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anginaは心臓?

 『フレームワークで考える内科診断』には"cervical angina"という疾患が登場する。"angina"と聞くと、心臓の病気"angina pectoris"(狭心症)を思い浮かべるかもしれないが、"cervical angina"は頸椎症から胸痛を起こすもので、"angina pectoris"と鑑別を要する疾患である。

「狭心症」を指す”angina pectoris”は、”angina”と略して呼ばれることもあるものの、正確には”angina”だけで胸痛を起こすような疾患を指すわけではない。語源としては、”angina pectoris”のうち”pectoris”はラテン語で「胸」とか「心臓」とかを指す。大胸筋・小胸筋がそれぞれ”pectoralis major”、”pectoralis minor”なので、”pector-“が胸っぽいことがなんとなくわかる。

 では、”angina”の方はというと、こちらはラテン語で「喉の炎症」、ギリシャ語で「窒息する」という語源である。狭心症での胸の締め付けられるような症状を考えると、”angina pectoris”という名前になっているのは理にかなっているように見える。

 “angina”がついた疾患というと、『フレームワークで考える内科診断』には登場しないが、”Ludwig angina”がある。こちらは、ドイツ人医師Wilhelm Frederick von Ludwigによって1836年に報告された口腔底の感染症で、重症の場合には上気道閉塞を起こすことがある。「心臓と全く関係がないのに、なぜこんな名前なんだろう?」と疑問に思ったことがあるかも知れないが、先ほどの”angina”の語源を考えると納得である。

 というわけで、”angina”というと心臓病を思い浮かべがちだが、 ”angina”という言葉自体には心臓の意味はなくて、”Ludwig angina”のように心臓以外の疾患にも使う、というのが今回の話である。