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僕の壮絶な高校野球人生No5



ごめん。。ごめんなさい。



僕はどうしていいか分からなかった。

足が動かず、家に上がることもできない、どこかへ逃げ出すこともできなかった。


愛犬がシッポを振って自分のところにやって来たので、

愛犬を抱っこして僕は部屋に上がることができた。


母にどう接していいか分からないので、とりあえず黙ってシャワーを浴びた。



シャワーを終えてリビングに戻ると、



「何があったん?」


「もう俺、野球辞めるわ。」


「野球辞めてどうするの?野球辞めたら高校も辞めなあかんやろ?」


「ごめん。もう中卒でもいいから辞める。
 野球辞めて、俳優になる為に東京行くわ。」


「は? 何言ってんの?」




僕はそこで会話を終わらせ、二階へと上がっていった。




ベットの横の窓から青い空と白い雲が見える。


僕は、

あの雲は、犬に似てるな。

あの雲は、人の顔に似てるな。いやよく見たらヘビに見えるかも。

あの雲の上に乗ったらどんな景色が見えるんだろう。


気づけばそんなことを2時間くらいやっていた。



何も考えたくなかった。


だが僕の頭には、「これからどうなってしまうのかな」
という不安ばかりが浮かんでいた。



中卒でいいから一人で東京に行くと言ったものの、

いざ一人で東京に行くとなると、それはそれで大変だろう。

お金もないし、まずどうやって一人で生活したらいいか分からない。

中卒も嫌だな。どこかの通信制の高校にでも行くか。

けどこんな俺に学費なんて出してくれるなんて思えない。


だったらやっぱり野球部に戻るか。

いや、戻ったら監督やコーチや先輩に何をされるか分からない。

絶対にひどいことをされる。怖い。

やっぱり戻りたくない。


こんなことを考えていると、もう日が落ちてきており、

空は赤色に染まっていた。


母親が外に出ていったことが分かったので、

僕は下に降りた。



愛犬が僕のことを待っていた。


多分、何時間も待っていたのだろうと思うと、

また涙が出てきた。 「ごめんね。」



少しお腹が空いてきたので、僕は冷蔵庫に行こうとした。


その時、リビングのテーブルの上に何か置いてあるのを見つけた。






それは、

  

  


   母からの手紙と一冊の本だった。



手紙にはこう書かれていた。


「リョウマへ。

 学校でどんなことがあったか分からないけど
 家に帰って来てくれて本当に良かった。ありがとう。
 これからどうするの?
 一人で東京に行くなんてそんなことできるの?お金はどうするの?
 もう少しちゃんと考えなさい。
 リョウマがこの先、何をやるかは自由だけど、
 何をするにしても中卒はあかんよ。
 気が向いたら、リョウマの気持ちを聞かせてください。
 これ、プレゼント!     母より 」




母は僕が野球部を、そして高校を辞めることに反対していることが
この手紙を読んで分かった。


もしかしたら俺の気持ちを分かってくれるかもしれないと少し思っていたが、
そうはならなかった。



僕は冷蔵庫に入っていたエクレアを一つ食べて、

母からのプレゼント

もうだめだと思ったら読む本」 

を持って、また鴨川に行った。



本当にもうだめだと思っていたので、この本が自分の助けになってくれると思い
本を開いてみたのだが、それまであまり本を読んでこなかった僕には読むのが
少し難しく、内容はほとんど理解できなかった。




時間は進んでいく。

夜になり、僕は母親と話し合うことを決め、家に戻った。



夜ご飯が終わり、家族は皆リビングにいたが、空気を読んでくれて2階に上がってくれた。


僕はとても緊張していた。

身体を少しでも突かれたら、今すぐにでも涙がボロボロ出てきそうな、
そんな状態だった。



「俺、さっきまで色々考えてたんやけど、やっぱり野球部辞めて俳優になるわ。」

「そんなことできると思ってんの?どうやってなるの?どこに住むの?」

「そんなこと東京行ってみたらなんとかなるやろ。」

「そんなわけないやろ。考え甘いねん。
 野球もやるって言ったん誰?あんたやろ?
 まだ4ヶ月しか経ってないのに、何が辞めるやねん!アホなこと言うな!」

「そんなこと言うんやったら、俺と同じことやってみろよ!」

「そんなことやってたら何やっても上手くいかへんな。
 こんな忍耐弱い子に育てた覚えはない。」

「じゃあ子育て失敗やな。俺なんて産まへんかったほうがよかったんちゃう?」

「。。。」

「こんなことになるんやったら俺なんておらんほうがよかったよな!
 だから明日から出て行くから、さようなら。今までありがとう。」



「。。。」



「。。。」



「なんでそんなこと言うの?
 ほんまに私がそう思ってると思ってるの?」



「。。。」



「。。。」



「。。。」




「リョウマ、ごめんな。全部私のせいやな。
 私がリョウマの学校でのこと聞いてあげれてなかったからやな。
 だからこうなったんや。全部私のせい。ごめん。」




「。。。」




「でもな、」




「。。。」




「でも中卒はあかん。やっぱり高校は行ってほしい。
 今まで野球やってきたんやから、その野球を通して色々学んでほしい。
 高校卒業したら俳優でもなんでもしたらいい。
 でも自分で決めた道を私はリョウマに最後までやり遂げてほしい。
 後3年だけやん。今まで野球人生長かったね。この高校生活で野球は
 もう終わりにするんやろ?だったら最後の3年間、やり続けてみたら?
 野球部引退したら友達と遊んだり、バイトしたり、彼女作ったりすれば
 いいやん。それが高校生やろ。高校生でいられるのは今しかないの。
 そんな人生で一回しかないチャンスをあんたは無駄にするの?
 もう一回戻って、また頑張ってみたら?
 私も全力でサポートするから。」



「。。。」



「。。。」




僕は涙と鼻水でボロボロになった顔のまま外に出ていった。



僕は嬉しかった。



母親があんなにボロボロに泣きながら、出てこない言葉を頑張って声に出して
僕に想いをちゃんと伝えてくれたことが本当に嬉しかった。 


僕のことをちゃんと想ってくれていて嬉しかったな。
そんな母が言うならもう一回戻ってみるか。
怒られることや、みんなに何か言われること、ひどい仕打ちを受けることなんて、
母のために。と思ったら大したことじゃない。 



暗闇の中で僕は一人、光り輝く母の愛を全身で感じていた。




翌日、

僕は逃亡用の自転車とカバンを持って一人でグラウンドに行った。



謝ること、怒られること、ずっと走らされること、正座をされることの覚悟は
できていた。




「おはようございます!
 この度はご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした!
 これからまたよろしくお願いします!!」




続く。。

Ryoma Kobayashi



 













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