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移ろい

紅葉が深い。紅色に染まる。
青い空を背景に。
黒い星空を背景に。
輝く月。そんな晩秋のころ。古賀は散り始める銀杏並木を歩く。
1人ではなく2人で。古賀の隣には舞川。
その2人を覆うように木々が立つ。そして一本の紅葉。
「緑くなって黄色くなって赤くなる。信号みたいだよね」
舞川沙苗が赤く染まった紅葉の前で立ち止まる。それを見て古賀も立ち止まる。
「信号は青だよ」
古賀は笑いながら言った。色の定義。古賀は立ち止まりながら考えた。色って曖昧な概念だ。
日光に照らされた紫外線で体は赤く染まる。茶に焦げる。
紫にはならない。浴びているのは赤外線じゃないか?
日光に色がある?可視光線の範囲を超えているだけで色付いているか。いや、なら、透明ってなんなんだ。
「難しい顔してるよ」
沙苗が落ちた銀杏を拾って、1つ渡してきた。落ちてなかったら拾えてない銀杏を。沙苗が楽しそうに拾っている姿が見えるだけで嬉しかった。
「けど、私は君の考えてる顔が好き」
2人は見つめ合う。少し冷たい空気の中で。古賀は未だに彼女と見つめ合うのに慣れてない。彼女が美しいから。顔が赤くなってる気がして銀杏を拾おうとその場でしゃがむ。
「顔赤くなってるのバレてるよ?君も紅葉?」
「月の光で日に焼けただけだよ」
「月の光で日には焼けません。月は人が見られるように作られた太陽だから。優しいんだよ」
貴女の優しさが暖かい。古賀はそれを言葉にした。小さな音で。
誰にも届かない声で。沙苗が渡してくれた銀杏だけが聞いた。
紅葉が深い。頬が紅色に染まる。
黒い星空を背景に。
優しい太陽は微笑みかける。
2人で優しい太陽を見つめる。
手を握りながら。
やっぱり月でも日に焼けてるじゃないか。こんなに顔が赤くなっているのに。色って曖昧だ。
1つ分かっている。
貴女の暖かさに照らされた僕は赤く染まるということ。
紅葉よりも銀杏よりも真紅に。


晩秋に
貴女と月見て
赤くなる
月の光で
日焼けしたかも

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