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逆さの君と天邪鬼な僕

昨夜、雪が降った。学校の話題は雪でしかない。
晴天の青空が僕たちを照らす。教室に入り込む光が一人ひとりを明るく。
積もってない雪の話なんて何が面白いんだろう。
一般的に冷めている部類なのか。東京はレアなのかもしれない。それでも、日本海側や北海道に行けば雪なんて見飽きる。
積もっていない雪の話をしている人間の方が面白いね。そう思いながら、青空に目を移す。
「今日一緒に帰れる?」
後ろから、椿が声をかけてきた。この前付き合って、1年半が経った。雪の話で盛り上がらないドライな奴と付き合ってていいのかと思うが、そんなドライな奴が女の人と付き合ってることの方が面白いって言われる気がして躊躇う。
「帰れるよ」
はいって声と左手のOKサイン。この人もドライなんじゃないかって思う。去っていた彼女を視線で追うと、友達と雪の話をしている。
雪合戦がしたいのにとかなんとか。そんな声が澄んだ空気を震わせて聞こえてきた。僕はその姿をずっと見れた。
帰れるよって返事は冷たかったかなと考えながら。
いつも通りの授業。使う気のない数学の授業。退屈な古文。アルファベットを並べ続ける授業を終え、帰りの時間。
別に学校の授業が退屈なわけではない。勉強が好きだって言えない雰囲気が僕にある。考えすぎなのかもしれない。
好きなことを好きって言える人間になりたかった。強がって己を鼓舞せずに。自分の語彙力と語彙量は必ずしも比例しない。
椿を廊下で待つことにした。同じクラスなのだから、教室内で待てばいい。僕にはそれが少し気恥ずかしかった。
「お待たせ。待った?」
「同じ時間にHR終わってるから待ってないよ」
「今日も冷えてるね〜」
「僕が?それとも気温が?」
どっちもだよ。微笑んだ顔で答えた。彼女はよく笑う。僕の顔を見て。彼女の顔を長く見られない。緊張してしまう。全力疾走した後のように徐々に顔が色付く。それを隠すように前を歩いて下駄箱に向かう。彼女は美しい。それを再確認して歩きながら気分が高まる。
「また雪降らないかなぁ」
下駄箱で椿が音を揺らした。彼女の声は冬が一番美しい。
「北海道は降ってるんじゃない?」
また、つまらないことを言ってしまった。本当は一緒に雪が見たいだとか雪合戦したいとか言いたいのに。その言葉とは天邪鬼に言葉が外へ遊ぶ。それでも、北海道の人はずるいなぁ〜とか言いながら靴を履いていた。
凍えた風と冬の眩しさが僕らを包む。北海道じゃなくても、2人で歩ければどこでもいいな。それだけで楽しめる。
「見て!太陽が地面にあるよ!」
意味がわからなかった。太陽は空を背景に存在する。そんな太陽が地面と触れ合ってるわけがない。椿が指差す先を見るまでは。
「太陽が地面にある」
昨日降った雪の影響か。それとも凍てつく空気の影響か。
水溜まりが凍っている。地面に鏡が落ちている。そう錯覚してもおかしくない。綺麗に青空と太陽を映し出す。そこに水の輝きが相まって、青空を見るだけでは見られない美しさを醸し出している。
「綺麗だね。海に沈む太陽みたい」
「ちょっと動かないでほしい」
あることに気づいた。地にある鏡だ。考えればわかることだった。
当然、海に沈む太陽を見つめる僕たちが映る。椿が映る。海に沈む太陽を背景に。
逆さになっている椿の瞳と見つめ合っている。直接、椿と見つめ合ってるわけじゃない。顔が夕暮れてもこれならばれない。そう思った。
こんな風に椿を見られたら。僕も正直になれるだろうか。
なんで?なんで?と空気を動かす椿を見れずに。
輝いて綺麗だからという言葉を残して。


氷鏡面
さかさの瞳と
見つめ合う
目の前の君の
顔を見れずに

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