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【連載・読書】今日は日本文学を読もう-夏目漱石編-文学への第一歩『坊ちゃん』

連載:③ 今日は日本文学を読もう。

あらすじ

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている――。
歯切れのよい文章のリズム、思わずニヤリのユーモア、そして爽快感。マドンナ、赤シャツ、山嵐…、登場人物もヒト癖、フタ癖。自身の体験をもとに描く、漱石初期の代表作。

松山中学在任当時の体験を背景とした初期の代表作。物理学校を卒業後ただちに四国の中学に数学教師として赴任した直情径行の青年“坊っちゃん"が、周囲の愚劣、無気力などに反撥し、職をなげうって東京に帰る。主人公の反俗精神に貫かれた奔放な行動は、滑稽と人情の巧みな交錯となって、漱石の作品中最も広く愛読されている。
近代小説に勧善懲悪の主題を復活させた快作である。

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1.『坊ちゃん』との出会い

僕が初めて「夏目漱石」を読んだのは中学一年生のころ。
近所の小学校が合流して中学校の新しいクラスとして編成され、ドキドキとワクワクで胸がいっぱいだった。
朝の時間はオルゴール調でジブリの映画音楽がBGMで流れていたのを今でも覚えている。

「朝の読書」をしましょう!10分間の読書は頭を活性化させます!
とのことで、始まった朝読書の時間。
そんな僕が選んだのがこの夏目漱石の『坊ちゃん』

馴れないクラスの雰囲気、静かな教室で読むこの本が好きだった。
「坊ちゃん」が新任の教師として新しい学校に赴任する事も、当時の僕とリンクした。
そして当時やっていたNHKの朝ドラも新任の先生が主役だったから、偶然とはいえまわりが新学期一色だった。

しかし、はじめのうちはみんな集中して本を読んでいたが、友達ができてくると本をほっぽり出して友達との話に夢中になった。

そんなぼくもそのうちのひとりだった。
本を読むペースも次第に落ち始め、確か読み終わったのが秋ごろ。
実に予想外なオーバーペースだったが、この「坊ちゃん」を手にとったときの気持ちの「みずみずしさ」は今でもちゃんと覚えている。


***

2.『坊ちゃん』との再会

この『坊ちゃん』を読み返したのはつい最近である。
これまで漱石は初期三部作を読んできて、そのあとにまたこの本を手に取った。
バンドのツアー先のカプセルホテルで読んだ。
そのときはなぜかマイケルジャクソンの「This is IT」がテレビで流れていて一緒にみたので、なんか変な感じだった。

これは読書あるあるだが、子供の時に読んだ時と大人になって読んだ時の印象がだいぶ違うのである。

中学の時に読んだ印象としては、
痛快で、かたっ苦しそうな夏目漱石の本だけど、なんだ、かなりキャッチーじゃないか。多少わからない言葉もそれはそれで面白いし、同僚にあだ名を付けるなんてユーモラスでおもしろいなあ。
と感じた。

しかし大人になって読んでみると
これは社会の縮図だ。
もしかして坊ちゃんはこの社会に「負けた」のかもしれない…。
と感じるようになった。

*****

3.ざっと要約

坊ちゃんは親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。
母も父も亡くなり、あまり仲の良くなかった兄から遺産を分けてもらい離散する。
そのお金でどうせならと進学し、教員となる。
のち、愛媛の松山へ赴任。
気性の荒い坊ちゃんは初日からイキる。
同僚教師に心の中であだ名をつける。
温泉に行ったり天麩羅喰ったりしてると、次の日なぜか生徒に知られている。
田舎の村社会とは恐ろしいモンだゼ。
ある日宿直で学校に泊まったら寝床にバッタがたくさん入れられてやがる。
バッタを入れるたぁ何だ?!と生徒を怒鳴りつけたが、
「そりゃイナゴぞな、もし」
とおれを馬鹿にしやがる。てやんでい。

教頭の「赤シャツ」とその取り巻きの「野だいこ」が特に気に食わない。
裏表があって、厭味ったらしい。
どうやら諸々、裏で手をくすねているのはあいつ等らしい。

気が弱いが誠実な「うらなりくん」の結婚相手を横取りしてうらなりくんを宮崎へ左遷させたのもどうやら赤シャツのせいらしい。
同僚の「山嵐」はまあ信頼できるヤツだ。
赤シャツは騒動を起こさせて、ついに我々を辞めさせようとしやがった。

もう我慢ならねえ…。

山嵐と一緒に待ち伏せし、赤シャツの悪事の現場をついに抑える。

ボカンと殴って坊ちゃんと山嵐は国へ帰る。

ちゃんちゃん。

*****

4.「坊ちゃん」は負けたのか?

一見、悪を成敗したかのように思える結末。
はたして本当にそうだったのだろうか?

赤シャツは今後も学校に存在し、自分の都合のいいように悪事を働くだろう。
対して坊ちゃんと山嵐は辞職し、実際には赤シャツに何もダメージを与えていない事になる。(物理的には与えたが)

「こんなところでやってられるか!ボケ!」となってしまった坊ちゃんだが、「正直者はバカをみる」の典型だったのではないだろうか。

「無鉄砲で損ばかりしている」坊ちゃん。
それも自分でわかっているのがまだ救いであるが、決して「悪は滅びる」ところを書いていないのが、漱石。
現代でも、よく職場や学校でも同じ境遇の人や同じ経験をした人もいるのではないだろうか。
「なんでこっちが折れなきゃないねん!」ってね。

そんな中でもこの作品が「痛快」と言われるゆえんは、やはり坊ちゃんのピュアさというか、良くも悪くも一本気のところかな。
現代ドラマの主人公って、時代背景や設定は違えど、根底は坊ちゃんみたいな性格なのだから、様々な作品のルーツにもなっていると感じるよね。

「野だいこ」「~でげす」口調はこの坊ちゃんが走りであるらしいしね。
恐るべし、漱石。

「キャラ設定のスタンダード」を明治時代で作ったのだよ。

*****

5.清(きよ)の救い

坊ちゃんを語るうえで絶対に外せないのが女中であった清の存在であろう。
清は坊ちゃんの幼少時代から、ただ一人ずっと味方でいてくれた。

気性の荒い坊ちゃんも、清にだけは母親のように接する。
赤シャツとの闘いに敗れて帰ってきた坊ちゃんは
「清、帰ったよ」
とそのあとは一緒に暮らす。
死後は一緒の墓に入るつもりだという。

この清の存在は坊ちゃんの作品のなかで優しいアクセントとなっている。
やさぐれた坊ちゃんも、清の存在が心のどこかにあったおかげで、「帰る」という選択肢があったのかもしれない。

*****

6.まとめ

「坊ちゃん」は夏目漱石の作品の中でも非常にとっつきやすく、読みやすい、文学小説のなかでも入りやすいものである。

夏目漱石の作品を最初に読むとしたら、あまりにも有名なタイトルである「吾輩は猫である」や、超代表作である「こころ」を手に取りがちだが、入門編にはもってこいの本がこの「坊ちゃん」である。

難しく考えず、明治時代の背景を感じながら、すべての物語の「元祖的」役割をはたしているキャラクター活劇を存分に感じたい。

もちろん小学校のお子さんにもおすすめです。

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