誤報!?ブラックホールの写真が真実ではない可能性を解説
こんにちは、りょーです。
いきなりですが、ブラックホールの写真に誤報の可能性が出てきました!!
ブラックホールの写真が取れたと話題になって1年近くが経とうとしています。
世界一斉に記者会見をして(日本は夜10時!)、翌日の新聞の一面やニュースでも散々取り上げられたアレです。
しかし最近、国立天文台の三好真さんによって、それが間違いではないか、という指摘が出ています。
理研でブラックホールシャドウ関連のセミナーが開催される折に、研究室内でこの話題になったので、ここにまとめておこうと思います。
ブラックホールの撮像、まだ先。
三好さんのTwitterのタイトルをそのまま使わせていただいた見出し。
結論からいうと、ブラックホールのイメージは、天体からの信号を集める過程で生じたサンプリングバイアス(情報の偏りのようなもの)によって、円に見えているのでは?ということです。
つまり、世界が驚愕し、技術発展スゴイ!!となったあのニュースがフェイクの可能性が出てきたんです!
そもそもどういう星なのか。
「M87」という名前の銀河です。
私たちがいる天の川銀河のように、星が密集している銀河で、中心にブラックホールが存在します。
ブラックホールは、中心に巨大な重さを持つ天体です。名前の通りだと「穴」のように感じるかもしれませんが、実際は光が出れないぐらい強い重力を持つ物体があることから、真っ黒で見えないわけです。
まぁ光にとっては、抜け出せない穴に見えるとは思いますが。
この中心のブラックホールの重さは太陽の65億倍にも及ぶ「超大質量ブラックホール」と呼ばれるもの。
場所は乙女座あたりにあります。馴染みがある名前が出ると親近感がわきませんか?笑
地球サイズの望遠鏡ってなに!?
ブラックホールの写真で注目を集めた「地球サイズの望遠鏡」。
イベント・ホライズン・テレスコープという名前で、世界中の様々な場所にある望遠鏡を組み合わせて、それぞれがとった信号を一つの画像に焼き直すことで「仮想巨大望遠鏡」を実現したのです。
この視力は人間の視力に換算すると「300」!!
この視力であれば月表面に置いたゴルフボールを見分けることができるレベルです。
今回のブラックホールの撮像に関しては、APEX(チリ)、アルマ望遠鏡(チリ)、IRAM30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(米国ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)です。
得られたデータの総量は数ペタバイト(100万ギガバイトw)にもなり、これらはドイツのマックスプランク電波天文学研究所とアメリカのマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に設置された専用のスーパーコンピュータで処理されました。
このような国際連携で、なおかつ世界中の研究者が協力して画像を作成した一大プロジェクトでした。
この中で、実は画像が誤報ではないのか、と異を唱えたのが三好さんでした。
さて、こんな大発見の穴を見つけたのは、いったいどんなきっかけだったのでしょうか。
イメージ上に見える謎の尻尾
三好先生が興味を持ったきっかけの一つが、ブラックホールの写真にぼんやりと映る4本のしっぽ。
この尻尾が画像上の左上から右下に伸びているなぁということだそう。
これを直線で結んであげると、こんな感じ。
この線の幅が、撮られたブラックホールの大きさと一致することがわかりました。
これだけだと偶然に見えますよね。
しかし、ブラックホールの形が見えてくる前の、生のデータと重ねて見るとこんな感じ。
伸びていた尻尾の向きと、元画像の模様の伸びる方向が一致しています。
こういった一致を偶然とは片付けられない、真実とされていることを疑う姿勢には脱帽です。。。
有名なジェットが見えない謎
もう一つのきっかけは、撮影したこのM87という天体が持つ有名な「ジェット」が写真に写っていないことです。
ブラックホールには、強い重力で物を吸い込む一方で、光速の99.99%以上の速度で物質を噴射する「ジェット」と呼ばれる機構があります。
ブラックホール撮像で観測の対象になった「M87」は、このジェットが観測されたことで有名な天体です。
そのジェットが見える画像がコチラ!!
こんな感じである領域から、噴き出している筋が見えますね。
しかし、このように明らかに存在することがわかっているジェットの様子が、今回の画像には全く見えていません!
単純に、このジェットの様子がなんで見えていないのか?
解析の途中で、何か変な処理がされているのでは?というのが三好さんが興味を持ったきっかけだそうです。
言われてみると、たしかに有名な構造が見えていないのは不思議に思いますよね。
これらのきっかけを元に、三好先生は解析を進めていったそうです。
そもそもデータがないからドーナッツ型に見える
上でも書いたように、今回のブラックホールを撮影するのに使ったのはイベント・ホライズン・テレスコープ。
世界各地のバラバラの望遠鏡を用いて測定をしていました。
それぞれの観測機で獲得できる情報はバラバラで、それらを組み合わせて一つの図にまとめていました。
その情報のバリエーションをまとめたのが下の図です。
色毎に別れています。
縦軸にはそれぞれの信号の強度で、横軸は観測した信号の種類を表していると思ってください。
そうすると、強度高く観測できている点と、そうでない点とでバリエーションがあることがわかります。
以下が最も重要な図です!
縦軸には取得したデータサンプル数、横軸はデータが持つ画像上での幅のようなものを示しています。
この画像から、だいたい40あたりの信号が乏しいことがわかりますね!
実はこの欠如しているデータの部分こそ、今回のブラックホールで見られたリングの幅に相当します。
つまり、ブラックホールのリングはこの大きさでした!と報告された元のデータをみると、そこのデータがごっそりないことが明らかになったのです。
それでは、実際に取れる画像を確認してみましょう。
これは私たちが見たことがある画像よりも前の処理段階のものです。
そうすると、真ん中に黒い信号が少ない像が浮き上がって見えてきます。
このように、「情報がない」ことで、まるで真ん中に丸い構造が「あるように見える」現象が起きています。
これはすごい発見ですよね!!
まだ論文化はされていないようですが、この論文が受理されれば
世界を騒がせたあのニュースが誤報である可能性が強まることになります。
今後の天文業界での動きからは目が離せませんね。
以下には、情報の欠如が招く間違った答えの一般的な例を一つ残して見ます。
こちらも三好先生の資料を参考にさせていただいています。
情報の欠如が招く誤解
実際に「測定できていない」ことと「起こりえない」ことの間には、非常に大きな隔たりが存在することを三好さんは示唆しています。
これについて、わかりやすい例が紹介されていました。
まず一つは墜落する飛行機を減らすためにはどうすればいいのか、という議論です。
下の画像は戦争時に、基地に帰還した飛行機が受けた銃弾の位置を集積した画像です。
この情報から、「飛行機のどの部分を強化すれば墜落しないか?」という対策を行うことを目的としていました。
ぱっと見、銃撃を受けた部分を補強すればいいように見えるかもしれません。
本当にそうでしょうか?
実際は、墜落した飛行機は帰還できていません。さらに銃撃を受けていないのはコックピットやエンジンが搭載されている部分。
つまり、コックピットやエンジンは打たれていないわけではなく、そこを打たれた飛行機はもれなく墜落していることを意味します。
このことから、「帰還した飛行機」だけを見ていると、誤った結論にたどり着いてしまう可能性があるわけです。
これと同じことが、今回のブラックホールの画像でも言えるのではないか、ということが今回の結論です。
真ん中の黒い穴に見えるのは、「穴が存在している証拠」ではなく「穴かどうか定かではない点」であると言えるわけです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
この発見は科学者が「当たり前を疑う」という姿勢を全うしたことで見つかった非常に興味深い事例です。
実際に重力波初検出のときにも間違った答えが導き出されたことがあったそう。
最新の研究は、人間が到達できるギリギリでの勝負なので多くの研究者が見逃す可能性があるちょっとした誤りも含まれる可能性があるんですね。
身の回りにあるものが、なぜそうなっているのか、なぜここにあるのか、といった疑問を持つことは重要なのかもしれませんね。
研究者の卵である自分も、こういった姿勢を見習いたいと強く思わされる内容でした。
(※本記事は三好さんのTwitterでの経緯を、私の理解を添えてまとめさせていただいております。私の誤った理解、誤解を招くような表現がありましたらご指摘いただけると幸いです。)
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