内臓夕焼け。

 例えば全員が収容されたとして、片足を失った太陽の慰め方を、君は知っているのだろうか。朝露の町があったとして、その中心部の湖もあったとして、そこにいる女はきっと、壁を見ているだけできもちいいなんてね、と嘆いているのかもしれない。近所のお兄さんは思い込みの中で、ギラギラとした色のグミを噛み砕きながら言っていたけど。
 橙の太陽が沈みかけている世界の中、学校からの帰り道を他人である学生と共に歩いているのは、彼らと同じように学年の身分を持っている一人の男だった。
 学年は自身にとって、最大の嫌悪感を感じるような文言を耳にした。学生は、両手をぶらぶらとさせながら、中途半端なオネエのような高音で、「えええ、お前もう無理無理ぃ」と言っていた。それを見ていただらしない学生は、そいつのひじきのような細々とした目が嫌いだった。
「なあなあ……」
 後ろから寄り添う男。金色のジャケットが似合っている数少ない人間が、だらしない学生の右肩から顔をニュッとのぞかせて、息がかかってしまうほどの距離で言ってくる。
「なんスか」学生は適当に言っていた。男はそれを聞いて、蛸のようにえへへえへへと笑っている。
 そんな横で、中途半端なオネエ学生が静かにロケットのように、橙色に支配されている空にむかって旅立っていった。屁を出す要領でケツの穴からエネルギーを噴射させて夕日に飛び出す姿は、少し遠くに居た桃色の学ラン集団の目を引いた。
「おい、アイツの飛び立ちを見ろよ……ありゃあ天性だあ」
 それにこたえるのは、咥え煙草をしている学ランだった。
「そうそう。それが馬鹿みたいに大事なんだ」
「馬鹿じゃないけどねっ」
「ああ!」
 その二人には、全力で被害者だった時代があった。そこには確実な火炎瓶が転がっていて、街を歩く人間は躓くこともあったけれど、苦情は一切入れず、また悪態もなかった。
「全く、下品が一番嫌われる」
「確かにそうだ。でも下品ってのは、それが好きな人間からはとことん好かれるんだ」
「そうかい……」
 学ラン達はそれぞれ新しい煙草に火をつけて、それを後方にポイと捨てると、そのまま四つん這いで道路を歩いて行った。
 誰も居なくなった空地に、学生と男だけが残っていた。男はまだくねくねと体を動かしていて、学生も変わらずその姿を見ているだけだった。
「ふ、二人っきりだね……」学生は高い声だった。
「うふんうふん、そうッスねえ」
 男は楽しそうに肩を揺らしながら、筋力の弱い口をまごまごと動かしていた。「なあなあ、どう? このあととか、どう?」
 男の顔は、狼をむりやり人間にしてみせたような顔で、学生から見ると、なかなかのイケメンだった。絵本なんかでよく見る月のような、真っ黄色の二つの眼球が美しかったが、それに見られている学生は、なんだかその眼光が、こちらの全てを見透かしているようで怖くもあった。
 すると男は、顔だけではなく右手までもを覗かせる。その指たちには、いずれにしても、高そうな指輪がつけられていた。ゴツゴツとした金色はどうやら本物の輝きだったが、学生は興味がなかった。そんなことよりも、その指がつまんでいる三枚の五万円札のほうが目に入った。
「それで、ワシとワンナイを……一夜でケツ穴、拡張ってかい?」
 学生はおびえていなかった。

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