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不死の狩猟官 第13話「発動条件」

あらすじ
前回のエピソード

黒い魔女は床に転がった血だらけの男の生首の上に座りながら、迫りくる壬生に向けて片手をかざす。

黒い魔女「シャーク」

刹那、死体のように青白い手のひらから、デロデロに腐った三匹の鮫が大口を開けながら壬生に向かって勢いよく飛び出す。

鮫の不死者 Copyright © 2023 不死の狩猟官


壬生はすばやく三匹の鮫を斬り捨て、黒い魔女の懐に飛びこむ。
次の瞬間、大太刀が黒い魔女の心臓を貫く。

壬生「やったか?」
黒い魔女「言ったでしょ。君じゃアタシは殺せないって」

無造作に伸びた白銀の髪が妖しくうごめく。
刹那、無数の白い蛇に姿を変え、壬生に襲いかかる。

壬生「──!?」

すばやく鞘に大太刀を納め、腰を落とす壬生。
居合から神速の斬撃を繰り出す。
うじゃうじゃと押し寄せていた白い蛇の首が瞬く間に床にどさりと転がる。
しかし、先ほどまで壬生の目の前にいた黒い魔女の姿が見えない──いや、背後に立っているではないか。

黒い魔女「へー意外にやるんだね」
壬生「いつの間に──」
黒い魔女「でも、アタシは彼に興味があるんだ」

カエルと化した霧崎の片足をつまみ上げながら興味津々に見つめる黒い魔女。
壬生は不覚にも黒い魔女に背後をとられただけではなく、霧崎まで奪われていたことに気づく。

壬生「霧崎君……!?」

黒い魔女はカエルと化した霧崎を見上げながら不気味にほほ笑む。

黒い魔女「原初の不死者は君の死を望んでる。だから死んで欲しいんだよね♡」
霧崎「またそれか。だが、あいにく俺は死なねぇよ」
黒い魔女「あはは。本当にそうかしら」
霧崎「あぎゃぁぁぁ!?」

とつじょ室内におぞましい絶叫がこだまする。
黒衣の魔女は引きちぎったカエルの片足をつまみ上げ、子供のように無邪気な笑みを浮かべる。

黒い魔女「君はただのカエルになったんだよ♡ もう不死じゃないの」

黒い魔女の注意がよそに向いているこの隙を壬生は見逃さない。
すかさず敵の懐に入りこみ、居合の構えをとる。

壬生「霧崎君は返してもらうよ」
黒い魔女「邪魔しないでくれるかしら? 君には興味がな──」

きんと冷たい納刀の音。黒い魔女の首と四肢が無惨に打ち上がる。
しかし、バラバラになった肉塊は不思議なことにすぐさま形を変え、無数のカラスとなって部屋を舞う。

壬生「斬っても刺しても死なないか……」

まるで黒い嵐のように見えるカラスの大群の中から、黒衣の魔女がすたりと地面に舞い降りる。その手にはカエルと化した霧崎が握られている。

霧崎「なんでだ。足が治らねぇ……」
黒い魔女「言ったでしょ。君は今ただのカエルだって♡」
霧崎「んな話、信じるかよ」
黒い魔女「まだ分かんないんだ。じゃ、次は腸を出してみよっか」

カエルとなった霧崎をひっくり返し、でんぶりと膨らんだ腹に鋭く尖った爪を突き刺す黒い魔女。

霧崎「──!?」
黒い魔女「え? なによ、これ……」

不可解なことが起きた。
黒い魔女はカエルと化した霧崎のどてっぱらに風穴を開けたはず。しかし、どういうことだろうか、どてっぱらに大きな風穴を開けたのは黒い魔女のほうではないか。
しかもだ。今まではいくら刺しても斬っても、一滴の血も流れなかったのに、いまは腹からおびただしい血を流しているのだ。



壬生はまったく見たことがない奇妙な構えをとっていた。
胸の前にて血ぬれた大太刀が真横に寝かされている。攻撃というより防御の姿勢に見える。
柄を握っている片手の親指からは血がポタポタと滴り落ちている。

壬生「どうやら間に合ったみたいだねぇ」
黒い魔女「血殺術……!?」
霧崎「身体が元に戻った」

黒い魔女の手から飛び出し、床に手をつく霧崎。
先ほどまではカエルの姿だったのに、いまは元の身体に戻っているではないか。幸い、失った片足も元に戻っている。
壬生は中段に大太刀を構え、黒い魔女に視線を向ける。

壬生「なるほど。本体は別のどこかに隠れているってわけか。いくら斬っても刺しても死なない訳だねぇ」
霧崎「どういうことすか?」
壬生「彼女の能力は他者だけではなく自己すらも別の生物に変えられる」
霧崎「つまり、本体は別の生物に擬態して隠れてる……」
壬生「もっとも、僕の血殺術は本体に届いているみたいだけど」

黒い魔女は血色が悪い下唇に指をあて、モノ欲しそうに壬生を見つめる。
先ほどまでどてっぱらに空いていた大きな風穴はすでに塞がっている。

黒い魔女「あはは。まさかアタシが一撃もらうなんてね。君もコレクションに加えたくなっちゃった♡」
壬生「そりゃあ、どうも」

霧崎は黒衣の魔女の足元に転がる不死殺しの刀に目を落とす。

霧崎「先輩、本体は俺が探して斬ります」
壬生「そいつはいいね。それじゃあ任せたよ」
霧崎「りょーかい」

床に転がる不死殺しの刀に向かって勢いよく駆けだす霧崎。
黒い魔女はすかさず霧崎に向けて片手をかざす。

黒い魔女「クロコダイル」

刹那、死臭がただよう腐った二匹の鰐が白い床から飛び出し、霧崎の足元に食いかかる。

霧崎「よっと」

大きく跳躍して、鰐の頭を乗り越える霧崎。
黒い魔女は口の端を上げ、意地悪い笑みを浮かべる。

黒い魔女「かかった」
霧崎「な!?」

まるで霧崎がジャンプして回避することが分かっていたかのように、着地点からもう一匹の鰐が飛び出し、霧崎の片足にがぶりと喰らいつく。
壬生は再び大太刀を胸の前に寝かせる。
血ぬれた刀身に黒衣の魔女の姿が映る。

壬生「弾け」
霧崎「──!?」

再び奇妙なことが起きた。鰐に噛まれたのは霧崎のはず。

黒い魔女「なんなのよ、これ……」

しかし、どういうことだろうか、床に崩れたのは黒い魔女のほうだ。
片足はちぎれ、断面からはだくだくと血が滴り落ちている。



霧崎はすぐさま不死殺しの刀を拾い上げ、壬生を一瞥する。

霧崎「助かった……だが、なに起きてるんだ」

黒い魔女は何事もなかったかのようにゆっくり腰を上げ、感嘆のため息を漏らしながら壬生に視線を向ける。
驚くべきことに、失われた片足はすでに元に戻っていた。

黒い魔女「なるほどねー。鏡みたいに反射させることができれば、対象物に特定の現象を返すことができるって感じかな。でも、その発動条件のせいで出だしがちょっと遅いのよね」
壬生「あれれ、そこまでバレていたかい」
黒い魔女「あはは、分かるわよ。だって、君。必死に刀身に私の姿を映りこませようとしていたもの。能力者同士の戦いは発動条件の読み合いが重要なのよ」
壬生「そいつは勉強になるねぇ。でも、そういう君も触れた者しか変化させることができないみたいだけど」

黒い魔女は楽しそうにくすりと笑い、壬生に向けてゆっくり手のひらをかざす。

黒い魔女「決めた。まずは君から殺してあげる♡ おいで、魔猿」

黒い魔女の手のひらから黒い靄が生まれる。
次の瞬間、黒い靄の中からおぞましい一匹の大猿が姿を現す。

魔猿「ァァァァ」

体長ニメートルはあろうか。頭はない。血まみれの首元には錆びた刀が深々と刺さっている。手には苦しそうにうめき声をあげる男の生首。明らかに常軌を逸している。
壬生は血ぬれた大太刀を下段に構え、不気味な獣に向き合う。

壬生「二対一か。さすがに力の出し惜しみをしてると死にそうだねぇ」
黒い魔女「大丈夫だよ。すぐに殺さないから安心して♡ さあ、始めましょ。一方的な虐殺を」

黒い魔女 Copyright © 2023 不死の狩猟官


第13話「発動条件」完
第14話「真価」


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