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黄色い手紙

「気味が悪い」
 ポストから手に取った瞬間声が漏れる。また、黄色い手紙だ。半年前に彼氏と別れてから毎月届く。しかも、その別れた日と同じ日に届く。普通に考えれば、私が彼のことを振ったからその腹いせにこんなことをしていると考えるだろう。確かに振ったけども、それも彼の浮気が原因だった。第一、そういう性格ではない。
「麻穂さん元気?彼氏さんと別れて半年が経ったね。落ち込まないで前向いて歩こうね」
 内容を読む度に寒気がする。初めて送られてきた時は、「黄みが悪いとかけているのか?」とか思っていた。もうそんな余裕はない。
 最近、誰かに見られている気もする。自意識過剰だろうか。いわゆるストーカーって奴だが、調べてみた感じ実際に被害を受けないと警察も動いてくれないらしい。仕方ない。毎月手紙はくるが、それだけだ。友達からの手紙のような内容であるため、そのように解釈されるだろう。
 私は彼と別れてからメイクを変えた。なんとなく、同じままでいたくなかった。毎月、手紙が送られてくる日に、葵の家に行く。誰かに会わないと気持ち悪いからだ。葵は高校の同級生。大学4年の今までずっと仲が良い。
「また手紙届いたの?」
 家に着いた瞬間、彼女が口を開く。相槌をしながら、手紙の内容を伝える。正直、内容を伝えているときは吐き気がした。少しずつ深い呼吸をしながら声に出した。
「本当に元彼じゃないの?」
「違うと思う。そういう人じゃないもん」
「けど、別れた後に本性が出てくることもあるよ。他に思い当たる人いるの?」
 なんとなく、感覚的な部分で元彼じゃないと確信していた。私のことを麻穂さんって呼ぶのは、その元彼だけだったけども。そのことも知っていて、この手紙を書いているとしたら余計に気持ち悪い。
「うーん。最近少しずつそうかもしれないって思っている人はいるけど、今更って思いもする」
「誰よ」
「覚えてる?高校の時の佐藤って人。3年間毎年、告白してきた子」
「うわ、そんな人いた気もする。そうだとしたら本当に今更だね。現実味薄いわ」
 確かに、高校の時に3回振られた腹いせにこんなことをするとも思えない。ストーカーなんて、思いもしないうちに始まるのかもしれない。バイトでの接客や外食した時など。知り合いである可能性の方が低いのかもしれない。そろそろ警察に相談してみれば?という結論になって話を終わらせた。これ以上、話をしたくなかった。
 その後、就活の話をした。働きたくないねという言葉を何度も言い合いながら。知らない間に時間が流れていた。晴天の空を夜を告げ始めるように、少しずつ暗くなる。
「そろそろ帰るね。今日もありがとう」
「気をつけて帰ってね」
 そんな会話を最後に葵の家を出た。自分の家までは、電車を使って10分くらい。駅までも駅からも遠くない。けど、いつもの道が少し嫌な感じがした。
誰かに追いかけられている気がする。気のせいかもしれない。後ろを振り向いても誰もいない。前を向いて歩いた時、後ろから声がした。
「麻穂さん元気?」
 そこには眼鏡をかけた男の人がいた。間違いない黄色い手紙を送ってる人だ。私の心臓はあり得ない速さで血液を送り出す。
「貴方ですよね。手紙を送っているの。警察に電話しますよ」
「別に何もする気がないよ。気づいているでしょ?僕が誰かって」
「佐藤君でしょ。何度も振られたからってこんなことしないで」
 私は、慎重に呼吸をしながら言葉を選ぶ。何もしないという言葉を信じずに。彼の目を見て、何か動きが見えたら警察に連絡できるように集中していた。
「麻穂さんが言ったんだよ。それも覚えてないの?僕がさ、諦める気がない。ずっと好きでいられるって言ったら、ありがとう。今は佐藤君と付き合う気はない。だから諦めなよ。それでも諦めないなら連絡でもして忘れられないように頑張りなって。だから忘れられないように手紙を送った」
 少しずつ近づいてくる。私は後退りながら携帯を手に持つ。
「これ以上、近づかないで。そんなこと覚えてない。LINEはブロックした気がする、卒業の時に」
「けど、僕からのメッセージも伝わってたじゃん。手紙をポストから取ったとき言ってたよ」
「えっ」
 彼はわからないのかというジェスチャーと共に、近づいてくる。襲う気があったら走って君を捕まえる。そんな気はない。と口を動かして。信用して動かなかったわけじゃない。怖さのあまり体が凍ったように。金縛りにでもあっているように。私の指令は脳で止まっていた。そして耳元で囁かれた。

「君が悪い」

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