僕が選ばれた理由#11

いつもの奥のテーブルに座る。
いつものコーヒーを注文する。
どうして僕がギターを選ばなくちゃ
いけなかったのか。嫌だったわけではない。
彼女にとっては僕の音は特別な音として
響いたのだろうか。
適当な理由で選んだ訳じゃない。
そう言っていた。
人思う故に我あり。
これは僕の座右の銘のひとつだ。
座右の銘なんだからひとつでなくてはならないなんて決まり文句は聞き飽きた。
幾つあったっていいじゃないか。
彼女が僕を選んでくれた。
人間なんて時と場合によっては
どこか矛盾していてどこか欠けているものだ。だから求め合い、支え合う。
だから彼女はピアノを奏でる。
ピアノだけをやってきた彼女が
ギターを手にしてどんな風に奏でるのか。
ギターを恋人のように隣において
テーブルを挟んで向こう側にいる
彼女に問いたい。どうして僕に選ばせる事を選んだのか。
「どうして?って顔してるね。」


煙草を一口吸う。吐き出して答える。
「そりゃ、うん。なんでだろうって考えてたよ。」
「どうしてだとおもう?」
僕はこの手の問いが苦手だ。
考えてはみたがわからない。
「素直に言うと、わからない。」
彼女は彼女で何か考えている様子だった。
さっきの発言の熱量からして
理由がはっきりしてないとは思えない。
「照れくさいというか、恥ずかしいというか、ちょっと伝えにくいんだけど、
ちひろのギターの音聴いて、私も。って思ったの。私も弾いてみたいなって。」
僕は内心すごく嬉しかった。でも彼女のような気持ちを抱いて、でもそれすら言葉にすることができなかった。
僕はあんまり、そういうのが得意な方ではないんだなと思ってはいたが痛感した。
煙草を一本吸い終えて、僕の口から出てきたのは月並みな台詞だった。
「そうか。ひかるなら、すぐに弾けるようになるよ。」
「うん、ありがとう。」
そんな言葉に返ってくる言葉も
やはりそれなりと言うべきかごくシンプルなものだった。
「曲作れるかな。私。」
「いままで作ろうとしてきたんだし、ピアノもベースとしてあるし、ひかるならできると思う。」
「いつかストリートしたいな。歌いたいな。ピアノで弾き語りもできるけど、ストリートとかはなかなか大変そうだからできないままここまで来ちゃったから。」
「たしかにピアノはね。もしも、雨とかにやられたら終わりって感じはする。」
「あの、もし、」
と言いかけて彼女は訂正した。
「ううん、やっぱりなんでもない。」
続きが気になったが、僕はうんと
小さく答えた。開けない方がいい玉手箱もある。
と昔話から学んだりもした。
聞きたいけど聞かなかった。
いつか時が来たらこのもしってやつを
知ることになるだろうから。

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