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【詩】タグ(会社を辞める後輩を見送った夜に)

今日で会社を辞める後輩
夢に向かうため
ホームで
線路を乗り換える
去っていく彼の背中を見送っていたとき
背広から「現在」のタグがなくなっていることに気づいた

付き合いのある人たちには「現在」のタグがついている
付き合いがなくなると
ハサミが現れて
パチン
タグが切れる

背広は会社員という記号だ
もう袖を通すことがなくなってしまった後輩の背広を
記憶のタンスにしまいこむ

ときどき
ふと思いついて
引き出しを開ける日もあるかもしれない
なつかしむけれど
取り出して眺めることはない
そのころには
じぶんもずいぶんと変わってしまっているだろうから

鏡に写る歳をとったじぶんに
げんなりする

思い出すらも
値段がつき
プライスを計算するような時代だ

でも
リユースなんて便利な方法も
今の時代にはあるんだぜ
一周して
またブームがくることもある

後輩の背中を見送ったホームで
彼の背広から落ちたタグを拾う
このタグも
一緒に記憶のタンスにしまっておこう
今ここにある
「現在」を
形として
残しておくために

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