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人名について

フレームワークで考える内科診断』では、専門書であることを考慮して人名はスペルのままにしている。英語圏の名前ならともかく、それ以外では発音をカタカナで表すことが難しいことも少なくない。

サッカーファンであれば、古くは「フリット vs グーリット」論争、比較的最近では「エムバペ vs ムバッペ」など、英語圏以外の名前をカタカナ書きする難しさを知っているだろう。英語圏であっても、アメリカ合衆国第40代大統領ロナルド・レーガンのラストネームが、大統領に就任する前は日本で主に「リーガン」と表記されていたので、一筋縄ではいかない。

医学領域で難易度が高めの人名に、”Behçets Disease”のBehçetsなんていうのがある。日本語で「ベーチェット」というのを聞き慣れていると、英語圏での発音は別人に聞こえるくらい異なる。どちらの発音の方が正しいのか、トルコ語に詳しい人、情報プリーズ。

”Kartagener syndrome”のKartagenerは日本人以外にとっても発音の難易度が高い名前である。その昔、とある学会で、”Kartagener”の発音について喧々囂々とディスカッションしていたところ、当のManes Kartagener先生ご本人が立ち上がって、正しい発音を示されたというエピソードを聞いたことがある(真偽は不明)。

ということで、カタカナで人名を示すのは難しいというのが今回のお話。
田口俊樹氏の『日々翻訳ざんげ』に 

「カタカナは日本語である」

という引用があり、カタカナは日本語としての「見た目」や「発音のしやすさ」も考慮した表現であることが述べられている。そう考えると、そもそもカタカナで人名の読み方を正確に表現するというのは無理な話なのかも知れない。

ちなみに、訳注に入れた”Austrian症候群”は、1862年にオーストリア人病理医Richard Heschlによって臨床徴候が報告され、1957年にアメリカ人医師Robert Austrianによって肺炎球菌との関連が報告されている。2重の意味で”Austrian”なのだが、直接の由来は人名の方だろうと考えてカタカナにはせずに”Austrian”のままに。