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【続編】精神科救急医療実録2 第10話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?

 今回は、続編として精神科救急医療実録2第10話を、お伝えできればと思います。

疑問

 私は医療相談室に戻ると、
 "施設長にAさんの入院は難しいこと"
 "自傷他害の恐れが強い場合には入院を受けること"
 "3ヶ月ほど地域生活を送った後に休息入院の用意をすること"
 を伝えて入院を断りました。

 施設長は不安な面持ちを隠し切れずに、話しを聞いていました。

 私は、Aさんの診察で疑問に思ったことを施設長に尋ねました
 「グループホームでは朝早くに、何か日課とかしているんですか?」
 「いえ、特にそういったことはしていませんが」
 「そうですか...」
 「何かありましたか?」
 「診察でAさんに衝動行為の理由を尋ねた時に、職員さんと朝早くに一緒に居れなくなったことも不満を感じていたようなので」
 「誰のことでしょう?」
 「仲の良い職員さんの名前を何人か言っていました」
 私は施設長にAさんから聞いた名前を伝えました。

 加えて、
 「Aさんは、依存傾向が強いので職員とは適切な距離感が必要です。過度に関わると要求がエスカレートしてしまう場合もあるので、対応の線引きと統一することを心がけて下さい」
 そう施設長に伝え、さらに
 「Aさんの希死念慮や自殺企図は、欲求が満たされない場合に認められることが多いので、要求をされにくい関係を形成することが大切です」
 「どの様にしたらよいのでしょう?」
 私は、病棟で実施した条件付けでの成功例や失敗例を伝え、Aさんの対応方法として有効そうなものをまとめ、書き出しました。

【Aさんへの対応】
 職員の個々の判断で要求に回答することは極力避け、
「施設長に聞いてみないとわからない」
 など、その場で安易に対応しないこと。

 対応への不満や怒りが認められたら、主治医や私の名前を挙げて施設職員へ負の感情が向かないように配慮する。その場合は必ず情報共有を行うこと。

 面談を求められた場合は時間を区切るか、別の日に改めて時間を作ることを伝え、約束通り実施すること。

 どうしても話しを聞く時間が無いときは、交換日記や手紙などを用いてでも思いを受け止めること。

 可能な限り、職員が会話の対象となるのではなく、他の施設利用者との会話を促していくように支援すること。

 希死念慮や自殺企図が認められた場合は、仕事の優先順位にもよるが極力傾聴し、受容・共感すること。
 状況によっては話しの話題を変えたり、笑わしたりすることも有効。

 希死念慮や自殺企図が認められた場合に、過度な対応を行うと"話しを聞いて欲しくて"言動が強化されることがあるので留意すること。

 認める、尊重するという言動を他の利用者と同様にすること。

 要求を断るときは、固有名詞を使用することは極力避けること。
 ○○さんの対応があるから→施設の仕事があるから
 など、特定の人物に負の感情が向かないように配慮すること。

 職員の対応は、極力統一すること。
 過度な対応をする職員がいれば負担が重くなり、逆であれば攻撃対象になる恐れがあるため。

 目的や目標を探せるような支援を行い、見つかった場合は達成に向けての支援を行うこと。

 Aさんにとって、職員はいてもいなくてもいい人になるように、対職員ではなく、Aさん自身の人間関係や生活環境を整え、創っていくこと。

 危険を感じた場合は個人で対応するのではなく、他の職員、病院、警察、救急隊、福祉課など周囲の社会資源を活用すること。

 基本的な内容ではありましたが、Aさんの疾病特性では劇的な解決策はなく、重大なトラブルへと至らないように対応をしていくしかありません。

 スキーマ療法で、緩やかな認知・判断・行動の変容を期待するか、思春期を過ぎて精神的に落ち着くのを待つか、薬物で鎮静をかけるか、といった方法でしか問題行動の解決手段にはなり得ませんでした。

 特にAさんの場合は、過去に自宅で飛び降りてしまった経緯もあり、歩行困難で、尿意や便意を感じないため常時オムツを使用しています。

 そのため、自尊心が低く、しばしば自身の人生を嘆いた発言が認められました。

 Aさんはその様な感情と折り合いをつけるために、人間関係に答えを求めます。

 人と接して、
 "必要とされている"
 "求められている"
 "楽しい"
 "楽しんでくれている"
 と、認識できることを拠り所にしていたのかもしれません。

 Aさんの様な疾病は、目標ができたり、歳を重ねたり、友達や伴侶に恵まれれば問題にならないケースも多くあります。

 ただ、Aさんの場合は衝動行為が希死念慮・自殺企図であり、実際に飛び降りている経緯もあり、家族の養育能力が期待できなかったため、支援の介入が必要でした。

 ひょっとしたら、地域で生活を続けていたら、幸せに生活をしていたかもしれません。 

前兆

 私は、Aさんの対応方法をまとめて施設長に渡すと
 「可能であれば、Aさんが親しいと言っていた職員さんに、どの様な対応をしているか聞いて貰えますか?」
 と、依頼しました。

 精神科救急医療実録2 第11話へ続く

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたらと思います。 

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