感覚的文字羅列実験書Ⅱ


「はい、なんか、みなさまうだつがあがらないのでいったんぜんいんうつにしまーす」

 世界が止まった。皆が皆、憂鬱。そして人は皆、狂ってしまった。

僕 下僕 ボク 貴族 我 孤独 己 羅列 私  寡黙  ワタクシ 奇錯 御前 フツウ 貴様 屑 貴公 未曾有 貴方 魅了 キミ 魔性 君 下等 宇宙 掌 愛情 愚ノ中 世相 揺羅揺羅 孤城 愚羅愚羅 優死気狂嘔奔呆羅法螺嘔 髄羅羅羅羅嘔髄羅羅羅羅髄

 膨大な文字の羅列がグワァーっと上へ上へ詰まりながら上っていく感覚に見舞われる。
 一冊の分厚い辞書のような書物がふわっと僕の手に吸い付いてきた。重く、重い、酷く、醜く、重苦しい。そんな雰囲気を纏った、MADな質感のバニラ色の表紙の書物。作者、ボク。平成の癌細胞、ボク。
「敢然超惡物語」
 そんなような声が聞こえた。心で感じる前に声に出していた。詩を書かずにはいられなかった。
‘奇詩想集 触れるべきではない思想’
 秘密の秘密の七年間。
 危険を承知で悪に挑んでゆくこの思想が憎い。疲れた。ああああ疲れた。私なのか貴方なのか誰なのかは結局のところ分からないが、ただ、ただ、漠然と、疲れた。至極、疲れた。
 今日の排泄物は何色だろう?人々の煩悩はカラフル。アンビバレンス甚だしいボクはイカれているようにもお見受けできるし「まさにそれこそが人間ではないか!」というような感服をも生み出す大変禍々しい劇薬にも成り得る。
「苦しみを書いていなかったらどうしていましたか?」
「そうだなぁ、苦しみを書いていたかなぁ」
 そう、結局のところこのボクは、苦しみを書かなければ生きられぬ至極出来損ないの単細胞なのだ。それに比べてアノ僕は、まるで見えないデッドラインにビクついている愚かで臆病な豚野郎なのさ。
「愉快痛快由々シキ事態♪愉快痛快由々シキ事態♪」
 人間のどのゲノムを弄(イジク)ったらマトモな平和的人間になリマスかぁ?殺したくなる衝動ゲノム?怒り惑わせ発狂せしめるゲノム?恨み辛みを描かせるゲノム?性と暴力を飼い慣らすゲノム?
 そうか、全部か。全部か全部かぁあゝあゝ………人間が無くなっちまうぞぉ………人間が無くなっちまう…………ハハ、そもそも僕って誰ボクってだぁれぁ?

「おい、コイツはどんな赤子だったんだ?」
「それがな、生まれながらに薬物中毒だったらしいぞ。腹の中の記憶が鮮明にあるらしい」
「おいおい、そりゃあ随分とクレイジーだなぁ」
「こんなにも毎日毎日ブツブツと喋り続けられるのも頷けるだろう」
「あぁ、すべからく、不気味だ」
「ほら、今日もブツブツと、睡りこけ始めた」


   Birth Day ~ありふれた赤子の物語~


  始まり  


僕は人を殺しました
ボストンバッグに詰め込んで、海へと投げ入れました
きちんと重りも入れました
お陰でバレませんでした

いつしか忘れてしまいました……

…………

僕は殺されました
ボストンバッグに詰め込まれ、海へと投げ入れられました
きちんと重りも入っていました

いつかのことを思い出しました……


  二十歳


 どんよりとした灰色、聳え立つビルの隙間から見える空が、限りなく威圧的な視線を注ぐ。押し潰されそうな感覚に、ざわつく鼓動が目障りで、限りなく死にたくなる。と同時に女を抱きたくなり、いつの間にか俺の方からこの世界を望む。
 時刻は午後六時十分。急いで待ち合わせ場所の横浜ビブレ前へと向かう。
「いやぁ、お待たせお待たせ」
「おい瞬治~遅ぇーよぉー。女の子達も待ちくたびれたってよぉー」
「ごめんごめん。まぁ、ヒーローは遅れて登場するって言うじゃん?いやぁ~それより女の子たち可愛いねぇ~」
「ありがとうございま~す」
「相変わらず調子いいな、お前は。まぁ、とにかく行こうぜ」
 いつもと変わらぬやり取りを一通り終えた後、佑二が先頭を切って歩き始めた。一気に気怠さが襲う。自分を偽るという行為ほど、疲れるものはない。いつもと代わり映えしないメンバーも、俺をイラ立たせる要因の一つだ。
 佑二というただの女好きに、隆弘という能無し。うるさく騒ぎ立てるどこにでもいるようなビッチ達。全てが俺の感性を萎えさせる。
「瞬治さんは大学でどんな勉強をされてるんですかぁ?」
「えっ、あぁ、まぁ、心理学とか、色々だね」
 急に話し掛けられて素が出てしまったのではないかと一瞬びくついたが相手が気付かない様子なので安心した。と同時に馬鹿でよかったと蔑んだ。
「えっ、心理学とかすごいじゃないですかぁ~頭良いんですねぇ~。もしかして、今私が思ってることとかも分かっちゃったりするんですかぁ?」
 分かる訳ねーだろ。お前になんか興味はないし解りたくもない。
「う~ん、そうだなぁ……じゃあちょっと目を見せて」
「えっ、ちょっ、恥ずかしいですよぉ……」
 ウルセーな、早く見せろよ。俺だって出来れば見たくねーんだ。
「そんなこと言わないで、ほら……」
 穢れた瞳に焦点を合わせる。何もない、空っぽの瞳。限りなく、腐っている。
「ふ~ん、そうかそうか……へぇ~、なるほどねぇ」
「えっ、何ですかぁ?気になる気になるぅ」
「知りたい?」
「うん。知りたい知りたい」
「じゃあ、教えてあげる。君は今誰かに恋をしている。君の目は恋する乙女の目だ。しかもその相手はすごく近くにいて、もしかしたら今君と会話をしているかもしれない」
「ははははは。もぉ~からかってるんですかぁ?……まぁでも、あながち間違ってないかも。ふふふ」
 簡単な奴。本当は早くホテルに行きたいとでも思ってるんだろう?虫酸が走る。本当に嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
 少し距離を詰めてきたその女の香りを嗅ぎながら、煮えたぎる殺意を溜め息と共に吐き出した。
「さぁ、着いたぞ」
 佑二が張り切った声を上げる。何がそんなに楽しいのだろうか?ある意味尊敬に値する男だ。
「いらっしゃいませー」
 心のない声が店内を埋め尽くす。と同時に、ヤニ臭さと酒臭さ、生臭さとカビ臭さ、人間達の欲望の渦が一気にのしかかる。
「こちらの席へどうぞ」
 そつない接客を受け飲み放題のコースを注文する。男は生ビール、女はそれぞれ好きな酒を頼んだ。すぐにおしぼりとお通しが届く。
「いやぁー今日はジャンジャン飲んじゃっていいからね」
 佑二がいつものようにその場を温めようとお決まりの台詞を口にする。
「そうそう、男が奢るからさ」
 隆弘も粋がる。
「もし潰れてもちゃんと介抱してあげるから安心して」
 そして俺が好いとこ取りの発言をする。馬鹿馬鹿しいくらいにいつもと何も変わらない。それがひどく居心地を悪くする。
「お飲物お持ち致しましたぁ」
 ちょうど良いタイミングで酒がきた。少しでも早く何かを体内に取り込まないと発狂してしまいそうだった。
「それじゃあ、今日の素晴らしき出会いに、かんぱーい!」
 佑二のベタで古臭いコールと共に、グラスとジョッキの弾ける音が鈍くも鋭く鳴り響く。俺は喉を鳴らしてビールを流し込んだ。今日は何故かいつにも増して感情の起伏が激しく、早く酔い潰れてしまいたかったからだ。
 消えろ、消えろ。朝から襲われていた悪寒と悪い予感を拭い去るように、俺は一気にビールをハラワタに流し込んだ。
「おぉーパチパチパチ……」
 安っぽい拍手と歓声が上がる。
「瞬治さん、お酒強いんですね。男らしくて素敵です」
「本当?じゃあ、早速二杯目いっちゃおうかなぁ~」
 適当なことを言い、ハイボールを注文する。とにかく早くイカれたかった。
「それではここで、自己紹介タイムに入りたいと思います」
 佑二が口火を切る。そして、定番のたわいもない自己紹介タイムが始まる。男女交互に、名前や職業、好きなタイプや趣味、特技、その他諸々、くだらないことを伝え合う。もちろん、俺の耳には何の情報も入ってこない。耳障りなだけだった。
 しかし、三番目の女が自分の名前を名乗った瞬間、身の毛が弥立つのを感じた。
「たけうちあゆみです。二十歳です。趣味は……」
 頭がぐらついた。視線はその女に釘付けになる。名前が同じだけだ、と自分にそう言い聞かせて拭い去ろうとしても、どうしてもアイツの顔が脳裏を過る。
 どうしても忘れられない、あの女の顔が。俺を犯し、今のこの俺の人格を作り上げた、あの、女の顔が。


  五歳


「瞬治ぃ~幼稚園のバスがきたわよ」
「は~いママ」
 いつもと何も変わらない朝。俺は五歳。目に映るもの全てがキラキラと輝いていた。そんな時代。忘れもしない、七月十日。俺はいつものようにバスへと乗り込んだ。
「おはようございます」
「は~い、おはよう。いつも偉いわねぇ瞬ちゃん」
「へへへへへ」
 俺は照れたように笑い、いつもの席へと向かう。
「おはよう瞬ちゃん」
「おはよう、かっちゃん」
 親友だったかっちゃんと挨拶を交わし、昨日観たアニメの話や、昨日やったゲームの話をする。今となっては話した内容も大して覚えてないし、かっちゃんの顔すら思い出せないが、とても居心地がよく幸せだったことだけは覚えている。車内で流れる民謡も好きだった。
 幼稚園に着くと、かっちゃんとは別れて自分のクラスへと歩いていく。俺はゆり組だった。教室のドアを開けると、みんなが俺に挨拶をした。今思うと、俺は好かれていたのだなと思う。当時、疑うことを知らなかった俺も、そんなみんなのことが好きだったような気がする。
 その日も特に変わりなく、いつの間にか帰る時刻となった。俺は足早に帰り支度を終え、いち早く園庭へと出る。そして、いつも通り裏門へと向かう。俺はそこから観る風景が好きだった。緩やかな坂道に立ち並ぶ民家。懸命に咲き誇る名も知らぬ花たち。凛とした雑草の群れ。全てが俺の心に語り掛け、優しく包み込むように撫でてくれた。
 しかし、その日はどこかいつもと違っていた。何故だか心が晴れなかった。誰かに見られていると気付くまでに、そう時間は掛からなかった。
「ゾクッ」
 身震いと屈服の喧噪。見る見るうちに鳥肌が全身を埋め尽くし、畳み掛けるように心を掴まれるようなおぞましい感覚に見舞われた。首は上がらず、立っているのがやっとだった。
「坊や」
 女の声が鼓膜を振るわす。恐怖に戦きながら恐る恐る顔を上げると、薄気味悪く笑ったその女と目が合った。吸い込まれそうになった。純粋に綺麗だと思った。初めて女という対極を感じた瞬間だった。
「こっちへおいで」
 女が手招く。自然と脚が動く。ダメだ、ダメだ。イケナイ、危険だ。心の中では分かっていても、その女の魔性で危険な香りには勝てなかった。
 俺はませていた。今思い返してみると、周りの奴らとはかなりの違いがあったように思う。五歳にして自慰的な行為をしたことがあったし、女にも興味があった。
 そんな時に現れたのがこの女、竹内歩美だった。気付くといつの間にか手を繋いで坂道を下っていた。緩やかな坂道のはずなのに、奈落の底へ落ちるのではないかという錯覚に襲われた。しかし、その感覚が驚くほど快感だった。
 いつの間にか歩美の家に着いていた。歩美は玄関を上がった途端に俺を強く抱きしめた。それはそれは強く、絞め殺すほどの勢いで。
 歩美は俺を「ゆきひろ」と呼んだ。何度も何度も繰り返し呼んだ。「イタいよ」と俺が言うと、歩美は「ゴメンね」と言い、ひどく寂しげな顔をした。そうかと思うとふと恐ろしく狂気に満ちた顔を覗かせ、俺をベッドへと誘った。そして、服を脱がせ全身を嘗め回した。
「ゆきひろ、ゆきひろ、ゴメンね、ゴメンね、許して、許してね、愛してるからね、愛してるからね……」
 歩美はまるで何かに取り憑かれたかのように言葉を吐き出し続けた。俺は何も出来なかった。受け入れることも、拒むことも、何も。何も。
 どれくらいの時間が経ったのだろうか?そんなことも分からなくなるほど、俺は衰弱し切っていた。飯は与えられず、風呂にも入れない。手足は縛られ、身体は痣だらけ。殴られ蹴られ絞められ刺され謝られ泣かれる。俺の精神はどんどん擦り減っていった。泣きわめくこともできず、ただただ死の恐怖と戦っていた。
 そしてついに俺は意識を失った。様々な想いが頭を駆け巡った。当時、走馬灯という言葉は知らなかったが、十分に死を実感できた。「死にたくない」と叫びたかったが一切声にはならなかった。絶望感が喉元を締め上げた。
 一瞬、母親といつも一緒に作っていたホットケーキの香りがしたような気がしたが、それはすぐに消えてあっという間に生臭い腐乱臭へと切り替わった。いっそ死んでしまった方が楽かもしれない。そう思い、ゆっくりと全てを止めた。

 次に俺が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
「先生、瞬治くんが目を覚ましました!」
 慌ただしく動き回る大人達が、意味不明な言葉を発して何かしらの処置を施していた。騒がしいな、と思いながら俺は白い天井を見つめていた。助かったんだという実感はまだなかった。
 母親が俺の名前を呼んだ。駆け寄ってきて手を握った。温かかった。とても嬉しかった。そして酷く興奮した。女を感じた。女だ。女だ。あぁ、早く俺を虐めてくれ。いたぶってくれ。マゾヒスティックな感情が膨張していったのをよく覚えている。
 俺は変わってしまった。歪んだ欲望が開花して咲き誇った。
「ゴメンね、ゴメンね」
 母親が何度も懺悔の言葉を口にする。何も感じなかった俺は、あの女の感触を思い出そうとしていた。
「瞬治くん、気分はどう?」
 看護師の声が思考回路を断ち切る。
「少し、身体がダルいです」
 アナタの裸が見たいです、私を虐めて欲しいです、とは言えずに、俺はその場を取り繕う嘘を吐いた。身体の調子など分からなかった。ただただ今は拭い去れないエクスタシーに満ち溢れていた。
 数日後、俺は無事に退院することができ、花束と共に病院を送り出された。身体はとても良く回復していた。しかし、心のどこかでまだ、無機質で冷たい悲しみに満ちた皮膚が、ヒンヤリと首筋をなぞる感触を忘れられずにいた。
 それからの日々は地獄だった。家には毎日マスコミが押し掛け、裁判では貪欲に金を要求する親達の姿を目の当たりにする。俺はただ優しくして欲しかった。ただ側にいて欲しかった。穏やかで平凡な元の世界に戻りたかった。
 でも、それは叶わなかった。熱りが冷めるまで幼稚園には行けなかったし、その間に卒園式は終わってしまった。もちろん、出席はできなかったし、友達と別れを交わすこともできなかった。家まで誰かが来てくれるという泣けるストーリー展開もなかったし、手紙や色紙一枚もなしだ。俺は幼いながらに人間関係の無意味さを感じ取ったし、薄情という言葉を覚えた。
 その後、俺は遠くの街へと引っ越し、知らない土地で知らないニンゲンばかりいる小学校へと入学した。初めは全く馴染めなかった。何故だかみんなが同い年には思えなかった。
 それでもそのうちに子供らしさを取り戻し、普通の集団生活を送れるようにはなったが、完全には周りの人間に対して心を開けずにいた。友達に対してはもちろん、家族に対しても。
 しかし、なんとか心を偽りながら人並みの生活を営む努力をした甲斐もあって、嫌な記憶はほとんどなくなり、真っ当な人間として純粋な思春期と呼ばれるものを過ごしていた。

 そう、あの日までは……。


  十五歳


「あの人、釈放されたんですってね」
「そうか……」
 両親の会話がたまたま耳に入ってきた。最初は誰のことだか分からなかったが、二人の深刻そうな声、空気感を感じ取った瞬間、あのおぞましい女の顔が浮かび上がった。
「竹内歩美」
 会いたいと思った。何故だかまたアイツに抱かれたいと思った。次の瞬間、俺は一気に階段を駆け上がり、自分の部屋のパソコンに向かい合っていた。
 どんな情報でもいい。どんな些細なことでもいい。またアイツと会う為ならどんな手段を使ってもいい。もう一度アイツと繋がりたい。もう一度アイツに染まりたい。そんな一心で俺は、一週間何かに取り憑かれたように情報を集め続けた。あらゆる手段を使い、アイツの足跡を辿った。そして、ついに俺はアイツの居所を突き止めた。
「竹内歩美」
 その女は山梨県にいた。実家へと戻り、母親と二人暮らしをしているという。静岡の御殿場に住んでいる俺にとっては、幸運とも言える場所だった。
 俺はすぐに行動に移した。鼠の内臓ほどの貯金を下ろし、簡単な荷造りを整え、土曜日になるのを待った。そして当日早朝、なるべく周囲の人間には悟られないように家を出た。両親には、友達の家で一泊二日の勉強会をすると言ってきた。
 山梨までの道中、俺は高ぶる気持ちを必死に抑えていた。どの電車でどうやってそこまで辿り着いたのかは全く覚えていないが、確かに俺は山梨にあるアイツの実家へと辿り着いた。そして、確かにアイツと再会した。そして殺した。そしてそれをバッグに詰め込んで海へと投げ捨てたんだ。
 何故俺は今までそんな大事なことを忘れていたのだろうか?無意識のうちに記憶から削除されていたのだろうか?いや、違う。俺はその帰り道、自殺を図ったんだ。アイツを殺したことによって芽生えた罪悪感や開放感で精神がめちゃくちゃになり自ら車道へと飛び出し車に轢かれたんだ。
 命は助かったが、その時に断片的な記憶喪失になってしまったんだ…………俺は今まで何ということを忘れていたのだろうか…………。

 絶望感と自責の念が一気に襲い掛かってくるようだった。


  二十一歳


「ねぇ、聞いてるの?」
 女の声でふと我に返る。
「えっ、何だっけ?」
「はぁ、もういい」
「ごめんごめん、今度はちゃんと聞くから」
「違う、そうじゃなくて、もう遠回しに言うのはやめようってこと」
「えっ、どういうこと?」
「私のこと、覚えてないの?私はずっとアンタのこと想ってたよ。憎くて憎くてたまらなかったよ。今日、会ってすぐに話し掛けたのに全然気付かなかったよね。アンタとのくだらないやり取り、ビックリするほど虫酸が走ったよ。恋する乙女?ホントくだらない。馬鹿みたい。やっぱりアンタなんて生きてる価値ないよ。死ぬべきだよ。殺されるべきだよ。だって、アンタ自身が人殺しだもんね?私の名前聞いて明らかに動揺してたよね?あの時の顔、アンタ自身にも見せてあげたいよ。アンタのあのうろたえた顔を!」
「お前、一体誰なんだ!」
「私はリサよ!高矢木梨紗!」
「高矢木……梨紗?」
 思い出した。二年前、身体目当てで付き合った女。別れ際、余りにしつこかったので、暴力を振るい暴言を吐きかけた女。その女が復讐の為、整形をして俺の元に戻ってきたのだ。
「あの日から私は、アンタを殺す為だけに生きてきた」
 鬼気迫る顔で話す女の目には、一点の迷いもなく、ただそこにあるのは俺に対する殺意だけだった。
「あの時は悪かった。反省してる。許してくれ」
 その時、初めて女の手にナイフが握られていることに気が付いた。
「許す訳、ないじゃない」
 次の瞬間、腹部に激痛が走った。走馬灯のように今までの日々が思い出される。辛かったこと、悲しかったこと、そして、数少ない楽しかったことさえも。
 この女の言う通り、俺は死んで当然の人間なのかもしれない。今日ここで死ねるということは、きっと自分にとっても周りの人間にとっても幸せなことなのかもしれない。
 そう思った瞬間、「ありがとう」という感謝の気持ちが、自然と心の中に芽生えていた。

 時刻は十二時を回っていた。奇しくもその日は俺の誕生日だった。


  再生


僕は人を殺しました
ボストンバッグに詰め込んで、海へと投げ入れました
きちんと重りも入れました
お陰でバレませんでした

いつしか忘れてしまいました……

…………

僕は腹部を刺されました
ドクドクと流れる血が、ベッドのシーツを彩りました
しっとりとした旋律を奏でました

終わりの音が、どんどん遠ざかっていきました……


「先生、瞬治さんが目を覚ましました」
 冷静に動き回る大人達が、意味不明な言葉を発して何かしらの処置を施している。助かった実感も何も感じなかった俺は、ただただ白い天井を見つめることしか出来なかった。
 以前にもこういうことがあったような気がするが、それはあまりにも滑稽なような気がして、思い出すことは自ら放棄した。懐かしさに浸れるような気もしたが、今は死ねなかった恐怖と助かった喜びを天秤に掛けることで精一杯だった。
 幸い俺の傷口は浅く、奇跡的に身体にあまり害のない部分を刺されており、体力が回復し次第すぐに退院できるとのことだった。俺を刺した高矢木梨紗は、ホテルに救急車を呼んだ後、みなとみらいの観覧車の前で自殺をしたらしい。昔、一度だけそこでデートをしたことを思い出し、本当に申し訳ない気持ちになった。
 やはり俺は生きている価値がないのかもしれない。今までに感じたことのない破滅願望が、脳天から骨髄の節々にまで染み渡るのを感じた。
 と同時に、またアイツに抱かれたいと思った。こうなってしまった全ての元凶、竹内歩美に。しかし、アイツはもうこの世にはいない。何故なら、この俺が殺してしまったから。だから会えるはずがない。天地がひっくり返っても会えるはずはないのだけれど、何故だか今はアイツが生きているような気がしてならなかった。
「アイツはもう死んだ。もうこの世にはいない」
 そう言葉にすることでこのどうしようもない感情に収拾をつけようと試みたがこのアイツの生を望む感情はますます増幅していく一方だった。
 苛立ちや期待感を持て余してしまったボクは、目を背けるように仕方なく眠りに就くことにした。次に目を覚ました時もまだ、この心がアイツを欲しているようなら、またあの場所へ会いに行くことを誓って。


  再会  


 僕は山梨県にいた。どうやってここまで来たのかは定かではない。ただあの時の記憶を頼りに、僕は竹内歩美の実家へとやって来た。何故ここに来たのかは分からない。死人に会いに来るなんて、ましてや自分が殺した女に会いに来るなんて、どうかしている。しかし、今のこの現状はどうだ?僕の頭の狂いようよりも遥かに狂っている。狂っているという言葉だけでは表し切れないような現実がそこにはある。
 そう、竹内歩美は生きていたのだ。今、僕の目の前で確かに笑っている。五歳くらいの「ゆきひろ」と呼ばれる男の子と遊びながら、確かに笑っている。
 僕は頭を抱えた。発狂しそうになった。その場にうずくまり、しばらく動くことができなかった。すると、誰かに声を掛けられた。
「大丈夫ですか?」
 歩美だった。僕は顔を上げ歩美を見つめた。空っぽではない中身のある美しい瞳。そしてそれを包み込む優しい微笑み。曇りのない表情。これが本当にあの歩美なのだろうか?しかし、そこにいるのは紛れもなくあの歩美だった。見間違うはずはない。僕はこの女に犯され、僕がこの女を殺したのだから。
「私の家で休んでいかれますか?」
 歩美が僕を誘った。歩美は僕のことを覚えていないのだろうか?不安と恐怖を抱きながら、僕はその誘いに乗った。そして、歩美に言われるがままに軒下へと腰を下ろした。
「今、お飲物をお持ちしますね」
 そういって歩美は家の中へと消えていってしまった。すると、僕の隣に、ゆきひろと呼ばれていた子供がひょっこりと座った。そしてその子供は僕に向かってこう言った。
「お父さん?」
 背筋がゾッとした。激しい頭痛と吐き気が襲い、目の前が真っ暗になった。コイツは何を言っているんだ?僕がお父さんな訳がないだろう。馬鹿げている。どうかしている。
「そうだよ」
 背後から何かに刺されたような衝撃が走った。歩美の口からそのおぞましい言葉が発せられたと気が付くまでに、そう時間は掛からなかった。
「何を言っているんですか?」
 そう言い返すのが精一杯だった。
「忘れたの?この子はアナタの子よ。アナタが私をレイプした時にできた子供よ」
 僕はもう何も言い返すことができなかった。恐ろしさに恐ろしさを掛け合わせたようなミルフィーユ状の絶望感が、芯の臓器を瞬く間に凍り付かせた。
「何も覚えてないのね。アナタあの時、私をレイプしたのよ。十五歳の時、ここに来たことは覚えているわよね?その時、アナタは私を何度も何度も犯したの。そして、ボロ雑巾のように近くの川へと突き落としたわ。無情にも、私の中にこの子を残してね」
 信じられなかった。とてもじゃないけど信じられなかった。
「嘘だ!デタラメだ!このキチガイめ!犯してやる!」
 はっとした。今確かに僕の口から犯すという言葉が出てきた。
「ほらね、それがアナタの本性なのよ」
「パパ、遊ぼうよ」
 その言葉を最後に、僕の記憶はしばらくの間消え失せた。そして、次に正気を取り戻した時には、目の前にゆきひろの無惨な亡骸が転がっていた。
「ゆきひろ……ゴメンね……ゴメンね……許してね……許して……」
 歩美がどこかで耳にしたような言葉を繰り返し繰り返し呪文のように吐き出していた。僕は怖くなりすぐさまその場から逃げ出そうとした。しかし、それを許そうとしない歩美が、僕の腕を強く掴んだ。
「どこへ行くの?やっと二人きりになれたのに」
 殺される。僕はそう直感した。すぐにでも逃げ出さないと、僕はコイツに殺されてしまう。しかし、いくら脚を動かそうとしても、まるで自分のものではなくなってしまったかのようにその脚の自由は利かなかった。
「せっかく久しぶりに家族三人そろったんだから、一緒に食卓を囲みましょうよ」
「わーい、やったー」
 ゆきひろが飛び跳ねて喜んでいる。
「あなた、早くこっちへきて座って」
 もう僕に自由はなかった。
「パパ、早く」
 ゆきひろに手を引かれ台所へと歩いていく。するとそこには、まるでクリスマスパーティのような豪華な食事が用意されていた。ちゃんと僕の大好きなチキンもある。なんて幸せなんだ。これが家族の幸せというものなのか。何ともいえない感動が僕の心を優しく撫でた。
「どうぞ、召し上がれ」
 僕は夢中でチキンを頬張った。何羽も何羽もチキンを食べた。ゆきひろの分も、歩美の分まで、僕はチキンを食べ続けた。サラダもきちんと食べた。ママの言いつけ通り、きちんとサラダも食べた。最後にいちごのケーキも食べた。ろうそくが二十一本並んでいる。そうか、今日は僕の誕生日か。パパ、ママ、ありがとう。いっつもいっつもありがとう。美味しいイチゴのケーキだね。ママが作ったの?ママは料理が上手だね。パパは幸せ者だね。そんな二人の子供で僕は幸せだよ。ありがとう。ありがとう。チキンはまだ?早くチキンが食べたいよ。
「やめて、もうやめて!」
 歩美がこの世のものとは思えない形相で、僕とゆきひろとを懸命に引き離していた。
「ゆきひろが無くなっちゃう、ゆきひろが無くなっちゃうよ……」
 何事かと思い下を見ると、ゆきひろの頭が笑顔のままこちらをじっと見つめていた。そして、僕の手にはゆきひろのちぎれた指が握られており、口の周りは人間の血液でドロドロだった。
「僕が、食べたの?」
 僕はゆきひろを食べていた。ゆきひろが笑顔のまま僕に語り掛ける。
「僕、美味しい?」
 僕は笑顔で微笑み返した。
「うん、美味しいよ」
 僕は我慢ができなくなり、その笑顔から滴り落ちる血液を丁寧に溢れないように啜った。一瞬、昔母親とよく一緒に作ったホットケーキにかけたメイプルシロップの味がしたような気がしたが、その甘みは瞬く間に鉄臭さに変わり、ツマラヌ僕の逆鱗へと触れた。
「歩美、早く僕を犯してくれよ。なぁ、頼むよ。お願いだよ」
 僕は衰弱し切っていた。歩美が僕の元に寄ってきて、優しく愛撫を施す。
「ゆきひろ……ゆきひろ……ゴメンね……ゴメンね」
 歩美が僕の顔を平手で殴り、そして、謝り続ける。
「ママ、もうやめて」
 ゆきひろが歩美に抱き付きながらそんなことを言う。
「助けてくれ、ゆきひろ。僕のことを、助けてくれ」
 ゆきひろがこちらを向きこう答える。
「僕は、君だよ」
 歩美が言う。
「私が、ママよ」
 僕はパニック状態に陥り、頭と心を掻き毟った。
「大丈夫?」
 梨紗が心配そうに僕を見つめている。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」
「そっか、よかった。じゃあ早くあの観覧車に乗ろう!」
 懐かしい香りがした。生臭い磯の香り。僕たちはどこへ向かうのだろうか?一体ここはどこであの観覧車は何でできているのだろうか?
「さぁ、ゆきひろ、気を付けてお乗り」
「はーいママ」
 家族団らん幸せな日曜日。右手にはゆきひろ、左手には歩美。そして目の前には梨紗が、その様子を微笑みながら眺めている。
「ほら、夜景がキレイだよ」
「ホントだ。すごいね。今日は連れてきてくれてありがとう」
 僕は梨紗とキスをした。ちょうど観覧車がてっぺんに到達した瞬間に、その唇と唇を重ね合わせた。
「この幸せがずっと続けばいいのに」
 鉄臭い臭いがした。
「なんで私はアナタに殺されなきゃならなかったの?」
 あっという間に観覧車が血の海へと変わる。
「僕は何も知らない。知らないんだ!」
 激しい頭痛にあらぶる嫌悪感。今僕は誰としてどこを歩んでいるのだろうか?
「何を言っているの?瞬ちゃん」
 かっちゃんの声。
「あら、偉いわねぇ~かっちゃん。瞬ちゃんは挨拶もできないの?ダメねぇ」
 そんなはずはない!僕は偉くてとても良い子なんだ!
「アナタは本当に出来の悪い子ね。産まれてこなければよかったのに」
 何でそんなこと言うの?ママ。僕のことが好きでしょ?僕のこと愛してるんでしょ?
「お前は俺の子じゃないんだよ。だから俺はお前のことを愛せないんだ。ゴメンな」
 パパ、酷いよ。パパだけは味方だと思ってたのに。一体誰を信じればいいんだよ。
「貴女は一人ぼっちよ、歩美。どこにも味方はいないの」
「私にはゆきひろがいるわ!」
「ゆきひろは殺されてしまったじゃない。貴女の旦那の手によって。そしてあろうことか喰われてしまった」
「僕はここにいるよ」
「瞬ちゃん、何で僕のこと食べたの?」
「美味しかったよ」
「殺されて当然ね」
「アナタはレイプ犯」
「生きてる価値ないよ」
「空っぽの瞳」
「ゴメンね……ゴメンね……」
「もう僕のこと許してよ。もう早く殺してよ。もう生きていたくないんだよ。もう僕はゆきひろでいることに疲れたよ。だからほら、早く……ね?……ね?」

 鈍い音が部屋中に響き渡った。


  終わり


「七月十日、零時十一分、ご臨終です」


僕は人を殺しました
ボストンバッグに詰め込んで、海へと投げ入れました
きちんと重りも入れました
お陰でバレませんでした

いつしか忘れてしまいました

…………

僕は殺されました
ボストンバッグに詰め込まれ、海へと投げ入れられました
きちんと重りも入っていました

いつかのことを思い出しました

でもそれは全て夢の中のデキゴトで、僕は十六年間ずっとベッドの上で眠っていただけなのでした

夢の中の僕はとても幸せでした

殺すことも、殺されることも、自分を許すこともできました

とても満足のいく人生を送ることができました

ありがとうございました

さようなら

さようなら

さようなら


  誕生  


 ピーピーピーピー……。
「どうだ?脳内の情報は取り出せたか?」
「はい、コイツが行なった全ての犯罪の情報を入手することができました」
「そうか、じゃあさっさとこの糞野郎を叩き起こして豚箱へ放り込んどけ」
「了解しました」


 暗い部屋。僕は誰だっけ?俺はどこにいるんだっけ?僕が殺したんだっけ?俺は誰に必要とされてるんだっけ?何で誰も答えてくれないんだっけ?パパとママはいつから僕を痛め付けるようになったんだっけ?誰がいて誰がいないんだっけ?僕はいるんだっけ?俺は要らないんだっけ?あれ?オカシイなぁ。何も聞こえないよ。五月蝿いなぁ。何も聞こえないんだよ。五月蝿いなぁ。五月蝿いんだよ。五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


「何故アイツは一点を見詰めじっとしているんだ?」
「さぁ?頭の狂った奴のことなんて分かりませんよ」
「しかも一言も喋らねぇじゃねぇか。呼吸してんのかさえ分からねぇ。本当に狂ってるな」
「もはや人間じゃありませんからね。人を二十一人も殺してその全員を喰っちゃったんですから」
「頭だけ残してな」
「しかもその頭と会話してたって言うんだから驚きですよ」
「全くだ。お前、アイツの頭の中覗いて平気だったか?」
「えぇ、まぁ、大丈夫でしたけど」
「そっか。俺はダメだったんだよな」
「えっ?」
「こんにちは」
「近藤さん?」
「ボクの世界へようこそぉ!」
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!お前、近藤さんに何をした!」
「おい!大丈夫か竹澤!落ち着け!」
「ヤメろ!触るな!助けてくれ!お願いだ、殺さないでくれ!」


 ここは明るい世界。さっきまでとてつもない暗闇にいたのに、どうやってここまで来たのだろう?僕は誰だっけ?えーと、えーと、えーと、えーと……。
「パパ!」
 幼気な少女がこっちに向かって走ってくる。えーと、誰だっけ?
「今日はユナとずーっと一緒にいてね」
 そっか、ユナか。きっと、娘だ。
「あなた、本当に今日はずっと一緒にいてよね」
 妻か。悪くない。美味し、そうだ。
「分かってる」
 ところで俺は誰なんだ?
「ところで俺は誰なんだ?」
 タケザワユウマ……。
「竹澤佑磨か?」
 ケイサツカン……。
「警察官か?」
「何それ?ふざけてるの?面白いじゃない。誰かの受け売り?」
「パパおもしろーい!」
「ははは、そうだろう。面白いだろう……それじゃあ、そろそろ……」
「パパ!早くあの観覧車に乗ろう!」
 どこかで見覚えのある観覧車。大きくてドロドロと錆び付いた観覧車。アレはいつだったっけなぁ?まぁ、そんなのどうだっていいか。
「ほら、早く!」
 可愛いな。ボクの娘。可愛いなぁ。ボクの娘。これは竹澤佑磨の潜在意識か?だとしたらコイツはとんでもないロリコン野郎だ。警察官の癖して、とんでもない凶悪性を秘めた犯罪者だ。
「代わりにボクが遊んであげる」
「えっ、何?パパ」


 暗闇の中、ボクとキミ、遊んだ。父と娘、遊んだ。全てで全てを、遊び尽くした。メリーゴーランドにも乗った。コーヒーカップにも乗った。ジェットコースターにも乗った。でも一番楽しかったのは、やっぱり観覧車だった。何周も何周もした。二人っきりで何周もした。邪魔する者はいないよ。だって、もう食べちゃったから。ここにある全ての幸せは、ボクが食して咀嚼した成れの果て。命を喰らった分だけ、吐き出される幸せ。だから今からボクはキミのことを食べるよ。全部、全部、食べるよ。頭だけ残して食べるよ。キミはただ、笑っていればいいんだよ。だって、キミの笑顔は素敵だから。ボクを興奮させる何かを持っているから。だからキミはただただ笑っていればそれでいいんだよ。
「パパ、早く食べて」
 頭の中で鳴っていた音楽が遮られる。ボクは正気に戻る。嗚呼、なんて美味しそうなんだろう。正気に戻ったボクを止められるものはもう何もない。


「近藤さん?大丈夫ですか?」
 竹澤の声で目が覚める。額には物凄い汗を掻いていた。
「竹澤、お前、娘さんとは上手くやってるか?」
「えっ?急にどうしたんですか?……はい、ずっと仲良くやってますよ」
「…そうか、ならよかった」
「今でも声が聞こえますよ。この腹の中から。か弱くて透き通った愛すべきあの子の声が」
 そう言うと竹澤は、自分の指を喰い始めた。右手の親指から順序よく、丁寧に丁寧に喰い始めた。
「竹澤さんは、ウシを喰う。ボクは代わりに人を喰う。近藤さんは、ブタを喰う。ボクは代わりに人を喰う」
 瞬治は軽快なリズムで歌った。
「人はみんな、鶏を喰う。美味い美味いと魚喰う。ボクは代わりに人を喰う。穢れに穢れた人を喰う」
 瞬治は暗い独房で一人歌った。声が枯れるまで、声を出さずに歌った。もうそろそろ夕暮れの時間だ。今日の晩ご飯は何だろう?できれば大きなチキンがいいな。今日はなんていったってボクの誕生日なんだから。それくらいは用意しといてくれるよね?ママ。ホットケーキにはもう飽きたよ。明日、みんなに自慢するんだ。昨日もまたボクの誕生日だったんだよ、って。今日もまたボクの誕生日なんだよ、いいでしょ?って。だから早く呼びにきてよ、ママ。まだ準備ができないの?そっか、手作りケーキがまだなんだね。いつも上手に作ってくれる、あの、手作りショートケーキがまだなんだね。しっかりロウソクも立ててね。ママはボクが何歳か覚えてるかなぁ?ボクは五歳だよ、五歳。あれ?違うなぁ。ボクは二十一歳だ。十五歳?二十歳?分かんないよ。もう分かんないや。でもきっとママは覚えてるよね。チョコレートのプレートにだってきちんと名前を書いてくれるんだ。ゆきひろっていう名前を。あれ?違うな。ボクは誰だっけ?かっちゃん?佑二?隆弘?歩美?教えてよ。教えてよ、ママ。ママぁ!ママぁ?ボクの、ママぁ?ボクのママは誰?ボクは誰のママ?ママは誰の子供?ボクはママの子供?ママは何から産まれたの?何がボクを作ったの?ママは何を食べ育ったの?ボクはその食物の塊なの?ボクとチキンは兄弟なの?それじゃあ何でボクは空を飛べないの?ボクは何を奪ったの?ボクは産まれる為にどれだけの命を奪ったの?教えてよ。教えてくれよ。もうすぐボクは、産まれるんだ。この殺風景な温もりの中から、ボクはもう少しで解放されるんだ。だからこそ答えてくれよ。答えて欲しいんだよ。ボクが外に出ても何の迷いもなく力強い雄叫び上げられるように、誰か、誰か答えてくれよ。ママ、もうすぐボクは、そっちに行くよ。だからその前に、答えて欲しいんだ。ボクは何の為に産まれるの?ボクはどれだけの犠牲の上に成り立っているの?ボクが産まれてきてママは幸せなの?この世界はボクを望んでいるの?……やっぱり答えてくれないんだね、ママ。ママはいつだって何も答えてくれないね………はぁ………もうそろそろ時間みたいだ。ボクは何も分からなくて不安だよ。不安で不安で仕方がないよ。嗚呼、何だか涙が溢れてきたよ。何だか不思議な光が見えてきたよ、ママ。ママ。ママ。ママ。


 ママ………………。


「これが腹の中の記憶だと言うのか?」
「はい、そうでござりまする。今、冷静に考えてみますると、これはやはりテレビやラジオなどのメディアの情報や生身の人間同士の会話、映画や音楽などの作品から形成された世にもクダラヌ御話詩のような物語だったのではないかとひしひしと感じておりまする」
「……お前は、誰だ?」
「これを10ヶ月かけて見ていたのかですって?とんでもござりません。見くびるのもいい加減にしろやこの青二才が。こんなもん108ある内のひとつの夢に過ぎないそうだよ」
「……お前は、誰だ?」
「ボクですか?ボクは、ボクです。そして、ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああ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  実験結果


髄獄元年、満月日和、時ノ流レ概念発症以前。

被験者であるこの所謂糞真面目公務員タイプの青年に精神崩壊改善の兆し見えず。

本日も不本意ながら、これにて実験を終了とする。

明日以降、このムゴタラシイ事態が好転することをセツに願いながらここに判を押す。


科学教会病院長兼ボク氏、ゆきひろ。


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