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子宮色の母子手帳シリーズ。

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そこには四つの、素敵な短編があった。
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記事一覧

偏見。

 世間はいつだって、偏見で満ちている。たとえばそれは、警察官が行う事情聴取も同じだった。
 生命の香りが無い狭い空間に、個室トイレにも匹敵するほどに狭いその空間には、中央に灰色の机と、それを両方から挟むように冷たいパイプ椅子があった。窓は無く、天井には円形の照明が張り付いていた。
 その空間に存在している人間は三人。そのうちの二人は、二つあるパイプ椅子にそれぞれ腰掛けている古ぼけたスーツを着ている

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瞬間性歯医者。

「でも今は、センシティブの向こう側に行きたい気分なんだ」太郎は向こう側にある太陽を見て言った。
「うんそっか。……ところでお前だれ?」瀬戸は瞼の無い瞳をカッと開いて、というよりは力をがんがんと入れていた。
「はいじゃあ胃カメラいれまーす」
「ここはどこですか」
 いつの間にかベットに縛り付けられている太郎は、自分を見下ろしている白いマスクをした長身に尋ねた。瀬戸なんていう人間は、その空間には居なか

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光の速さというやつだ。

 もう一度、よく考えてほしい。君は、光の速さで胃カメラをされてことがあるかい? 第四廊下の真っ只中に、会議中の人間の睾丸をお茶漬けにしてしまうほどに、大尉の横穴は疲労を重ねていたらしいが、それでも君は、光と同等の速さで胃カメラをされてことがあるのかい。とある大尉はされてことはないと素直に答えたけれど、それが真実かどうかを確認する術は、現代には無いから。
 大尉は続けてこういうんだ。「私の経験則だが

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内臓夕焼け。

 例えば全員が収容されたとして、片足を失った太陽の慰め方を、君は知っているのだろうか。朝露の町があったとして、その中心部の湖もあったとして、そこにいる女はきっと、壁を見ているだけできもちいいなんてね、と嘆いているのかもしれない。近所のお兄さんは思い込みの中で、ギラギラとした色のグミを噛み砕きながら言っていたけど。
 橙の太陽が沈みかけている世界の中、学校からの帰り道を他人である学生と共に歩いている

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