのに 彼も同じだろうか 赤いリップに、ピンクのシャドウ それが私を構築する 彼は気付いているだろうか 好きとか恋とか後天的な名称に過ぎない 抽象化していったらただの文字だ 好きと恋の違い? ガ格かニ格かだよ 彼が好き、彼に恋する 愛するはヲ格だね 全部違う 人間は全て異なる定義にした 言葉は美しい 言葉が先か、現象が先か 花見もするし、月見もする

          宗教的観測から恋の唄

          黄色い手紙

          「気味が悪い」  ポストから手に取った瞬間声が漏れる。また、黄色い手紙だ。半年前に彼氏と別れてから毎月届く。しかも、その別れた日と同じ日に届く。普通に考えれば、私が彼のことを振ったからその腹いせにこんなことをしていると考えるだろう。確かに振ったけども、それも彼の浮気が原因だった。第一、そういう性格ではない。 「麻穂さん元気?彼氏さんと別れて半年が経ったね。落ち込まないで前向いて歩こうね」  内容を読む度に寒気がする。初めて送られてきた時は、「黄みが悪いとかけているのか?」とか

          黄色い手紙

          罪深き美味しさ

          深夜に食べるカップ麺が美味しい そう相場が決まっている 好きな人と食べるカップ麺が美味しい そう相場が決まっている ならこの二つは等号で結べるのではないか 深夜に食べるカップ麺=好きな人と食べるカップ麺=美味しい つまり深夜=好きな人 深夜が闇に僕を誘い 好きな人が恋に僕を誘う 忘れられない夜の匂いと忘れられない君の匂い 知らない間に光が差して知らない間に闇が覆う 戻れない闇の深さに足を奪われて 振り向かない長い髪に目を奪われて どんどんどんどん底の見えない闇に引き摺り込まれ

          罪深き美味しさ

          ドーナツシンドローム

          真ん中がくり抜かれて成立するドーナツ 何かを失って成立する 私たちは何を怖がっている 友達との離れ 恋人との別れ 学校の卒業 最後のときを 失ったものを補うように 正が負を 負が正を 平衡を求めるように 生は死を求め 死は生を求める 何かを失うことを怖がっている みんなドーナツでいい 何かを失って成立しよう 失って完成しよう たとえ、あんなに言いたかったありがとうを言えなくとも 存在しないものの美しさ心を動かす 失った先の美しさを望んで 催花雨に触れて 前を向いて歩もう

          ドーナツシンドローム

          離れた想い

          「玲花ちゃんって冷たいよね。冷花だよそれじゃ」 よくそう言われる。私だって、無邪気に生きたいよ。 水色のワンピースも金色の髪飾りもつけてかわいくなってみたい。 他人から何を言われるかが怖くて純黒のワンピースに小さな髪飾り。 感謝も楽しさも貴方に伝えたい。 くしゃくしゃな笑顔で伝えたい。 どうしてもかっこつけてしまう。かっこよく生きなさいなんて教わってないのに。 私の発言がどう捉えられてるのかが怖くて。 何かを失うのを怯えて。 この1年間とても楽しかった。 私から滲み出る楽し

          離れた想い

          The moon

          SideA 深夜2時。夜風が眠れない僕を覚ましてくれる。この凍える風と戯れ合って。この時間の静けさが好きだった。太陽に照らされていた表の時間は、音も光も騒がしい。この時間の暗闇と静けさがこの街の本当の姿を教えてくれる。 音が無い音を求めて彷徨い続ける。元々目的がない散歩だ。彷徨ってるわけではないのかもしれない。ただ眠れないだけ。 こんな時に珈琲があれば幸せだなって思う。凍える風に遊ばれた体が暖かさを求める。こんな暗闇にそんなものはない。 あるのは誰もいない公園と車の通らない

          逆さの君と天邪鬼な僕

          昨夜、雪が降った。学校の話題は雪でしかない。 晴天の青空が僕たちを照らす。教室に入り込む光が一人ひとりを明るく。 積もってない雪の話なんて何が面白いんだろう。 一般的に冷めている部類なのか。東京はレアなのかもしれない。それでも、日本海側や北海道に行けば雪なんて見飽きる。 積もっていない雪の話をしている人間の方が面白いね。そう思いながら、青空に目を移す。 「今日一緒に帰れる?」 後ろから、椿が声をかけてきた。この前付き合って、1年半が経った。雪の話で盛り上がらないドライな奴と付

          逆さの君と天邪鬼な僕

          移ろい

          紅葉が深い。紅色に染まる。 青い空を背景に。 黒い星空を背景に。 輝く月。そんな晩秋のころ。古賀は散り始める銀杏並木を歩く。 1人ではなく2人で。古賀の隣には舞川。 その2人を覆うように木々が立つ。そして一本の紅葉。 「緑くなって黄色くなって赤くなる。信号みたいだよね」 舞川沙苗が赤く染まった紅葉の前で立ち止まる。それを見て古賀も立ち止まる。 「信号は青だよ」 古賀は笑いながら言った。色の定義。古賀は立ち止まりながら考えた。色って曖昧な概念だ。 日光に照らされた紫外線で体は赤

          白雪

          11月末。世の中のカップルは、クリスマスの予定を決めつけるころ。 もう遅いほうなのかもしれない。私たちも同じようなものだ。 男女で溢れる都内のスターバックスで彼が口を開く。 「クリスマスどうする?」 「3回目のクリスマスだね」 私は、黒いスカートの上で手を握り締めて答える。どうしたくもなかった。事実を言っただけ。 「今年は、学生最後のクリスマスだし、少し背伸びしない?」 涼が無邪気に笑いながら私も見つめる。この無邪気な笑顔に罪悪感を受けて、2ヶ月も別れを切り出せていない。それ

          月うさぎ

          今日22時に月を見ようよ。 鼓動が速くなる。突然の好きな人からの誘い。仲は良いと思う。二人で遊んだとかはまだない。 「そんな夜に外出れるの?」 「違うよ。それぞれの家で月を見るの!さっき今日の月は綺麗だって理科の先生が言ってたじゃない」 その言葉を聞いて、鼓動も落ち着いてきた。冷静に考えよう。遊んだ事もない男と月を見るなんて、ありえないじゃないか。 それでも、そんな提案をしてくれたことだけで嬉しい。今ここが教室じゃなくて、部屋だったら…。舞い踊っただろう。 その後の授業の記憶

          月うさぎ

          2人だけ

          世界に2人しかいないみたいだね。 彼女はそう言った。本当に2人しかいなかったらどうだろう。 見つけられるだろうか。1人で見るこの星たちはどう映るのか。 こんなに輝く丸い月も、僕だけなら丸いなって感想。 2人でいる。その事実に付加価値がつく。 夜空でかくれんぼしても見つけられるよ。 金属探知機のように。それはもう必然であるかのように。 見つけられないように全力で隠れるよ。 彼女は笑いながら言った。子供のような瞳には、 広大な夜空と星たちが反射する。 あぁ、月も星も2倍に増えた。

          皆を照らして

          「みんなでお月見しない?」 夏実が高崎ゼミの人たちに声をかける。9月にもなり、少しずつ秋の訪れを感じる。 彼女を好きになって2年。振られて1年が経った。彼女も僕もそのことは気にせず、過ごせている。 ゼミのみんなは、お月見に賛同している。細かくなんて言っているかは、わからない。ただ、この盛り上がりからそう感じる。 「北村君も行くでしょ?」 彼女が顔を近づける。その距離に少し驚いて曖昧な返事になった。振られたとはいえ、こういう無神経なところが夏実にはある。 好意はないとしても、好

          皆を照らして