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KIZUNAWA

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【小説】KIZUNAWA③        誓いの葬列

【小説】KIZUNAWA③        誓いの葬列

誓いの葬列
 
 翌日の日曜日、太陽は練習に向かう途中、茉梨子の家に寄った。「心配かけてごめんね」茉梨子の母親は恐縮して言った。
「昨日から部屋に閉じ籠ってしまい、ご飯も食べないのよ」本当に心配している様子だ。
(今、家の前にいる)
太陽はM・ラインを送ったが既読にはならない。
(飯ぐらい食べないと駄目だぞ)
既読にはならない。
(また帰りに寄るから)
やはり既読にはならない。
太陽は茉梨子の母親

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【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

 達也と太陽そして茉梨子は桜井が運転する車で京都に向かっていた。二泊三日の京都合宿は雅人の提案だった。宮島先生に無理を言って三人だけ前泊の宿を取ってもらったのである。と言っても結局倉田女将に頼み込んで上田北高がキャンプを張る京都雅グラウンドホテルに無理を承知でお願いしたのが現実だった。早朝の上田を出発すると桜井の優しい運転で茉梨子以外の車中は夢の中だ。京都に着いたのは正午を少し回った頃だった。京都

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【小説】KIZUNAWA㉗        中田家の大会前夜

【小説】KIZUNAWA㉗        中田家の大会前夜

 中田の家では言葉のない静かな食卓を囲んでいた。明日香の元気がなくなって以来、毎日の夕食から言葉が消えていたのだ。中田は夕食が済むとゆっくりと切り出した。
「明日香! お爺ちゃんが今お世話をしている、長野県代表の上田北高校が高校駅伝全国大会を走るんだよ」
「フーン。それがどうかしたの? 私には関係ないもん」
明日香は自分の殻に閉じ籠り、聞く耳を持たない。
「そのチームに西之園達也さんと言う選手がい

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