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自由律俳句 #109

【実家の時計と同じものだ】


歯医者に行った。
予約してある時間より、少し早く到着した。
入り口に入ると、歯医者さんの匂いがする。
小さい頃は、少し怖い匂いだった。
匂いから、歯を削る道具をイメージして怖かった。
今は平気で、眠たい朝とかにこの匂いを嗅げば、
目がスッキリ覚めそうだなーとか思う。

受付を済ませて、待合室の椅子に座る。
窓から差す日差しが、待合室の小さなテレビに当たっていて、
画面がよく見えないが、別に見ないからいいと思った。

待合室の本棚には、絵本や週刊誌、
もちろん、歯に関係する冊子などが並んでいる。
ひと通り、背表紙を眺めて、
絵本を取ろうとしたが、なんとなくやめておいた。

ふと、待合室の時計を見ると、
実家の時計と同じだった。
時報の代わりに短かなメロディーが流れるタイプのもの。

どんなメロディーだったかな?
確か、数パターンあったんだよなー。
懐かしいからその音を聞きたいと思ったけれど、
もうすぐ呼ばれそうだし、微妙だなー。
ちょうど、それが聞けるといいなと思って待つ。

治療ではなく、時報を待つ。

でも、やっぱり先に治療の方に呼ばれて、
懐かしい時報の音は聞けなかった。

治療が終わり、支払いと次回の予約をする。
時報の音は聞けなかったけど、実家に帰った気分になった。
帰り際、あの時計をもう一度見て、
私は、履いていたスリッパを元の場所に戻した。


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