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『フレームワーク』で考えた翻訳の記録

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『フレームワークで考える内科診断』(原題:Frameworks for Internal Medicine)を翻訳して考えたことの記録
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"dependent"は依存する?

"dependent"は依存する?

「上向き」という意味の”upright”について以前話をした。重力の影響で空気や液体が移動したり、呼吸のしやすさに影響したりするのだった。

 重力に関連する用語として、今回は”dependent”について。

 例えば、

Massive hemoptysis is life-threatening and requires prompt management, including mainta

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purseは財布?

purseは財布?

 学生時代にアメリカ旅行で財布を買おうと思って、「”purse”を見せて欲しい。」と店の人に言うと、ハンドバックコーナーに連れていかれたことがある。アメリカ英語だと”purse”は財布ではなく女性のハンドバックを意味するのだ。それに対してイギリス英語だと、”purse”は財布で、ハンドバックに相当する単語は”handbag”である。 英語を母国語にしない人にとってはややこしいこと限りない。

 そ

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内科医は何でも知っていて、外科医は何でもする?

内科医は何でも知っていて、外科医は何でもする?

『フレームワークで考える内科診断』の前書きで

Surgeons know nothing but do everything. Internists know everything but do nothing. Pathologists know everything and do everything but too late. Psychiatrists know nothing and

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"warm"は温かい?

"warm"は温かい?

 以前にも書いたが、アメリカでは一般に使用される単位が異なる。

 他に異なる単位を使う例として温度がある。 医療現場では摂氏(Celsius)を使うことが増えてきているものの、一般にはまだ華氏(Fahrenheit)のほうがよく通じる。そのため、「体温が40℃もあります」と言うと、患者さんに「それって何度のこと?」と華氏での数値を聞かれることがある。

 温度に関する単語に”warm”がある。一

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人名について

人名について

『フレームワークで考える内科診断』では、専門書であることを考慮して人名はスペルのままにしている。英語圏の名前ならともかく、それ以外では発音をカタカナで表すことが難しいことも少なくない。

サッカーファンであれば、古くは「フリット vs グーリット」論争、比較的最近では「エムバペ vs ムバッペ」など、英語圏以外の名前をカタカナ書きする難しさを知っているだろう。英語圏であっても、アメリカ合衆国第40

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マジョリティーは大多数?

マジョリティーは大多数?

 2021年5月26日の米国での報道に

"Majority Of US Adults Now Fully Vaccinated Against COVID-19"

というのがあった。英語を母国語としないわれわれにとっては、こういう見出しを見ると、あたかもワクチン接種が広く大多数に行き渡ったようにも見える。

 しかし、記事の内容を読むと

”More than half of all adul

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英語の文章がイタリックで書いてあったら?

英語の文章がイタリックで書いてあったら?

 英語の文章を読んでいると、所々で、イタリック(斜めっぽい字体)で書かれている箇所がある。

 例えば、『フレームワークで考える内科診断』の中には、イタリックで

Alcoholic hepatitis is usually classified as a cause of hepatocellular liver injury, but it can be cholestatic in some

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米国的医療事情?

米国的医療事情?

 どこかで書いたが、米国では右心系感染性心内膜炎がやたらと多い。これは静注薬物使用が多いせいである。そのため『フレームワークで考える内科診断』でも、感染性心内膜炎のチャプターでは「自己弁感染性心内膜炎」と「人工弁感染性心内膜炎」に並んで、「薬物静注による心内膜炎」という分類が登場する。薬物使用はこの国では珍しくなく、過量摂取など救急受診の理由としても多い。その他に、日本に比べると米国では肥満が多く

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施行すべきか?

施行すべきか?

医学的な日本語を読んでいると、「施行する」という表現がやたらと多いように見える。

CTを施行する
ニカルジピンの静注投与を施行する
直腸診を施行する

などなど

「撮影する」とか「投与する」とか、もっと簡単に「する」とかでイイんじゃないの?と感じないこともない。

しかも、読み方に「しこう」派と「せこう」派があるらしい。「せこう」と聞くと「施工」っぽくて工事現場っぽい響きなのだが。

ところで

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英語的な表現

英語的な表現

 英語を日本語に翻訳すると、「~的」という表現を安易に使いがちになる。臨床的、診断的、治療的、解剖学的、生理学的、などなど。もっと自然な日本語にできないだろうか?

 例えば、

The diagnosis is made endoscopically.

なんていう文章があると、「診断は内視鏡的に行う」と 訳したくなるかもしれないが、もっと簡単に「内視鏡で診断する」といったほうが日本語的にはしっ

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訳注について

訳注について

 今回は、どこまで訳注を入れるのかについて。

 せっかく翻訳するのだから、読者にはわかりやすい内容にしたい、と翻訳者ならみなそう考えるだろう。「こう説明した方がわかりやすいのではないか」「こんなことも説明しておいた方がよいのではないだろうか」と、あれこれ訳注を入れたくなる。

 とはいえ、本は原著者のものである。柴田 元幸さんの『ぼくは翻訳についてこう考えています』にも

翻訳者は奴隷であり黒子

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technicallyはテクニカルな話?

technicallyはテクニカルな話?

 訳してみるとちょっとしっくりこない単語に”technically”がある。辞書を引くと「技術的に」とか「専門的に」とか書いてあるし、”technical”は「技術的な」とか「専門的な」とかのテクニカルな形容詞なので、これで良さそうなのだが実際に訳してみるとなんだかピンと来ない。

 例えば、『フレームワークで考える内科診断』にはこんな文章がある。

Although mononeuritis m

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anginaは心臓?

anginaは心臓?

 『フレームワークで考える内科診断』には"cervical angina"という疾患が登場する。"angina"と聞くと、心臓の病気"angina pectoris"(狭心症)を思い浮かべるかもしれないが、"cervical angina"は頸椎症から胸痛を起こすもので、"angina pectoris"と鑑別を要する疾患である。

「狭心症」を指す”angina pectoris”は、”angi

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主語について

主語について

 英文の場合、

Patients with heart failure often have symptoms such as…

のように、主語にpatientsだとか、he/she、theyとか入るのが一般的である。だからといってこれを杓子定規に「これこれの患者は…」とか「彼は彼女は彼らは…」などと一々訳すと不自然になる(ように思う)。
英語においてこれらの名詞が使われるのは、 英語の構造上

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