見出し画像

ペット用家電をつくる。第2話「もうひとりの愛猫家」

プロダクトデザイナー小宮山洋さんによる、ペット用自動給餌器のデザインプレゼン当日。当時、製品名はまだ仮案で、私が考えた製品名候補の中から「ペットと飼い主に親しみやすい存在であってほしい」との想いでネーミングした、「ペットリー」という仮名で呼んでいました。

小宮山さんが用意してくれたデザイン案は3つ。どの案もこれまでのペット用自動給餌器にはないフォルムで、案を見るたびに「おぉ!」とその場にいたメンバーから歓声が上がりました。その中から、私は最も簡潔でRの効いた、柔らかなフォルムが印象に残る、小宮山さんらしい美意識が宿った案を選びました。

画像1

ご提案後、小宮山さんには採用したコンセプト案をブラッシュアップして頂きながら、その間、私は製造委託先を探すというフェーズへ突入しました。製造委託先のコネなどあるはずもない私が取った行動はズバリ、

とにかく、ググる(笑)

“家電 製造” といった感じで、グーグル検索しながら、良さげな企業に問い合わせフォームから連絡したり、電話で問い合わせもしましたが、取れたアポはたったの1件。6年営業してきた自信は一瞬で打ち砕かれました。過去の自分がアポを取れたのは、お世話になった会社のブランド力や信用があってこそだったんだと痛感しました。

なんとなく想像はしていましたが、これはさすがに困ったなぁと落ち込んでいると、小宮山洋さんのマネージャーさんが、10社ほど知人がいる製造委託先をリストアップしてくださり、アポイントを取ってくださったのです。

いざ、商談へ

どの商談にも私と小宮山さん、小宮山さんのマネージャーで訪問しました。私の事業にかける想いや、デザインの意図など伝えましたが、どの企業の担当者も皆、渋い表情。当然かもしれません。創業してまだ1ヶ月の会社で、34歳の若造社長。資本金は家電をつくるって言うのに、たった200万円。キャリアも全くの素人。当時の小宮山さんもさすがに家電の量産経験はなく、私たちには相手を安心させるような経験など持ち合わせていませんでした。猫は可愛いですよねぇとアイスブレイクで盛り上がったとしても、話が進むにつれ、相手の表情も変わり、

どの会社も、同じ質問をされました。

ところで、御社は資金をお持ちですか?ちなみに家電をつくる予算ってご存知ですか?
初期ロットは何台製造するおつもりですか?年間製造台数は?
1台あたりの原価はおいくらでお考えですか?

聞かれて当然とも言える質問に答えてみたものの、反応は皆、とにかく薄い。翌日の朝にはお断りのメールが届くといった、当たり前とも言える現実に直面しました。

しかしながら、商談件数をこなすにつれ、プレゼンの勘所も掴んでくるようになりました。商談後にわからなかった専門的な用語も帰宅後に調べて理解したりして、徐々に学習していきました。ところが、気づいたら残すはあと2社。この2社に断られたら、また新たに探さなければなりません。

残す2社は、大田区のOEM会社と長野県の精密機器メーカー。アポイントの都合で、先に大田区の会社へ商談しました。お相手の代表の方は、製品に対するアイデアもアドバイスしてくださったり、好意的に接していただきました。結論は社内検討するとの回答に終わったものの、相手から連絡が来ることはありませんでした。

そしてとうとう、最後のアポイント先である長野の精密機器メーカーSへ。商談には役員、エンジニア2名と営業担当1名という方々に集まっていただきました。これまで通り製品デザインや機能を伝えると、突然前のめりになって、エンジニアからアイデアが飛び交い、何だかこれまでと全く違う反応。エンジニアの方々も頭の切れる優秀な人たち。現状の課題はこうで、この機能は実装可能だけど、ここは難易度が高いなどといった感じで、既に一緒にこれからやることが決まったかのような意見をくださったのです。しかしながら、目の前に座る紳士的な雰囲気を持つ役員の方の表情だけは冴えません。今までにないほど好意的な雰囲気の中、やはりお決まりのあの質問です。「この件の資金は、どう手配するおつもりですか?」と。

すかさず私は、「既に投資家とのツテがあり、資金は問題なく準備できます。」と答えてその場を過ごしました。今でこそ言えますが、

実際は、そんなツテなどありませんでした。

その後、役員の間で出された結論は、やはり見送り。万事休す。

ところが、今回はここで終わらなかった。S社のエンジニアたちが役員の反対を押し切って、S社の社長へ直談判に踏み切ってくださったのです。(実はこのエピソードは、量産品出荷後の懇親会で初めて聞きました。)

その尽力もあって、まさかの奇跡が起こりました。

なんとS社の社長は、猫と暮らす愛猫家だったのです。

エンジニアが自分たちで作成してくれた資料を社長へプレゼンすると、「それ欲しい。いいものを作りなさい。」の一言が後押しとなり、承認を取ってくださったのです。

その後、S社の営業担当者からペット用家電製造委託と設計を引き受けてくださるとの連絡を聞いたときには、あまりの嬉しさに小宮山さん、マネージャーとすごく喜んだことを今でも鮮明に覚えています。

この嬉しい知らせを聞いた数日後、私はペット用家電の名前を正式に、

『PETLY(ペットリー)』と名付けることを決めました。


つづきます。


この記事が参加している募集

猫のいるしあわせ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?