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世界一周旅の最後の日。〜ロサンゼルス〜

日本から、夕日が沈む西の空に向かって旅を続けてきた。
何十回も飛行機に乗り、何十個ものホテルを転々とし、何十カ国もの国を歩き、見たことない景色に感動し、初めての体験に心を動かされ、僕は今、アメリカ、ロサンゼルスにいる。


ロサンゼルス ビバリーヒルズ付近 車内から

僕はこの場所で夢を抱き、これまで人生を歩んできた。
何もかも、この場所から始まっている。
初めてロサンゼルスに訪れたのは、僕がまだ8歳の頃。父親の仕事についてきた僕は、父の仕事の合間に色々な場所へ連れて行ってもらった。いつからか、僕が外国に憧れを抱いたのも、このとき初めて訪れたロサンゼルスに憧れを抱いたからだった。

僕はその後、3度この場所に訪れた。
自分の未来に悩んだとき、大切なものを思い出したいとき、そんなとき僕は、この場所へ来た。

カリフォルニアの夕日

いつまでも見ていられる風景。そんな風景がここにはある。
ロサンゼルスに来ると、僕は必ずここへくる。この場所で、夕日と夕日が照らす人々や建物を眺める。何もせず、自分の目の前にあるものをただ眺め、心に問いかける。
「これから自分はどんな人生を歩んでいきたいのか?」

あの夕日の方向には、日本がある。
ここから飛行機に乗り東京に着いたときには、僕は地球を一周したことになっているのだ。もうすぐ一つの大きな夢が叶おうとしている。そしてまた、新しい何かが始まろうとしている。僕がこの場所で夕日を見ているときはいつも、何かが終わり、何かが始まるときなのだ。

「日本に帰ったら、どうやって生きていけばいいのだろうか。」
夕日は答えを持っていない。
答えは常に自分の中にあり、夕日はその鏡なのだ。
旅はいつか必ず終わりを迎える。何度経験しても、僕にとってそれはとても辛いことである。このまま、またどこかへ旅に出たい、遠い遠いどこかへ。
どこかの国の新しい文化と生活に出会い、そこで出会う人間との会話を楽しみたい。もっと色々な場所で美しい夕日を見てみたい、震えるような感動に出会いたい。自分の心はそんなふうに言っている気がする。
その一方で、慣れ親しんだ場所でゆっくりしたい、家族に会いたいとも言っている気がする。
遠くへ行けば行くほど、移動をすればするほど、自分にとって大切なものに気がつける。それが旅なのだ。


旅の間、共に旅をした彼女とは色々なことがあった。喧嘩は何度もしたし、トラブルにもたくさん巻き込まれた。でもビーチに二人で座りながらその記憶を振り返ってみると、それはそれでいい思い出なのだ。
僕はたまに、自分が死ぬ直前、いったいどんなことを考えているのだろうかということを、考えることがある。死ぬ直前どんなことを考えているのか、それは本当にその日になってみないと分からないかもしれない。でもなんとなく僕は死ぬ直前に、自分が生きてきた過去の記憶を振り返るだろうと思っている。だから僕はどんな嫌なことであっても、辛かったことであっても、そのできごとが自分の記憶に残るのであればそれは、人生を深く色濃いものにしてくれる良いできごとなのだと思うのだ。
死ぬ直前に自分の人生の記憶を振り返って、5分で終わってしまったら嫌ではないか。せっかくなら、1日でも1週間でも1年でも、僕は自分の生きた人生を思い出していたい。

ロサンゼルスで僕たちが何をしたかというと、これといって何をしたわけでもない。広いロサンゼルスを車で回り、途中ラスベガスとサンディエゴにも行き、ハンバーガーを食べ、夕方になったらビーチへ行き夕日を見る。
毎日そんな感じだ。

この広いロサンゼルスのいくつかの場所には、僕の思い出がある。彼女とそこへ行き、僕はその場所の思い出を彼女に話す。
彼女は楽しそうに僕の話しを聞いてくれる。話している途中、僕はあることに気がついた。こんなふうに、思い出のある場所へ行き、過去の思い出を話すことで、僕はとても報われているのだということを。
海外旅行と聞くと、「楽しそう」と思うかもしれないが、何かを変えたいと思いながら行く「旅」というのは、決して「楽しい」だけではない。どちらかというと「楽しい」よりも「辛い」「怖い」「寂しい」のような感情の方が強く、そのような感情を味わいながら訪れた旅先での思い出は、圧倒的に暗いできごとのほうが多いのだ。
ロサンゼルスは僕にとって、初めて訪れたときを除いて、何かを変えたいと思ったときに来る場所であった。だから僕が彼女に話す、
「俺はあのときここでこれを眺めながらこんなことを考えていたんだ」という思い出話しのほとんどは暗いものであり、その話しを聞いたところで、楽しくなるようなものではない。でも今、彼女に自分の暗い過去の思い出話しをしている僕の感情は、「幸せ」なのだ。そんな暗い過去があって、今この瞬間が存在している。人生はオセロのように、暗い時間が長く続いたとしても、一つ幸せなことが起こるだけで、その暗かった時間が全て明るいものに変わってゆくのだ。それが、僕がこの世界一周旅の最後に学んだことであり、この旅一番の大きな学びだったと思う。

僕は日本に向かっている。また新しい人生がここから始まるのだ。希望に満ちた新しい人生は決して楽しいことだけではない。何事も、新しく何かを始めるときは辛いことがつきものなのだ。どうやって切り拓けばいいのかも分からない。何が起こるかも分からない。でも僕は未来またどこかで、幸せな瞬間が訪れることを知っている。そしてそれが訪れたとき、全ての闇は光に変わることも知っている。
僕たち人間ができることは、良いことも悪いこともただ一つ一つ積み重ねていくことだけなのかもしれない。その一つ一つの積み重ねが形となって人生となり、その人生を誰かと分かち合ったとき、その全ては報われるのだ。飛行機から離れてゆくロサンゼルスの街並みを眺めながら、僕はそんなことを考えていると、急にどこかで聞いた谷川俊太郎の詩が頭の中に浮かんだ。

どっかに行こうと私が言う
どこ行こうかとあなたが言う
ここもいいなと私が言う
ここでもいいねとあなたが言う
言ってるうちに日が暮れて
ここがどこかになっていく


この旅、最後の夕日。

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