嬉野の温泉旅館でビートルズのイベントを開催したら全国からファンが集結しました
こんにちは。「嬉野温泉 暮らし観光案内所」の編集長を務めております、ライターの大塚たくま(@ZuleTakuma)です。
2024年2月24日。旅館大村屋の北川健太さんが2019年からFM佐賀で継続してきた番組「レッツ!ビートルズ on Radio」のリスナーを集めたイベントが開催されました。
「佐賀のローカルラジオがイベントをやって、盛り上がるものなの……?」
そんな不安は何のその。現在はradikoの効果で全国にリスナーが存在する「レッツ!ビートルズ on Radio」。当日の会場には、佐賀県民だけではなく、関東から飛行機に乗って嬉野入りする方々も多数存在しました。
今回は、あまりにディープすぎる、当日の様子をお伝えします。
FM佐賀「レッツ!ビートルズ on Radio」とは
「そんな番組、誰が聞くんですか」
ぼくは番組のコンセプトを初めて聞いたとき、思わずそんなことを言ってしまったのを覚えています。失礼すぎました。
「レッツ!ビートルズ on Radio」は「ビートルズ初心者のパーソナリティー諸岡彩さんをビートルズ好きにする!」というのを目標にヘネシー吉川と旅館大村屋の北川健太が、楽しくかつ初心者にも分かりやすく、ビートルズをデビューシングルから年代順に紹介する番組です。
この番組のスゴイところは「ビートルズをデビューシングルから年代順に紹介する」というところです。ビートルズのヒット曲を抜粋してお伝えするのではなく、シングルB面の曲や、アルバムにしか入っていないマイナーな曲まで、余す所なく全曲お届けします。
番組は木曜20時半から21時までの30分構成。「1曲」にスポットライトを当て、その曲のバックグラウンドや、曲の制作過程をアウトテイクなどを流しながら伝えています。これも、アウトテイクが公式音源として多数発表されている、ビートルズだからこそできることです。
「……って、ことは"Revolution 9"の回があるってことですか」
ビートルズには「これを地上波で流していいの?」と思わされるような曲が何曲かあります。その筆頭が「Revolution 9」です。楽曲は全編効果音のコラージュ。歓声や叫び声など、様々な音が次々と流れ、なかなか不気味です。
ラジオはたくさんのドライバーが聴いています。エンジンかけた瞬間、こんなのが流れ始めたら怖すぎるんじゃないか。そんな心配を一切気にすることなく「レッツ!ビートルズ on Radio」は、"Revolution 9"を全編ノーカットで流すという偉業を達成しました。
そして、ついにビートルズの現役時代の213曲を全部紹介する偉業を達成。この213曲を紹介するまでの間に、番組は大きく成長しました。スタート当初は隔週放送でしたが、毎週放送に移行。FM佐賀のradikoで、もっとも聞かれているradikoコンテンツとなり、全国にリスナーを抱えることになりました。
続々と集まるビートルズマニアたち
開始時間が近づくにつれ、会場には少しずつビートルマニアが集まり始め……。
会場は最終的にはほぼ満席に。画角に入りきれない場所にも、お客さんはたくさんいらっしゃいます。まさか、こんなに集まるとは……。
こんなに集まって、いったい何をやるイベントなのか。ビートルズの楽曲を誰かが歌うわけでも、演奏するわけでもありません。みんなの前で、トークしたり、レコードを聞いたりするだけの会なのです。
今回開催された「”レッツ!ビートルズ on Radio” Live at THE OOMURAYA」の目玉ゲストは、藤本国彦さん。ビートルズ関連書籍の編集、執筆やイベント、講座などを手掛ける方で、ビートルズマニアの間では、超有名人です。
こんな方が「レッツ!ビートルズ on Radio」のイベントで嬉野にいらっしゃるなんて。贅沢すぎる……。
イベントはまず、3名でオープニングを再現するところからスタート。いつもラジオでやっているオープニングを生で披露し、会場からは大きな拍手が。
藤本国彦さんが登場し、さらに会場は大盛りあがり。既に温泉に浸かり、お酒を飲んだ後という藤本さんはかなりのリラックスモードでした。ここから、ディープなビートルズトークがスタートします。
今日は何の日?365日ビートルズ記念日
最初のコーナーは「今日は何の日?365日ビートルズ記念日」というもの。「365日ビートルズ」という藤本さんの著書から、その日が何の日だったのかをピックアップしお伝えするという、ラジオでも人気だったコーナーです。ビートルズは、本当にいろんな本があります……。
北川さんより、今日が何の日なのかが発表されました。
「1982年2月24日、グラミー賞で「ダブル・ファンタジー」が最優秀アルバム賞を獲得!!」
会場からは拍手が。ダブル・ファンタジーとは、ジョンとヨーコが制作し、1980年に発表されたアルバムのことです。
ジョン・レノンにとっては、5年ぶりのスタジアアルバムでしたが、発売後約1か月で殺害される悲劇が。このアルバムは、遺作となってしまいました。有名な「(Just Like)Starting Over」や「Woman」などが収録されている名盤です。
そんな中、会場の皆さんに紹介されたのは「Hard Times are Over」というヨーコの楽曲。まさか、ビートルズのイベントがヨーコの楽曲からスタートするとは……。
影が薄いこの楽曲ですが、この時代の状況を反映する楽曲です。
そんなヨーコのリアリストな一面も垣間見える歌詞に深みがあり、とっても魅力的な楽曲です。そして、せっかくなのでジョンの「(Just Like) Starting Over」も流して、みんなで聴きました。
聴き終わったあと、また「(Just Like)Starting Over」を聴いた感想を言い合います。こうやって、同じ音楽をみんなで聴いて、トークを聞くというの、けっこう楽しいかも……。そんなことに気づき始めました。
藤本国彦さんが今みんなと聴きたいこの4曲
ビートルズトークはさらにディープになっていきます。次のコーナーは「藤本国彦さんが今みんなと聴きたいこの4曲」。そのうち、1曲目として挙げられた「Love Me Do」を紹介します。
昨年始まった、ビートルズ最後の新曲「Now and Then」のカップリングに、デビュー曲の「Love Me Do」になったこともあり、そこから「永遠のループ」をしてほしいという願いも込めて……。
「Love Me Do」を前に、2人のドラマーが敗れ去っているのをご存知でしょうか。一人目はリンゴ・スターの前任のドラマーである、ピート・ベスト。
①Love Me Do (Anthology 1 version) ドラム:ピート・ベスト
この演奏を聞いた、ビートルズのプロデューサーであるジョージ・マーティンは気に入らず、このセッションから2か月後にピート・ベストを解雇します。
②Love Me Do (1962年9月4日バージョン) ドラム:リンゴ・スター
そして、やってきたのが、ご存知リンゴ・スターです。しかし、ジョージ・マーティンはこのリンゴの演奏にも満足しませんでした。厳しい。
③Love Me Do (1962年9月11日バージョン) ドラム:アンディ・ホワイト
そして、結局「Love Me Do」のドラムを叩いたのは、アンディ・ホワイトというセッションミュージシャンとして活動していたドラマーでした。
リンゴは苦い思い出が残る「Love Me Do」を、後年自身でカバーしています。
④Love Me Do (Ringo Starr "Vertical Man" Version)
そんな「Love Me Do」にまつわるストーリーを、藤本さんと一緒に振り返る超贅沢な時間が流れました。なんて、濃密な時間なんだ……。「Love Me Do」以外の3曲は以下の通り。
Hello Goodbye
Now and Then
こちらに関しては「よい Now and Then」を持ってきたというファンの方に、レコードを借りて再生されました。「よい Now and Then」はレコードに洗浄を施し、より音質をアップさせたものです。
Ding Dong, Ding Dong / George Harrison
最後にはジョージのソロ曲をみんなで聴き、このコーナーは終わりました。この段階で既に1時間半ほど経過……。
その後も「3年B組ヘネシー先生」で大盛りあがり
その後も楽しく、番組の名物コーナー「3年B組ヘネシー先生」を公開で実施。このコーナーはリスナーから届くお悩みに、ビートルズの歌詞から答えを導き出して答えるという不思議な企画です。
今回はこの企画に藤本国彦さんも参加します。藤本さんがどんな歌詞を引用して、悩みに回答するかは気になる……!
悩みの回答トークで、会場は大盛りあがり! ラジオではわかりませんでしたが、この企画ってこんなに盛り上がる企画だったんですね……。普段は聞こえない笑い声がたくさん聞こえてきて、たのしい空間でした。
お客様の持ち込みレコード自慢コーナー
その後は「お客様の持ち込みレコード自慢コーナー」。当日は、ビートルマニアの皆さんに、それぞれのお宝を持ち込んでいただき、みなさんの前で解説してもらうという、時間を設けました。
ちなみに「Please Please Me」のゴールド・パーロフォンはみんなで「I Saw Her Standing There」を試聴。今、ウラで演奏しているんじゃないかと思わされるような、ど迫力のサウンドに一同唸りました……。
さらにビートルズのコレクターとしても有名な吉川さんのお宝紹介に……。
次々に出てくる貴重なレコードやカセットテープに一同、興味津々。こういう話って、楽しいですよね。「本でしか見たことない!」とかワーワー言いながら、みんな熱い視線でお宝を見つめていました……。
イベントは当初の2時間を大幅にオーバーし、約3時間で終了。参加者は口々に「あっという間だった」と話すくらい、とても楽しい時間でした。
終了後も、旅館大村屋の中はビートルズファンでワイワイガヤガヤ。
1階の「Music Bar OOMURAYA」で、お酒を飲みながら、ビートルズ談義に盛り上がりました。みんなとっても楽しそう。イベント後も会場で楽しみ続けられるのは、旅館だからできること。帰りの時間も気にせずに、ビートルズのことだけを考える楽しい夜は更けていくのでした。
ビートルズから始まる「楽しさ」のバトンリレー
旅館大村屋では、これまでも音楽イベントはたくさん開催してきました。しかし、そのどれもが「演奏」を伴ったものでした。今回は演奏のない、音楽イベントに初めてチャレンジしたのです。
言ってみれば「アーティスト本人が登場せず、誰も演奏せず、調べればわかるような情報を話すだけの会」だったわけです。それが、なぜこんなに盛り上がりうまくいったのか。
それは、何よりも開催する側が楽しんでいたからじゃないかと思います。
楽しさは、伝導します。あなたが楽しめば、わたしが楽しい。そして、わたしが楽しければ、ほかの誰かが楽しいかもしれない。それがどんどん伝わっていって、和が広がっていくのです。
そういえば、ビートルズも楽しそうでした。
仲良し4人組が、音楽を全力で楽しんで、世界を変えていった。この楽しさの最初の根源をつくったのは、ビートルズなんです。楽しさのバトンリレーが、2024年の今、佐賀県は嬉野温泉の旅館大村屋に行き着いただけなんだと思えました。
ぼくらが、ビートルズを楽しめば、そこにビートルズは存在する。そして、幸せになれる。ぼくらには、ビートルズがある。そんなふうに思えた、幸せな夜でした。
「毎年恒例にしよう」という声が多く出ていたので、また来年の開催に期待したいです。
「嬉野温泉 暮らし観光案内所」次回もご期待ください。